消えてしまう
誰からも、思い出されない幽霊は、いずれは消えてしまうという。
俺は、ずいぶん昔から、この辺りをさまよっている。
いわゆる地縛霊の一人だ。
別に人間に干渉するつもりもなく、ただ暇を持て余していただけだ。
人間だった頃の記憶も、ずいぶんと薄れてきた。
「それは、この世と別れを告げる時がきた、そういうことなのです」
スーツ姿でステッキを持った老人が、俺に声を掛ける。
見えるのかと、俺は聞く。
「ええ、もちろん。私はあなたのような魂の回収役ですので」
ニヤッと笑う彼の背中から、男女のカップルが顔を覗かす。
「アイードとルシードの二人組だ。君を回収させてもらうよ」
その子供達は、俺へと手を伸ばすと、宙へ浮かべる。
そして、ゆっくりと俺の意識は失われる。
最後に、回収完了という声がどこからか聞こえた気がした。