。邂逅と別れ
とある小さな村にその少年はいた。名はグレイ・スカーレット。普通の夫婦の間に生まれ普通に16年の歳月を過ごし、王都にでて騎士として働くことを夢見る普通の少年だった。ある事件が起こるまでは・・・
グレイには恋人がいた。小さい頃からの幼馴染で当たり前のように将来を約束しあう仲だった。二人が13歳の頃に村に魔族が攻め込んできた。人間とは違う圧倒的な魔力と残虐性に村はただ蹂躙されるのを待つだけだった。その中で二人は逃げることもできずに家の隅で隠れていた。村を破壊し人々を殺害していく魔族から身を守る術はなかった。そしてついに魔族に見つかってしまったのだった。
「なんだぁ?こんなとこにも隠れてやがんのかよぉ。これはこれはかわいいカップルだなぁ、さてどっちから死にたい?」
「俺を殺せ!リーシャには手を出すな!」
「やめて!私を殺して!だから・・・だからグレイだけは!」
「なんだよ、どっちでもいいんだぜ俺は!・・・いや、こうしよう。どっちか片方だけ残してやる、さあどっちが死ぬんだ?」
「私を!私を殺して!」
「やめるんだリーシャ!俺を殺せ!リーシャに手を出したら許さないぞ!」
「・・・よーし、わかった。男の方を殺すとしよう。女は愛する男が無様に殺されるのをせいぜい眺めてるんだな!」
そう言うと魔族は持っていた剣を振り下ろした。
「グレイ!」
血で赤く染まる剣はリーシャの胸を背中から貫いていた。
「あーあ、なんだよ邪魔しやがって。小僧は運が良かったなぁ、守ってくれる女がいて、せいぜい助けてもらった命を大事にあがけよ」
「リーシャ!リーシャ・・そんな!てめぇ!よくも!」
魔族は炎と共に姿を消し、そこに残っていたのは血まみれのリーシャだけだった。
「グレイ、どうしたの、そんな泣きそうな顔して。私なら大丈夫だから、ね?治癒魔法も使えるし。だからほら泣かないの!」
優しく笑うリーシャを見て余計に涙が溢れた。治癒魔法が使えたとしても彼女を傷つけてしまった自分が情けなかった。それでも助かると知って安心してしまったのか、急激に眠気が襲ってきた。
「リーシャ・・・早く治癒魔法・・・を」
「うん、わかってるよ、だから安心して。疲れたでしょ?眠っていいんだよ。」
リーシャの言葉をどこか遠くに感じながら俺は意識を失った。
目を覚ますと、そこには古ぼけた木の天井。しかし鼻につく家や人の焼け焦げた臭いがさっきまでの出来事が夢ではないことを表していた。
「ここは・・・」
「気がついたかグレイや。ここはわしの家じゃよ、まともに使える家がほとんど無くてのぅ。」
ベッドに寝ていた俺を優しく見守ってくれていたのは村長だった。
「村は!リーシャはどこにいるんだ!」
「村は壊滅状態じゃよ。生き残った村人もわずかじゃ。リーシャも生きておるよ。じゃが思いのほか傷が深くてな、今夜が山じゃろう。」
「そんな!治癒魔法を使ったんだろ!?リーシャは!リーシャは大丈夫だって!」
「傷が深すぎてな、完全には治せないのじゃよ。教会の神官様ならともかく村におるものでは到底・・・」
「そんな!くそっリーシャ!」
俺は家を飛び出しリーシャの家へ向かった。ベッドに横たわるリーシャの周りには俺の母とリーシャの母がいて涙をながしていた。
「リーシャ!」
「あ・・グレイ。どうしたのそんなに焦っちゃって。」
気丈に笑うリーシャの笑顔はどこか痛々しかった。
「傷が治らないって!今夜が山だって村長が!本当・・・なのか?」
「あ・・聞いちゃったんだ。グレイには言わないでって言っておいたのに。ごめんねグレイ、私もうダメみたい。」
「そんなはずない、うそだろリーシャ!?またいつもの冗談だよな!?だって・・大丈夫だって・・・そんな・・」
「グレイ聞いて。手紙を書いたんだ。私が死んじゃった後に読んでくれると嬉しいな。」
俺は何も言えずにリーシャが差し出す手紙を受け取った。
「あのね、私幸せだったよ。君といれてとっても幸せだった。だからもう泣くのをやめて?」
弱々しく手を握るとリーシャは嬉しそうに微笑んだ。
「へへ、ちょっと眠くなってきちゃったな。ねえグレイ、寝てもいいかな?」
「・・・ああ、寝ても、寝てもいいよ。また朝になったら起こすからさ。そしたら森で散歩でもしようか。父さんは危険だからだめって言うけどきっと今なら許してくれるよ。だから・・だからさ今はゆっくり寝ていいんだよ。」
「ありがとう、グレイ。じゃあちょっと寝るね。そうだ!恥ずかしいけどおやすみのキスしてくれないかな?」
「ああ、リーシャ・・・おやすみ」
「うん、グレイおやすみ」
俺はそっとリーシャの頬に触れて優しくキスをした。リーシャの頬を伝う涙に気づかないふりをして・・・
こうしてリーシャは息を引き取った。
それから残った村人達でみんなを埋葬して村の復興を始めた。復興には3年という長い時間がかかった。そうして元どおりとは言えないが普通の生活を送れるようになり、俺は旅に出ることにした。手紙に書かれたリーシャの夢を叶えるために。




