第1章2話:弓と斧
悲鳴が聞こえた方向に走りながら俺は火凛に向かって,
「今の声って,美南さんだよな.何があったんだ?」
「私が知るわけないでしょ!喋ってる暇があるなら足動かしなさいよ!」
そう火凛が言ったきり俺たちは無言で走る速度を上げた.
「あそこ!沙希よ!」
そして,速度を上げてすぐに火凛が美南さんを見つけた.
「さ,」
「待て!美南さんの前に何かいるぞ!このまま黙って近づいたほうがいい.」
俺は,美南さんを呼ぼうとした火凜を制して言った.
そして,火凛と共に美南さんがいるところまで走り抜けると,美南さんの正面の離れた場所におそらく3mを超えているであろうというクマと美南さんを庇うように立って槍を構えている圭介の姿があった.
「大丈夫か?何があった?」
「そうよ.何があったの?悲鳴が聞こえたけど,あの熊は何なの?」
俺は圭介と同じように美南さんの前に立ち弓を構えながら,火凛は美南さんにかけよりながら言った.
「私達,目が覚めたら此処にいて,火凛達を探しに行こうとしたらあの熊が急に出てきて,私に向かっ
てきたの.避けようとしたんだけど,急に腰がすくんで動けなくなって.そこを西条君が庇って怪我をして,怖くなって叫んだの.」
「その時の悲鳴を聞いたのか.怪我はどうなんだ,圭介?」
俺が問いかけると,熊から目線を外さず返答が返ってきた.
「かすっただけだ.問題ない.」
圭介を見ると,左肩から斜めに服に傷があり,少し血がにじんでいた.幸い深くはないようだった.
(大丈夫そうだな.でもどうする?美南さんをおぶって逃げるか?戦うか?)
「圭介!そいつ俺達で倒せると思うか?」
「倒せるとは思うが,無理せず逃げたほうがいいと思うが?倒せなかった時のリスクがでかすぎる!」
「地理が分からないのが不安だが,それしかないか.逃げるぞ!火凛先頭を頼む!圭介は最後尾を!俺が美南さんをおぶっていく!」
「「「分かった(わ).」」」
そう言って,火凛が駆け出し,俺は美南さんをおぶって火凛の後ろをついていき,俺の後ろを圭介と熊が走ってくるのが横目で見えた.
そして,時々,後ろを振り返りながら,
「まだ,ついて来てるのか.」
とか
「ここを左に曲がるわよ!」
と言いながら逃げ続けたが,30分後俺達は熊に追い詰められていた.
「ゼェゼェ・・・どんな体力してんのよ.あいつ」
と火凛は忌々しげに熊を睨みつけていた.
「ハァハァ・・・戦うしかないのか.」
「ハァハァ・・・しかないみたいだな.疾風!弓で熊の目を狙えるか?」
「分からん!でもやるしかないだろ!」
「なら頼む!俺はその隙に眉間を狙う!」
「分かった.」
俺と圭介は作戦を立てると圭介が熊に向かって攻撃を開始した.
俺は,
「美南さん,ちょっと降りてくれ.」
と言って美南さんを降し弓を構えた.
「頑張ってね.北嶺君,西条君.」
と言って美南さんは後ろに下がった.
「私は何をすればいいの?」
と火凛は俺に向かって問いかけたが,
「お前は,何もするな!武器を持ったこともない奴が何かしようとする方が危険なんだよ.」
と怒鳴った.
その時,圭介が,
「やるぞ!疾風!」
と叫んだ.そして,俺は弦を引き,鏃を熊の左目を狙って弦を離した.そして,矢が放たれると同時に圭介が駆けだした.
しかし,俺が放った矢は,熊の目の横を掠っただけだった.熊は矢を気にせず,圭介に向かって右手を振りかぶった.
「くそっ!外した.圭介,気をつけろ!」
と言いながら次射を打つために,再び弓を構えた.圭介は矢が外れ,熊が右手を振りかぶるのを見るとすぐに槍を眉間に突くのを止め,槍を横に構え,熊の振りかぶった右手を受け止めた.
そして,俺が矢を放つ前に別の方角から,矢が放たれ,熊の左目を貫くと同時に,熊の頭上から斧が熊に向かって振り下ろされ,熊が真っ二つになった.




