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RACRIMOSA ~異世界来る前からチート持ち~  作者: 夜光電卓
第一楽章 異世界来る前からチート持ち
12/49

♯12 初依頼と初戦闘

第十弐話です。

やっとこさ戦闘回です。

誤字脱字の報告、感想等ありましたらお待ちしております

次回は水曜に更新したいと思います>>


「さてと――」


 そう言って奏吾は腰を上げると額の汗をぬぐった。

 ずっと低い姿勢で作業をしていた所為か、少々疲れたというのが正直な感想だった。


 あの後――と言うのも、入寮を決めた後の事だが、リックの必死の説得も甲斐なく、結局奏吾は入寮を決めてしまった。

 リックも最終的には奏吾に根負けした様子で、奏吾が初依頼を受けるというので、その後案内するという事になった。


 そして奏吾は遂に冒険者として初の依頼(クエスト)に臨むのだっただった。

 受注した依頼は二つ。いくつかの薬草と、苔の採集。

薬草も苔も、魔道具やポーション、儀式などに使われるらしく需要率が高く、ほぼこの依頼が切れる事は無い。また迷宮でも比較的街の近くで入手できる物が多く、何より魔獣と戦闘しなくても入手できる、初心者向けの依頼と言っていい。


 奏吾がこの依頼を選んだのは、奏吾のランクでは似たような依頼しか受けられないというのも理由の一つであるが、もう一つ大きな理由があった。

 その為に奏吾はギルド出ると早速、迷宮の入口へと向かった。


 迷宮の入口は本当に大きな扉で、どこぞの連邦の白い悪魔が、縦でも横でも入るのではないかという大きさの扉が、街を囲む城壁にポッカリと開け放たれていた。

 そこに明らかに兵士と思える鎧を着た者達が、扉の周りや壁の上の物見台で監視していた。

 奏吾は扉に向かいながら先程もらったばかりの認識証を兵士にかざす。すると、


「おっ、新人かい? 見ない顔だもんな。暫くはそうやって見せてくれるとありがたい。当番制で門番はちょくちょく変わるから。でもその内顔も覚えたら、顔パスで大丈夫だぜ」


 と、兵士は快活に笑った。奏吾は「はぁ、ありがとうございます」とだけ言って門を出る。

 門を守兵士は、一応冒険者では無く国兵に当たる。しかし妙にフランクな兵士に奏吾はもっと真面目でウザいのを想像してただけに肩透かしを喰らってしまった。

 この国の兵士はこんなものなのかとも思う一方、この冒険者の街ならではの気質ではないのかとも思う。


 そうやって街を出た奏吾は二キロ程歩くと、ギルドに教えてもらった小川の流れる森の近くまでやって来た。それから一心不乱に薬草や苔を採収して回った。


 奏吾には考えることや知るべきこと、確認すべきことが山ほどあった。

 しかし昨日は、なんとなく場の勢いに流され、最初に“力”の発動と『鑑定眼』の確認。それから『守護霊』との契約に、『異世界言語理解』が通じるかぐらいしかできていなかった。

 そこで奏吾は今回の採集の依頼に狙いを定めた。

 採収の依頼は受注にある程度量が決められている。それを最初に大量に採収しておき小出しにして、余った時間で確認をしていこうという魂胆だった。ただ普通の冒険者ならそれだけの量をどうやってみつけるのか、そしてどうやって持ち運ぶかという点について大いに悩むところであったが、奏吾はまったく心配していなかった。

 何故なら其処こそ『チート』の出番なのだから。

そして奏吾は太陽――と言っても迷宮内なので、らしきものなのだが――が真上に上るまで採収を続けた。

 どうやらこの世界では、陽が昇れば起き、陽が沈めば眠るという、ある意味規則正しい生活習慣らしく。

 武器屋に行き、ギルドにも拠ったのにも関わらず、真昼になるまで大分時間だあった。

 おかげで一日の依頼分の二十回分程――おそらく三週間分ぐらいの量は確保することが出来た。


 そして冒頭に戻る。

 それから奏吾はルルスに貰った軽食で昼食を済ますと、遂に行動を開始した。

 採収した素材も持たず、ギルドに行った時と同じ格好のままである。


 するとそこへ一匹の猫が現れた。

 尾が二股に別れた赤い瞳の黒い子猫だ。

 黒猫は奏吾の肩に乗ると人懐っこく奏吾にすり寄る。


「さて“カゲロウ”行くか――。あっちだよな」


 奏吾が聞くと“カゲロウ”と呼ばれた黒猫は「ニァア」と返事のような鳴き声を上げた。



 奏吾は暫く森の中を歩いていた。始めてくる場所だというのに、その足並みは軽い。

 そして二十分ほど歩くと木陰に隠れ息を潜めた。

 奏吾が身を隠した木陰から、およそ二十メートル程先に少し開けた場所があった。

 そこに小さな集団が「ギャーギャー」騒いでいる。


 一見子供にも見えるがその姿は醜悪で、緑色の皮膚を持った子鬼が五匹ほど錆びついた剣やこん棒などをもって騒いでいる。


「あれが、ゴブリンか――。よかったそこら辺はファンタジー準拠だ」


 如何にもゴブリンらしいゴブリンを確認して奏吾は一安心した。

 彼らはこれから奏吾が腕試しに屠ろうと思っている存在である。その姿が例えば人にそっくりだとか躊躇いを捨てきれないような容姿をしていたらどうしようと、奏吾は不安に思っていた。


 姿自体は先ほどカゲロウを通して“()”てはいたのだが、自分の目で見るまでは不安は拭えなかった。


「後は――」


 そう言って奏吾は腰のサイドBを引き抜くと、深く深呼吸をした。

 これからすることは、命を奪うという行為に他ならない。

 元の世界では二度とするか、と思っていた行為である。


 ただ“人”が生きていく上で命を奪う事は避けては通れない事でもある。

 それを他人任せにして知らぬふりをするか、そうでないかの違いだけだ。

 目の前の小豚を可愛いと思っても、ハンバーガーを食べるのが人間だ。


 奏吾は自分に言い聞かせる。

 子供の時と同じだ、ウサギやイノシシを狩っていた頃と、師父と山にいた頃と同じように――。冷静に――、昨日も無我夢中だったとはいえ、ヘビーベア相手には出来たのだ。


 ただそれがカゲロウではなく、今度は自分の手でやるだけだ。


「そう、相手は人じゃない――。あの男じゃない――」


 奏吾は脳裏に浮かぶ、自分の殺した男の幻影を振り切り、そして呼吸を整えると一気に――跳んだ。


「ギギッ!?」


 一匹のゴブリンがその殺気に気付いた時には、その横にいたゴブリンは両断されていた。


「ゲッ!」


 そう叫んだのは奏吾だった。袈裟懸けに二つになったゴブリンを空中で視界に入れながら、地面に前転しながら受け身をとって残りのゴブリンに対峙する。


『しまったな。やっぱりこの世界は重力が違うみたいだ。地球の半分くらいか――? おまけにこの剣切れ味好過ぎだ。完全にオーバーキルだろこれ――』


 突然の襲撃に身構えるゴブリン達を前に、奏吾はそんな風に思考を巡らせていた。


 昨日、この世界に来てから自分の身体の軽さについては感じていた。疑問に感じたのは盗賊を相手にした時だ。どうも力加減がすべてにおいて違う事に気付いたのだ。


 簡単に言ってしまえば、五十センチ程のつもりでジャンプしようとしたら一メートルもジャンプしてしまった感じだろうか。

 今も“力”を付加させたとはいえ、一跳びゴブリンの所まで行こうなんて思っていなかったし、取りあえず全力で跳んだだけで、地球だったら半分も跳べなかったのだろう。


「こればかりは、慣れるしかないな。っていうかこれもチートだよな。まったく、どうせなら小さなピンクのウサギがいる星がよかったよ」


 奏吾がそう悪態をつくと、一匹のゴブリンが棍棒を振り上げてきた。

 奏吾はすかさずそれを左手のシールドで弾き、剣で切り上げる。するとその後ろからもう一匹のゴブリンが錆びた剣を振り翳し跳躍しながら突っ込もうとしているのが見えた。

 奏吾は右足を踏み出すと、剣を振ったその遠心力で回転しながら左足で後ろ回しの足刀蹴りを放つ。

 奏吾の左足はゴブリンの腹部に埋没していき、その体は後方へと吹っ飛んでいく。しかし奏吾の動きは止まらない。振りぬいた左足でそのまま地面を踏み抜くと、その勢いで前方へ高く飛ぶ。そして剣を力を溜めるように後方に構えると、剣先そのままに突き放つように剣を投げた。

 剣線は真っ直ぐと吹っ飛ばされたゴブリンへと向かい、ゴブリンが後ろの木に叩きつけられると同時に、剣は深々と突き刺さり木に縫い付けた。


「ググィ――! ギギッ、ギ――ッ!」


 奏吾が着地すると、最後に残ったゴブリンが叫び声を上げながら逃げていく。奏吾はそれ何もせず見逃すと、突き刺さったゴブリンの所まで行き、剣を引き抜いた。


「ふぅ――、凄いなこの剣。木が貫通してるのに刃毀れしてないよ。他の装備も全然邪魔にならないし。アオカさん、まさかワーカーさん達と同じような理由で、初心者用じゃない装備よこしたんじゃないだろうなぁ――」


 奏吾がため息を漏らしながら、意外な事の真相に近づいていると『ギィェエエ――』という深いな声が森を裂いた。

 そしてドスン、ドスンという低い地鳴りのような音が奏吾の元へと近づいてくる。


「近くにいるのは知ってたけど、まさかこうまで簡単に釣られてくれるとは。来なければ“力”の確認は明日にするつもりだったんだけど――どう思うカゲロウ?」


 奏吾はいつの間にか現れたカゲロウにそう問いかける。

 そうこうしている内に音はどんどん近づいていき、遂にその姿を現した。


 気味の悪い緑と灰色を混ぜたようなの肌。目は細く、体毛は無い。潰れたような顔に、何よりその大きな図体に面食らう。先日のヘビーベアよりも大きい。

 ゴブリンと違い武器は何も持っていないが、変わりに先程逃げていったであろうゴブリンの下半身を持ち、その口元は不気味な紫色の体液で濡れていた。


「トロルって肉食なんだっけ――。これがどこぞの森の主のモデルだと思うと悲しくなってくるな。どうせなら、お前もバスにでもなってみるか、カゲロウ?」


 奏吾がそう問いかけると、カゲロウは意味が解ってるのか否か『ニイァ?』と返した。


 トロルは持っていたゴブリンの下半身を口に放り込むと、ガリゴリと厭な咀嚼音を鳴らせながら、奏吾を視界に捉え、そして雄叫びを上げた――。


「ウゴルォオオオゥウウウァアアアアア――」

「おっ、やる気だ。とはいえ、武器も持ってない相手に剣ってのも卑怯かな――?」


 そう言うと奏吾は剣を鞘に仕舞い、ベルトから鞘ごと外すと、同じように左腕に固定していた盾さえも外した。そしてニヤリと笑いながら地面に落とす。

 しかし、剣も盾も地面にぶつからず地面に――いや、“影”に吸い込まれていった。


「?」


 トロルが不思議なモノをみるようにその様子を見ていると、奏吾が右掌をトロルの顔に

向けて翳す。


「なんてね――」


 次の瞬間、何かが爆発したかのような衝撃音がトロルの顔から響いた。トロルの巨体はそのまま後ろに倒れ、尻餅をつく。


「悪いな、俺はこの異世界に来る前から“チート持ち”だったんだ。その“力”いや“氣”がこの世界でも通じるか、お前で試させてもらうよ――」


 そう笑顔で呟く奏吾に、潰れた顔が余計潰れ、鼻血を垂らしたトロルが怒りを顕わに睨み付けた。





“氣”とは“気”とも言い、現代の中国語では“气”の字が当てられる。

中国思想や道教などで語られ、基本不可視で流動し森羅万象に干渉もしくは作用されると説かれ万物を構成し宇宙を生成する概念である。

その中でも中国思想の“道教”などでは体内に流れる“氣”に着目し、不老不死や仙道に至る道として多く修練研究されてきた。

ライトノベルズやゲーム、果てはアニメ、マンガなど日本のサブカルチャーの中では多く取り上げられる概念であるが、科学的根拠は乏しく、架空空想の存在と認識されている一方、漢方や東洋医学、他にも占いなどで現代日本では親しみが深い概念でもある。

ただし問題はその実在の有無であるが、こればかりは先に述べたように科学的根拠に乏しく、立証のしようがない。

下手な話しその存在を証明するには現代の科学では“悪魔の証明”になってしまい、自称“氣”を操れるという者はいるがその真偽は定かでは無い。

「つまり俺のチート能力は氣を使う事だ」

奏吾がそう言って笑う奏吾をトロルは敵と認識して襲い掛かろうとする。すかさず奏吾は腰のバックパックからあるものを取り出した。それは……、

「鼻血でてますよ……ティッシュ使います?」

奏吾の出したのは、アザラシ顔が印刷されたティッシュ箱だった。

その光景にトロルは目を丸くする。

「後、歩きながらの食事はあまりよくないですよ。そのあたりで座って食べたらどうです? あっ、よければおしぼりもありますよ。使います?」

奏吾に言われるがままトロルはその場で座り、もらったティッシュで鼻血を止め、おしぼりで手を拭いた。

「あっ、さっき俺が倒したゴブリンがまだ何匹かいますけど。もしよかったら持って帰ります? タッパーに詰めれば大丈夫かな? ああ、気にしないで下さい、どうせウチじゃ食べないんで」

トロルはいつの間にか申し訳なさそうに奏吾に頭を下げ始めていた。

「そんな、気にしないで下さいって。あぁそうだ――実は俺梅干し漬けてまして……えっそうなんですよ。でも始めたばっかりでお口に合うかどうか……ゴブリンと合うのかな? よければこれも……」

その日トロルは思った。人間もKYな奴ばかりじゃないと……。


遂に物語は動き出す。魔物にも気を使えるチートを持つ奏吾。

魔物をテイムしつつ、日常系冒険攻略の幕が開く。


急展開の次回『異世界来る前からチート持ち ~ Racclimosa ~』

♯13 『異世界来る前からチート持ち』 是非ご覧ください。


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