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RACRIMOSA ~異世界来る前からチート持ち~  作者: 夜光電卓
第一楽章 異世界来る前からチート持ち
13/49

♯13 異世界来る前からチート持ち

第十参話です。

やっとタイトルを思いついた回まできました。

誤字脱字の報告、感想等ありましたらお待ちしております

次回は土曜に更新したいと思います>>



“氣”とは“気”とも言い、現代の中国語では“气”の字が当てられる。

 中国思想や道教などで語られ、基本不可視で流動し森羅万象に干渉もしくは作用されると説かれ万物を構成し宇宙を生成する概念である。

 その中でも中国思想の“道教”などでは体内に流れる“氣”に着目し、不老不死や仙道に至る道として多く修練研究されてきた。


 ライトノベルズやゲーム、果てはアニメ、マンガなど日本のサブカルチャーの中では多く取り上げられる概念であるが、科学的根拠は乏しく、架空空想の存在と認識されている一方、漢方や東洋医学、他にも占いなどで現代日本では親しみが深い概念でもある。


 ただし問題はその実在の有無であるが、こればかりは先に述べたように科学的根拠に乏しく、立証のしようがない。

 下手な話しその存在を証明するには現代の科学では“悪魔の証明”になってしまい、自称“氣”を操れるという者はいるがその真偽は定かでは無い。


 久遠奏吾は――いや、久遠奏吾のその“力”を知る者は始めその“力”を“超能力”と呼んだ。

 幼い頃より人知では計り知れないその力の片鱗を覗かせていた奏吾は、その超能力を幼さゆえに暴走させ、それによって、人々を驚かせそして恐怖させていた。


 フィクションの世界で語られるものと違い、目の前で起こるその説明できない現象は、一般人から見ればただの『得体の知れない力』でしかなく、恐怖すべき対象として奏吾を見ていた。

 それこそが、奏吾が自分を化物と呼ぶ所以である。


 しかし六歳の頃、祖母の勧めで奏吾は師父と出会う事になる。

 師父は自らを(タオ)導師(グル)と名乗り、奏吾に中国語で師匠を現す“師父”と自分を呼ばせ、彼の中に眠る超能力、即ち“氣”のコントロールとその活用法を四年ものあいだ教授することになる。


 師父曰く、超能力と氣は同じものであり、この世界(つまりは奏吾のいた、日本のある元の世界)にある魔法、気功、超能力などは、呼び方やその思想体系などが違うだけで、根源は同じであると奏吾に説いた。

“氣”とは純粋な“力”であり“エネルギー”であるというのが師父の説明で、それは生命に生きるという力を与え、万物がそこあるということであり、無の中で有が在りつづけるための、存在力に近いものであるとも言った。


 勿論、四歳~十歳までの奏吾がそんな哲学的な説明を理解できるはずも無く。奏吾は師父に言われるがまま“氣”のコントロールとそれに付随する活用法の修行に四年の歳月を賭けた。

 そこで基礎的な訓練を終えた奏吾は、氣を暴走させずにコントロールする術と、その訓練の過程で武術と方術の技術を、十歳にして手に入れる事になる。

 武術と氣の関係は中国拳法の例を挙げるまでもなく、その関係性は深いモノであり、奏吾が盗賊達やトロル使った“遠当て”や、ゴブリンの元へ跳んだ時のような身体強化や、サイドBのメンバーを治療したりとその応用性も高い。

 ある意味で武術に於いて、氣のコントロールは奥義であり、初めからその強力な氣を知らず内に暴走させてしまう程素質を持っていた奏吾は、生まれたその時点で一般人とは大きな一線を画していたと言わざるおえない。


 自分が他の人と違うという事実は現実において、十歳の少年にとっては恐怖でしかなく、ましてやその力は人を傷つけ恐怖されるものである。

 奏吾の二面性があると言っていいこのひね曲がった性格も、すべてはこの(チート)が原因になっていた。

 しかし師父の元から離れた奏吾に一筋の光が差した。

 ただしそれは奏吾のような存在を“異端”とする現実では無く、“異端”を受け入れてくれる幻想の世界の存在だった。

 テレビの中でみたアニメでは、奏吾と同じような特別な“力”を持った者達が力を合わせ、みんなに認められ、仲良く笑っていた。

 アニメの中の登場人物は悪と戦い、自分の力を使って光の中に立っていた。


 彼がオタクと呼ばれる人種になっていったのは、これが切っ掛けだったかもしれない。

 しかしそれによって、奏吾は初めて友人と呼べる存在を得て、自分の力を隠してはいたが、幸せな日々を暫く送る事になる。


 ただ奏吾はそのアニメの中の登場人物になりたいとも思っていた。アニメや漫画などオタク文化に傾倒しつつ、その設定や能力などを参考に、自分で自分自身の氣の応用術を模索していく日々。自分もいつかこの力を――思う存分使ってアニメのように認められたい。

 光の中で――。


 しかしそれは現実として不可能な話しだった。

 現実問題として奏吾の能力は常人には理解できないものでしかなく、異端な者は排斥されるのが現状だったから。

 そう“元の世界でなら”


 だが奏吾は今、異世界にいた。


「おいおい、一発でおねんねとか止めてくれよ」


 トロルにそう言いながら、奏吾は右拳を前に構える。トロルは奏吾睨み付けながら吠えた。


「ウゴァアアアアアウルルルゥウゥウウウウウ」


「そうそう、その調子!」


 心なしか口調まで変わっている奏吾の口端が歪む。

 トロルは奏吾に向かって真っ直ぐ突進してくると、右腕を奏吾に向かって振り下ろす。が、奏吾はそれを右手で捌き跳ぶ。一気に懐に飛び込むと、回転しながら左の裏拳をトロルの左側頭部へと叩きつけた。


「ガヴァアグッ」


 しかしトロルは倒れず、空いている左手で空中の逃げ場の奏吾を掴みかかった。


「オッと、」


 奏吾はトロルの厚い胸板を蹴りつけると、その勢いでバク宙しながら地面に着地する。


「固いなぁ――。うん、もう少しギア上げてもいいかも――と、言っても赤くなって蒸気が出たり、腕が膨らんだりはしないんだけどね……」


 奏吾が軽口を叩いていると、トロルは両手を組んで奏吾に向かって上から振り下ろす。


 ドスンッ――と鈍い衝撃音が走った後、トロルは素っ頓狂な声を上げる。


「ウガルゥ?」


 振り下ろした両腕は、確実に奏吾に当たっていた。しかし奏吾の左掌に。

 奏吾はトロルのその会心の一撃を、左手一本で止めて見せていた。


「流石のパワー――。でも、――吩ッ!!」


 気合いと共に奏吾が受けていた左手を押し込むよう返すと、トロルの両腕は跳ね返され、大きく体勢を崩す。


「ウゲルゴゲベェエッ」


 驚きの声を上げるトロル。奏吾はそれが終わるのも待たずに次に動いていた。トロルの目の前に何故か奏吾の笑う顔がある。そして次の瞬間猛烈な拳のラッシュがトロルの顔面を襲う。ニ十発程叩き込む頃には、トロルは後ろに倒れていた。大きな地響きが森を揺らす。


「堅ッ、この防御力で大Ⅴ位か。あのヘビーベアってどんだけ強かったんだよ。カゲロウに相手してもらっててよかった」


 トロルのその顔面は血で濡れ、酷い有様になっている。ただ怒りが頂点になっているのはその表情が解らなくても理解できる。


「あっ、さっき『オラオラ』叫べばよかった――」


 そんな事を呟く奏吾を他所にトロルは近くの木を左脇に抱え込むと、無理やりへし折り立ち上がった。


「マジ?」


 トロルはその木を両手で抱えたまま、振り回して奏吾に襲い掛かる。奏吾はそれを屈んで、跳んで、右に左にと躱していく。


「グルウヲォウオ――ン」


 なかなか奏吾に当たらないトロルはしびれを切らしたのか、木を奏吾に向かって投げつける。流石に予想外に行動に奏吾は身構え、跳んでくる大木に拳を突きだした。

 目を見張る程、綺麗な正拳突き。


「喝ッ!」


 奏吾の拳が当たった瞬間、大木は真っ二つに折れ、粉塵を上げる。その粉塵の上から奏吾は大きな影が自分に降り注ぐのを確認した。


「ナッァ――」


 フライングボディープレス。と実況だったら叫びたくなるようにトロルはその大きな体を空へと躍らせていた。


「ウゴグルブルヴウワァァアアアアアア――!」


 一際大きい怒号を上げながら、トロルはその全体重と重力を乗せてその身体を奏吾に向かって叩きつける。低い衝撃が再び森を揺らし、粉塵が舞い、視界が消える。うつ伏せになりながら、トロルは『ギヒェィエヒャハハ』と下品な勝利の笑みを浮かべた。

 だが次の瞬間、自分の背に変な重みを感じたことに背筋をゾクリと震わせる。


「ありがとう。おかげ、俺はこの世界でも充分チートだってわかったよ」


 トロルは理解出来なかった。潰したはずのモノの声が、頭の後ろからするのを。

 倒れた背中の上に、何か得体の知れない何かが乗っている事が。


「だから、終わるときは一瞬だ」


 トロルの背中に立っていた奏吾は、トロルの後頭部に右手を翳すと、見下ろしながらそう呟いた。

 先ほどの遠当てに似た構えだったが、少し違った。

 彼の右手は段々黄色い光に包まれ、そして――。


「――哈ァッ!!」


 黄色い閃光が瞬いたかと思うと、トロルの頭部だけが何故かその遺体から消失していた。




「あ、ソーゴくんお帰り~。って凄い汚れちゃったね。何かあった?」


 夕方になり冒険者ギルドに戻ってきた奏吾は“薬草と苔”のみ換金すると、リックを探して声をかけた。


「いや、ちょっと採収の最中にゴブリンと遭遇しまして――」


「そっかぁ、ヘビーベア二体討伐のソーゴくんなら楽勝だろうけど。ゴブリンじゃたいしたお金にならないしねぇ」


「あんまりそれ広めないで下さいね。なんか変に目立っちゃいそうなので」


「そんなのムリムリ。ヘビーベアが討伐されたのは、流通でわかっちゃうし」


 どうやら最初から目立つ行動をしてしまった事に、奏吾は後悔していた。こういう時、ライトノベルズなどの主人公は、巧く自分がやったことを隠したり、誤魔化したりするのだが、奏吾にはその案が思いつかない。どだい現実とはそう上手くいかないらしい。


「さてさて、ヘビーベアの魔石なんだけど、金額が決まったよ。一つ五百万Atで計、一千万At――」


 奏吾は口をあんぐりと開ける。


「そんな――、」


「ここまで来ると、独りで持ってるのも危険だね。口座でも開く?」


「そんな事できるんですか?」


「冒険者ギルドは他の互助団体――所謂商業ギルドとか、そう言うところと連携して預金や融資なんかも扱ってるからね。どうする?」


「是非、是が非でも! こんな大金、持ってるなんて怖くて無理です。ただでさえ今朝のヘビーベアの素材分でも大金だったのに」


「そうだよね……部屋に置いとくのも怖いし、何より嵩張るし――って、今朝の報酬は? まさかもう使っちゃったの?」


 今朝の討伐料を持っていない奏吾に、リックは驚きの声を上げる。


「えっ? いやワーカーさんの家で預かってもらってるんですよ~、寮もまだなんですから。当たり前じゃないですか、明日取りに行く予定になってるんです」


「そっか、ならよかった」


 リックはそう安堵するが、奏吾はもっとホッとしていた。本当は荷物なんてコレッポッチも心配は無いのだ。嵩張りもしないし、重さも関係ない。おまけに金貨をしまうなら下手すれば冒険者ギルドに預金するよりも安全な場所が、奏吾にはあった。

 昨日と今朝もらった報酬、換金しなかった残りの薬草に苔、それからゴブリンとオークの死骸もその場所に安全に放置している。

 しかしそれを他人に知られる訳にはいかなかったし、何より日本にいた頃だってお目にかかったことの無いような金額を手元に置いておく事に、基本は小市民の奏吾は妙な不安があった。


「じゃぁ、取りあえず口座の開設をして。それから寮に案内するけど――本当にあの寮でいいの?」


「大丈夫ですよ。言ったじゃないですか問題無いって」


『たぶんだけど』と奏吾は小声で呟く。


「ならいいけど――」


 リックの目は本当に心配しているようで、同時に呆れている様にも見えた。



「あんたが、ソーゴ・クドーだね。話はギルドから聞いてるよ」

奏吾はリックに連れられて今後寝泊りをする冒険者寮へとやって来ていた。そしてその寮母と引き合わされたのだが。

「あの……すみません冒険者の為の寮……ですよね?」

「そうだよ、なんかもんくあんのかい?」

寮母だという唇ちょっと厚めの美女、アンジーはそういってエプロンに隠された巨乳を寄せながら腕を組んだ。

「取りあえず会員カード作るから、此処に名前と生年月日書いて」

「えっと……はい……」

「部屋は……禁煙でいいね」

「え、えぇまぁ……」

「部屋はお座敷、リクライニングチェア 、ベンチシート、ビジネスチェアがある。それに値段はそれらの半分で座る椅子だけ用意されたオープンベンチ席がある。他には二人用のカップルボックスなんてのもあるが……これは必要ないだろうな」

「そうですね……」

「システムはわかるか? 一応三十分ずつで計算される。食事は出ないが、この受付で売ってるものや外からの持ち込はOK。電子レンジに給湯器は自由に使っていい。部屋を出る際には受付に声をかけてからにしてくれ。後は……」

「すみません。此処はあくまで冒険者寮……なんですよね?」

「当然だ。24時間やっている冒険者寮コミック24だ!!」

アンジーは腰に手を当て胸を突きだす。

「えっと、マンガ読み放題――、PC使い放題――、パーテーションに囲まれた小さな空間。これってマンガ喫……」

「冒険者寮コミック24だ!!」

「マンガ喫……」

「冒険者寮コミック24だ!!」

「そう……ですか……取りあえず書き終わりました」

「そうかいそうかい――じゃぁ取りあえず、適当に好きなDVD三本選んで持ってきな!!」

「個室ビデオの方かッ!!」


どこかの映画女優のような冒険者寮寮母アンジー。そして現実世界ではお馴染のシステムな寮。

何故奏吾は未成年なのに個室ビデオを知っていたのか、そして彼の選ぶ三本とは……。


謎が謎を呼ぶ次回『異世界来る前からチート持ち ~ Racclimosa ~』

♯14 『冒険者寮コミック24』 是非ご覧ください。


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