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RACRIMOSA ~異世界来る前からチート持ち~  作者: 夜光電卓
第一楽章 異世界来る前からチート持ち
1/49

#1 お粗末なチュートリアル

最初は連続3話投稿しました。第一話です。よろしくお願いいたします。

誤字脱字、感想等ありましたらお願いいたします。

次回以降は水曜、土曜に一話ずつ更新していきたいと思います>>


尚㋅㏠になにか面白い事出来ないかなと思い、後書きに『嘘予告』を載せる事にしました。

ただあまりにもくだらない内容です。また適当に書きすぎてるのでクオリティは気にしないで下さい。

真面目に読んでくださってる方は読み飛ばして頂けると幸いです。

嘘予告は予告なく休止したり再開したりする場合があります。あしからず。


久遠奏(くどうそう)()が目を覚ますと病院の待合室だった。

しかしベンチに座っている自分以外、人の気配がまったく無い。

壁もベンチも何もかもが真っ白な、目がチカチカする病院。

見覚えが無い――新築のような無機質な空間がそこに広がっている。

頭がボーっとしてハッキリとしない。

なんでまたこんな所に来てしまったのか、思い出そうとした時、女性の声が響いた。

待合室前の真っ白な扉から、一人の看護師が自分の名前を読んでいる。

呼ばれるまま奏吾は診察室へと入っていくと、一人の医師らしき男が待ち構えていた。

白衣を着た男は病的までに細く、その笑顔は教科書に載っている芥川龍之介の肖像にどこか似ている。

 ただし大きく違うのはその右顔を覆うように隠している布製の仮面だ。


「久しぶり――いや、初めましての方がいいのかな?」


 そう言って不敵に笑顔を浮かべる男を目の前にして奏吾は小首を傾げた。

「久しぶり」と声をかけられても、目の前の医師らしき男に見覚えがないし、そもそも医者の顔を覚える程、そうそう病院に行くことも無かったはずだ。


「状況が呑み込めてない――ってそんな顔だね。いいね、うん、いいよ」


 そう言って男はまた嗤う。よく笑う男に対して、その後ろで控える看護師はその表情を一切崩さず、無言で医師にカルテを渡した。

 医師はそれを流し見すると、奏吾を椅子に座るように勧めた。


「まぁ座ってよ。えぇっと、久遠奏吾くん。年齢は十七歳の高校二年生。両親は存命だが現在は独り暮らし――と、うん。高校生なのに大変だね。

 さ~て、なんでキミが今ここいるのかって言うとね、このままだとキミ死んじゃうんだ」


 座ってそうそう医師にそう言われ奏吾は目を丸くするが、何も答えない。


「うーん、驚いてくれてはいるみたいだけど……予想とは違うなぁ。もっと『なんでですか!』とか『まったく意味が解りません』とか取り乱すのを期待していたんだけどな~」


 医師が呆れるのに対し、奏吾は静かに口を開く。


「自分が長く生きられるとは思っていなかったので――むしろ病気とかで普通に死ねるんだと思うと、それには驚きですね」


 奏吾がそう言うと、医師は笑い看護師は初めて表情を崩して憐れむような視線を奏吾に向ける。


「ハハハ、ごめんごめん。これは思っていた以上に捻ね曲がってるな~。でも誤解が生じてるみたいだね」


「誤解?」


「そう誤解。そもそもここは病院じゃないし、ボクは別に病気の告知をしているわけじゃないんだ。でも、まぁまずキミの現在の状況理解から始めようか。そうだね、実際――キミは何処まで覚えてるんだい?」


 何処まで――?


「何処までとは?」


「キミはアルバイトからの帰り道で起こった事故に巻き込まれたことについて――だよ?」


 医師――いや医師らしき男にそう言われて奏吾はハッキリと頭が覚醒した。

 それと同時に、気を失う直前までの記憶が鮮やかによみがえる。

 コンビニのアルバイトの帰り道、自分が事故に巻き込まれた時の出来事を。

 今着ている格好も、その時の格好のままだということも。


「そしてなんの因果か墜ちる事になってしまったのです」


 医師はそうな風に語り口調でそう繋げた。


「墜ちるとは?」


「そうだね、キミに解りやすく伝えるなら、次元の狭間にでも落ちたと言った方が解りやすい? 最近ネットやライトノベルなどで流行っている『異世界モノ』みたいに?」


 奏吾は「成程」と首を縦に振る。


「理解が早いね? 普通はまず疑うところだけど。まぁ読書とゲームが趣味に入ってるのは知っていたからその所為かもしれないね。流石オタクサマサマ。

取りあえず確認してよかった。今の状況はまさにその『異世界モノ』というやつで、ちょうどキミがあの事故に巻き込まれた時に、事故の被害者の中で異世界の勇者として召喚された人がいてさ――、その召喚にキミが巻き込まれたっていうのが真相かな」


「勇者召喚に巻き込まれた? つまり俺が勇者として召喚された訳では無い――と」


「そう残念ながら。それで今いるこの病院は、よく『異世界モノ』の冒頭で出てくる『白い空間』とかで表現される場所だね。ほら神様とかが現れて『勇者よ、貴方に祝福を授けよう』――的な?」


「つまりあなたが“神様”だと?」


「そうだよ――と言いたいところだけど、それだけじゃないと言ったところかな? 

この物語でのボクの役どころは“観察者”というのが適当かな。

キミを異世界に送り出せばこの物語での役割はほぼ終えたと言っていいからね。この後の事に関してはあくまで傍観者を気取らせてもらうよ。

ほら、最初に出会った神様が“ラスボス”ってのが、よくあるだろう? キミの物語に於いてボクがそんな役回りになる事は無いからまず安心してくれるといい」


 神――医師――男はそう言ってまた――笑顔を向ける。


「それが本当だという証拠は?」


「無いよ。でも、今のキミにそれを確かめる術は無いし、現在キミが選べる選択肢は二つしかないということだけは断言しておこう」


「その二つ選択肢の内に、俺が元の世界に戻るというのはあるんですか?」


「あるよ、ただしその場合はキミは確実に死ぬ。というのも勇者召喚が行われたのがキミが死ぬ直前だった所為だ。キミを元の世界に戻すということは召喚されたその時に戻されてしまうからね。戻った瞬間に死は逃れられないものになる」


 目の前に迫る炎、落ちてくる天井――奏吾の脳裏に映し出される絶体絶命の光景。

 ――あのバカがいなければ――そんな風に思ってしまう。

 おまけに、せっかく勇者召喚に巻き込まれたおかげで生き延びられたのに、元の世界に戻ろうとすれば結局死ぬことになる――医者が言うのはそう言うことらしい。


「でもそれじゃぁ可哀想――ってことでボクの出番だった訳だ。勇者召喚で巻き込まれて生き延びたのに偶々巻き込まれただけだからって、また事故の最中に戻されて死ぬ――酷い話だからね。

 本当はこの話にこれ以上関わるつもりは無かったんだけど、色々と頼まれちゃって――神様は辛いよ」


「それで、俺が死ぬ以外のもう一つの選択肢って――」


「ご想像通り――異世界へ行くことだね。その為にその為だけにキミの前にボクが現れた。どうだい? 如何にも『異世界モノ』だろう?」


 今度溜息をついたのは奏吾の方だった。


「実質選択肢なんてないじゃないですか――」


「そんな事は無いよ。キミはどうやら『死にたがっている』ようにも見えたからね」


 男がそう言うと奏吾は唇を噛みしめた。


「否定は……しません。でも、ただ死にたかった訳ではないですよ」


「そうかい? ならいいんだけどね。まぁ、それが“諦め”から来てるのか“化物としての矜持”なのかはあえて聞かないでおいてあげるよ」


 その言葉を聞いて奏吾に初めて驚愕の色が顔に染まる。


「“神様”は何でも知ってるんですね……」


「そこはこう答えておこうかな『何でもはしらないよ、知ってることだけ』ってね」


 男は笑顔を絶やさない。しかしどこかその笑顔は冷たく感じた。


「さてさて、此処にいられる時間もあまり多くは無いからね。『異世界へ行く』ということで取りあえず話しを進めていいかな?」


 男はそう言うとデスクの上PCのマウスを動かす。するとモニターに三つの単語が現れる。


「勇者召喚に巻き込まれて、ほぼ選択肢が無い状態で無理やり異世界に送るのも可哀想だし、やっぱり物語の冒頭に神様っぽいのが現れたら『異世界モノ』としてはチート能力を渡すって言うのがセオリーだよね。

 いや、一度やってみたかったんだ。こういう好い役回り。たいてい癖の強い悪役ばっかりだからさ。キミに渡すチートは三つ。基本はキミを巻き込んだ勇者と同じものだよ」


 そう言って男が指さすモニターに書かれているのは、


・異世界言語理解


・鑑定眼


・守護霊


「異世界言語理解はそのままだね。これからキミが行く世界“トリニタ”という世界だけど、そこの言語は文字も含めて全部解るようになってるって事だね。

 鑑定眼は所謂ゲームなんかによくある奴で、人とかモノとか現象とか、鑑定すれば名前とか詳細な説明を見ることが出来る。

 最後の守護霊――これがこの世界の勇者特有の能力だね、イメージ的にはペ〇ソナとかス〇ンドとかそんな感じで考えてくれればいいんだけど。魂を――っとメンドイから後はは自分でさっきの“鑑定”でも使って調べてくれるかい?」


 奏吾の視線は鋭くなる。


「次にキミがこれから行く異世界、トリニタという世界は、王道のファンタジー世界と理解してくれればいいよ。文化水準は中世ヨーロッパ。人以外にもエルフとかドワーフとか他種族が暮らしている。これからキミが最初に行くのはその中でも人間が多い国で、勇者を召喚した国――ようは今回の全ての原因の国だね。

 まぁ、キミの場合は本当は死ぬところだったんだから、助けてくれた国と言ってもいいかもしれない。まぁ、キミがこんな事になった原因もあの国の所為と言ってもいいのだけれど。

 ただ本来キミは召喚されるはずは無い存在だからね、王城に行くわけじゃあない。少し離れた……そうだね初心者向けのステージっぽい場所にでも飛ばしてあげるよ。

 今回のキミの召喚は巻き込まれたとはいえ、ボクが君をトリニタに送るのはボクの同情による独断だから、勇者召喚とは全く関係が無いし、先方もキミの事はまったく関知していない。召喚した王国も――神様もね」


「神様――アンタ以外の?」


「正確にはボクは神様じゃないし、本来その異世界では誰も知らない――まぁ、アッチの世界にはアッチの世界の神様がいるって理解してくれればいいよ。ボクはトリニタの神様じゃないから。

勇者を召喚した王国や、儀式を行った教院――それから召喚したアッチの“神”はキミの事は知らないから、頼るのは良いとは言えないね。むしろいじめられちゃうかもしれない。だっていろんな意味でキミは“異端な存在”としてトリニタに行くことになるんだから」


‘異端な存在“それが奏吾に重くのしかかる。また――また俺は他の人たちと異なるモノになるのか。

日本でも異世界でも――。


「それにボクがキミに手助けするのも此処だけだから――後は実際にキミ自信で努力して頑張ればいいと思うよ。

そうだね取りあえず街に行ってギルドで“冒険者”になるのがいいんじゃない? よかったね。王道だね。如何にも『異世界モノ』じゃないか。

――っとまぁ、ボクからの説明としてはこんな所かな?」


「チュートリアルにしてはお粗末ですね」


「慣れてないんだ、この手の役回りは。まぁ大変だろうけどキミなら大丈夫かな? その“力”があれば――」


「……本当にゲームみたいなノリですね」


「ボクにとってはね全部遊びだよ。でもキミにとっては現実だ。ああ勿論、最後に実はゲームの中だったとか、夢落ちは無いから安心して」


 とても楽しそうに男はサラリと結末のヒントを言って嗤う。その笑顔が妙に苛立たしい。


「取りあえず行ってみますよ。アンタの言うことがどこまで真実か解らないけど――」


 奏吾はそう言うと椅子から立ち上がった。


「出口は入ってきたその扉の向こうだ。また会えるといいね」


「俺は二度と会いたくないです」


 奏吾はそう言うと「そんなつれない事いうなよ」という男と看護師に背を向けて、扉を開けた。

 すると扉の中から目がくらむほどの光が放たれ、そして――。




「行きましたね――。はぁ、疲れたぁ。意外と面倒だなこの役。説明途中で面倒になってくるし――二度とごめんだな。どうせやるなら、今度はセオリー通り“実はラスボス”って感じがいいな」


 仮面の男はそう言うと肩を回す。


「そうだ、扉ちゃんと閉めといてね」


 男の言葉に後ろで控えていた看護師が頷き、扉へと向かう。

 すると扉の前で看護師は少々驚くと、屈んで“ソレ”を抱き上げた。


「なんだい“ソレ”――? ああ、ソレがあの子のなんだね。へぇ、意外なもんだ。性格と違って可愛いじゃない」


 男の言葉を聞き流しているのか、看護師は“ソレ”を慈しむように優しく撫でていた。


「よかったのかい? 少しは話をしてもよかったんだよ? 別に邪魔はしないし」


 看護師はひとしきり撫でると再び屈んで“ソレ”を抱き下ろした。

 そしてもう一度ソレの頭を撫でてから、一言「行ってらっしゃい」微笑んだ。

 ソレは「ニィア」とその声に応えると、空いた扉の光の中へと駆けていった。


「う~ん、まぁ後でいくらでも話す機会はあるだろうから、それで君がいいのなら別にいいんだけど。でもせっかくのあの子の門出だろう? 何か今みたいに言って上げても良かったんじゃない?」


 男がそう言うと、看護師は少しの沈黙の後――、


「おかえりなさい」


 とだけ呟き、彼女は扉を閉めた。




奏吾が診察室を出た先は、なんの変哲もない『薬局』だった。するとそのカウンターで薬剤師と一人の男が、口論をしていた。

「この薬を飲まないと、貴方の病気は治らないんですよ!」

「いいのでござる、拙者は病気を治さなくていいのでござる!」

「何言ってるんですか、病気を治さなくちゃ働けないでしょう!」

「そもそも拙者は働きたくないのでござる!」

「なに言ってるんですか、その言葉自体が貴方がニートを患っている証拠です」

「なにを、ニートは病気ではござらん。むしろ高等遊民とも言うべき気品あふれる高貴な存在でござる」

「だから、それが病気だって言ってるでしょう」

「よろしいですかな? そもそも働くという事を義務化している本邦の法にこそ問題があるのでござる。人間の生きられる時間は限られているのでござる、その時間の間に必死に身をこにして働く。まさに時間の無駄。とても短い時間を有意義に使っているとはおもえんでござる」

「だからと言って働かないとお金はもらえないし、生きていくことは出来ないでしょう? むしろ短い時間をより短くすることにならない?」

「……仕方ない。正確には拙者もちゃんと働いてはいるのでござるよ」

「自宅警備員とかは言わないでね?」

「ぬ、警備員だって立派な職業でござらんか!」

「警備員は立派な職業でも、自宅がつくと別なの!」

「理不尽でござる、職業差別でござる。国は自宅警備員にも給与を払うべきでござる」


二人の公論にたじろぐ奏吾。というか、ニートを治してしまう薬とはなんなのか? この薬剤師はいったい何者なのか? そしてこの熱く自分を語るニートの口調はいったいなんなのか?


謎が謎を呼ぶ次回『異世界来る前からチート持ち ~ Racclimosa ~』

♯2 『熱かったニート』 是非ご覧ください。 


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