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RACRIMOSA ~異世界来る前からチート持ち~  作者: 夜光電卓
第一楽章 異世界来る前からチート持ち
14/49

♯14 冒険者寮バガボンド

第十四話です。

誤字脱字の報告、感想等ありましたらお待ちしております

次回は月曜に更新したいと思います>>



「違う――この(ヒト)は此処にいちゃいけない人だ――」


 奏吾が彼女にそう思ったのには二つの理由があった。

 一つには此処が有象無象の冒険者が寝起きをする冒険者寮であり、荒事や何が起こるかわからないそんな場所だった。

 彼女はその寮母だったからだ。

 白髪にふっくらとした容姿、アゴ下の肉はたぷたぷと揺れ、眼鏡の奥にある穏やかな眼差しは菩薩と言うより、仏のようだとその老婆の姿に奏吾は癒しさえ感じてしまった。

 そんな老婆、アンジー・ギライトが穏やかに優しく、冒険者寮という荒くれ者の巣で奏吾を出迎えたのだ。


『こんな危ないところに、こんなお婆ちゃんがいちゃ危ない――』


 と、思ったのが一つの理由。そしてもう一つが、この寮に来るまでにリックに聞いた冒険者寮の説明だった。


 現在、ハルシャの冒険者ギルドが管理している冒険者寮は三つある。それぞれの寮に何か特別な特色がある訳でも無く、動物をモチーフにした紋章を飾ってる訳でも、帽子に寮を決めてもらう訳でも無いのだが、奏吾にはどうにもこのそれぞれの寮の名前に、違和感を覚えていた。

 いや、正確には違和感ではない。むしろ、聞き覚えがあったと言った方がいい。


 スラダン、リーアル、バガボンド。


 奏吾にはどうしても、かつてバスケットボール漫画で大人気になった、とあるマンガ家の名前が頭をよぎった。


 っていうか、有名な作品タイトルいじっただけじゃん。スラダンなんて略称だし、リーアルってハイフン入れればいいと思ったの? って最後のバガボンドにいたっては何にも変えてないじゃん――。と思わず奏吾がツッコミを入れたくなったのも仕方がない事であり、どうしてもあの似非医者が何か仕組んでいるとしか考えられなかった。


 そして奏吾は自分の住む寮へとやって来たのだ。冒険者寮『バガボンド』へと――。


「って、このお婆さんが寮母さんだとしたら『スラダン』の方だろ――!」


 と言うのがもう一つの理由だった。



「フォッフォ――、じゃぁ今日からでいいんだね。一日、三千At。炊事洗濯掃除なんかは自分でやるんだよ。キッチンと台所、それから浴室にトイレも全部共用。ベッドなんかの調度品も自分で用意して――って言いたいところだけど、今朝ほとんどの住人が退寮してねぇ、重いもんはこっちで処分してくれって言われてるから、好きに使っていいよ」


 老婆は言い終えると、またフォッフォッフォッフォと笑う。

 

『どうしてもあの先生にしか見えない。ってか名前もアンジーってなんか無理やりもじったような名前だし……これは異世界だと思ってたけど、ゲームの中だという仮説も急浮上してきたぞ』


 と、奏吾はアンジーの説明を受けながら心の中で思っていた。


「部屋は、一応昨日の時点で入れていた予約通り五階の510号室。いいかな? まぁ他もほとんど空いてるから、好きなところ選んでもいいけど」


「あっ、えぁっ、ハイ。大丈夫です。特に問題ないです」


 先生、バスケがしたいです――なんて思っていた所に質問され、奏吾は思わず変な答えをしてしまった。

 というか、どうせなら低い階の方が、エレベーターの無いこの世界では良かったのだが、言ってしまったもの仕方なく、奏吾はアンジーから部屋のカギをもらう。すると一緒に来ていたリックが契約できましたとばかりに手を叩く。


「さてさて、それじゃぁ寮の宿泊代は、ギルドで説明した通り口座から引き落とすって事で大丈夫かな?」


 奏吾は口座を作ってる時に、現金払いの他に冒険者ギルドに講座を持ってる冒険者は引き落としができるという説明を受けており、既にその手続きを済ませている。

 なのでリックが改めて聞いたのは、アンジーにも了解してもらうことと奏吾への最後の確認だった。


「はい――。大丈夫です。今日からよろしく――」


 その時、寮の管理人室の扉が開かれた。三人の視線がその扉へ向くと、リックがいち早く『ヒィッ――』と小さな悲鳴を上げた。


 扉から入ってきたのは二人だった。一人は赤いコートに着物のような合わせ衣装。頭にはターバンのような帽子をつけている四十代ぐらいの男で、背中にはバスターソードのような大剣を背負っている。

 問題はもう一人の方だった。筋骨隆々の2mは超えるだろう大きな体。独特な民族衣装に、長い蓬髪を後ろで束ねた槍を持つ男。

 しかし奏吾は鑑定を使うまでも無く彼を一目見ただけで彼が、噂の『魔族』である事を理解する。

 青黒い肌。額から生える二本の角――そしてその右頬には、刺青のような紋様が、怪しく光っている。


「アンジー話が……来客中か……?」


 赤いコートの男がアンジーに声をかけたが、そこで奏吾とリックに気付いた。

 奏吾とリックは息を呑む。

 ただ、この時息を呑んだのはそれぞれ違う理由に起因した。

 リックは勿論、件の魔族を見た事による恐怖からであったが、奏吾はその赤いコートの男から発する氣に、警戒の色を強めていた。


『この人――強い』


「いや、今ほとんど終わったところだよ。アーロンさん、このボウヤは同じ屋根の下に住むソーゴ君。仲良くやってあげてちょうだいね」


 アンジーの言葉にアーロンと呼ばれたコートの男は、奏吾に目を細める。


「ボウズ――今日から此処で暮らすのか?」


「――、」


 奏吾は無言で頷く。アーロンも少しの沈黙の後、


「そうか。なら、俺達を煩わせるな――。それだけだ」


 そうやって、一瞥をくれると視線をアンジーに向き直す。奏吾はというと、驚いたような顔をして止まっていた。


「アンジー、俺とキーリはまた暫くの間出る。その間、清掃員を雇っておいてくれ」


 そう言うとアーロンはアンジーにおそらく金貨が入っているであろう袋を渡した。


「もうかい? 今度も長いのかい?」


「いや、長くても二か月程度だろう。王都に用がある」


「そうかい。了解したよ。いってらっしゃい――」


 アンジーがそう優しい笑みを浮かべると、アーロンは管理人室を出ていく。

 おそらく“キーリ”と呼ばれていた魔族も、何も喋らないままそれに従っていった。


 二人が部屋から出ていくと、リックはやっと安心したかのようにその場で尻餅をついた。


「はぁ……あれが、魔族。怖かったぁ。おねーさん初めて見たよ……ってソーゴくん大丈夫?」


 リックが見上げると、奏吾は驚いた顔のまま、アーロン達が出ていった扉を見つづけていた。


「見れなかった……」


「えっ、何が――?」


「リックさん今の人は?」


「えっ、だから例の魔族……」


「コートの人!」


 奏吾は凄い剣幕でリックに問いただす。その声にリックは小さく悲鳴を上げた。


「ヒッ、ソーゴくんちょっと怖い。おねーさんビックリしちゃうよ」


 その様子に流石に奏吾も少し冷静さを取り戻す。


「あっ、すみません、それであのアーロン……さんでしたっけ、あの人は? あの人が魔族を連れてきた冒険者なんですか?」


 奏吾には『アーロン』という名前に聞き覚えがあった。今朝、商店街の武具や『ビッグレッド』で、オアカが言っていたのだ。

 奏吾がヘビーベア二体を倒したことに、彼はこう言っていたのだ『ヘビーベア二体を偶然一蹴なんて、この街じゃアーロンさんぐらいしかできないと思うけど……』と。

 つまり少なくともヘビーベア二体を一蹴できる強さ。それも奏吾が“カゲロウ”を使って出来た事。

 ヘビーベアは一体で大Ⅲ(クラス・トリ)。ちなみに今日倒したトロルは大Ⅴ(クラス・クヴィン)である。


「あっ、アーロンさんの事? そっか。ソーゴくんは知らないんだよね。えっと、昨日の冒険者の説明で位階制度(クラスランク)があるって説明したよね。今現在、ソーゴくんは大Ⅶ(クラス・セプ)。一番下だね。そこから大Ⅵ(クラス・セス)、大Ⅴ(クラス・クヴィン)、大Ⅳ(クラス・クヴァル)、大Ⅲ(クラス・トリ)、大Ⅱ(クラス・ドゥ)、大Ⅰ(クラス・ウヌ)、大0(クラス・ヌル)っていう順で上がってくんだけど、大Ⅲ位からはギルド長の推薦の他に王都の本部で承認を受けなきゃいけないから、数は少なくて、大Ⅳ位にでもなれれば充分冒険者としては実力者に入るの」


 此処まではいい? とリックは立ち上がると、奏吾に確認を取りながら続けた。


「大Ⅳ位と大Ⅲ位の間にはそれだけ大きな壁がある。そして現在このハルシャを拠点にしている冒険者で、大Ⅲ位以上の実力者二十三人。その中でも強い十人はヘルブスト国内でも凄く有名なの。ワーカーさんもその一人だよ。残念ながらウチの親父もね」


「やっぱり二人とも凄い人だったんですね」


「とはいえ、親父は今やギルド長。最近は冒険者の仕事なんてしてないけどね。問題はその内訳。二十三人の内、大Ⅲ位が十五人、大Ⅱ位は七人。そして大Ⅰ位が一人――」


「大0位はいないんですか?」


「大0位は三代目勇者だけが許された称号でね、どちらかというと名誉職かな。現在は誰一人もいない。つまり事実上、大Ⅰ位が冒険者としては最高位の位階制度って事になるの。現在、ヘルブスト国内の冒険者ギルドで大Ⅰ位認定を受けているのは四人だけ。その内二人は王国騎士。もう一人は王都のギルド本部長。そして最後の一人がこのハルシャにいる――アーロン・ガラッド。初代勇者以外で、この大迷宮『大ハルシャ』五階層に到達した唯一の冒険者。さっきの人よ」


 最高位の冒険者――。


「通りで――」


「通りで?」


「いや、強そうな人だなと……」


「そうね、あの人だったらヘビーベア三体でも大丈夫なんじゃない?」


「だから、それは偶然だって言ってるじゃないですか。俺と比べないでくださいよ」


 奏吾はそう言いながら、先ほどアーロンに鑑定眼を賭けた時の事を思いだしていた。


『NAME Auron Galud

More data unknown』


 名前しか解らなかった鑑定眼。流石に、これは初めてだった。

 自分のレベルが足りないのか、強い相手は見えないのか、それとも鑑定眼を防ぐ技術をアーロンが持っているのか。


「どうしたのソーゴくん?」


「えっ、なんでですか?」


「だって、何か嬉しそうだよ?」


「だってそんな凄い人と同じ寮に住めるんですよ!」


 奏吾は思わず笑みが零れていた理由をそう語ったが、実際は面白いと思ったのだった。自分と同じか――いや、それ以上に、もしかしたら師父なみにあの人は強い。

 そんな確信が、奏吾の好奇心と闘争心に火をつけていた。


「まぁ、今朝退寮していった人のほとんどがソーゴくんと同じ理由で住んでたんだけどね。流石に魔族じゃ……ってそういえばソーゴくんは魔族は平気だったの?」


 リックの言葉に奏吾は「ええ、別に」と答えた。魔族というからどんな化物かと思っていたのだが、化物は化物でもあの魔族は『青鬼』という感じだった。

 それも『泣いた赤鬼』を連想するような悲しげな瞳をしていた。

『日本人の感性としては比較的親しみのある容姿なんだよな。どこぞの団長さんが、それ見て節分で鬼に優しくしようと思うくらいだし……。あれってスピンオフの方だっけ?』

 そんな風に奏吾は心の中で呟いた。


「そう……なんだ。まぁ、アンジーさんも大丈夫みたいだし、ウチの親父も……まぁソーゴくんがいいならいいけどさ。じゃぁアンジーさんソーゴくんをよろしくお願いします。ソーゴくん私はギルドに戻るから、なにかあったら相談に来なさい」


 リックはそう言うとアーロン達が、アンジーはそれまでもそうであったように『フォッフォッフォッフォ』と笑いながら穏やかな笑みで手を振る。


 そして扉を出ようとした時、リックは「あっ」と何かを思い出したらしかった。


「そうだそうだ、ソーゴくんにサーストンさんから伝言。明日サーストンさんの店に来てほしいって。場所はワーカーさんが教えてくれるから、明日一度ワーカーさんの家に行ってくれる?」


 けっこう重要な事をポロッと忘れそうになるこのお姉さんに、奏吾は苦笑するしかなかった。



何故、俺はこんな異世界に来てしまったのか。

何故、俺は勇者召喚なんかに巻き込まれてしまったのか。

それを語るにはまず、あの日の事を思いださなければならない。

俺が異世界に行く切っ掛けになったあの事故。

あの似非医者に会う前に遭ったあの火事。

それよりも少し前、俺はコンビニでバイトをしていた。

そう、その時だ。

レジに並ぶ客の中に、俺は彼を見つけた。

そう――、後で胡散臭いと、似非医者だなんて思ってしまったあの――。

「そんなことありませんでしたけど」

「あれ、奏吾君。人の、というか神の日記に干渉してくるなんて、魔力を上げたね」

「いや、これ嘘予告ですし。そんな事実ありませんし」

「そうか、なら仕方がない。これまでの事を語ったところであまり意味が無い」

「いや、俺にはこの会話の意味がわかりません」

「これからの話しをしよう。これまでではなくこれからだ。どうせ嘘予告だ。誰も信用なんかしやしない」

「えっ、ちょっと。あんた何する気ですか!?」

「まず奏吾君の正体だけど彼は――×××××」

「ちょ、マジじゃないッスか! 伏字出さないとダメなやつですよそれ」

「えっ、別にいいじゃん。誰も気にしないって。あとラスボスは確かにボクじゃないけど。××××――」

「だからぁ!!」

「×××は×××で、×××が×××で――」

「まだ出てない登場人物まで!!」

「アーニャは、一応メイドって事になってるけど……」

「だめぇ!! もう伏字が間に合わない!! アンタ、何がしたいんだ!!」

「禁則事項です☆!!」

「口元に人差し指たてるなぁああああああああああああ!!!!!!!!」




突如暴走した似非医者。作者の予想を超えて設定を暴露しようとする彼の思惑とは

違うよ、嘘予告考えるのめんどくさくなってきたとか違うんだからね!


連載危うい次回『異世界来る前からチート持ち ~ Racclimosa ~』

♯15 『これまでとこれからと』 是非ご覧ください。


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