第2章5話:蜂蜜
いつまでたっても衝撃が来ないため,おそるおそる目を開ける.すると,そこには,槍に貫かれている狼猿と斧で真っ二つに切り裂かれている狼猿の姿があった.
「間に合ってよかったよ.危なかったな,疾風.」
と俺の方を振り向き,手を差し出しながら圭介が言った.
「助かったよ.サンキュー.圭介,アル」
と圭介の手を取り,立ち上がりながら感謝の気持ちを述べる.
「でも,何でこんなに火凜達と離れてるんだ?おかげで探すのに苦労したんだぜ.」
と圭介が聞いてくるので,
「こいつら,火凜達の背後を取るように移動してたんだよ.だから,それを牽制してたらいつの間にかな.牽制するのに必死だったんだよ.」
とこうなった理由を説明する.
「でも,あんなに数がいたのによく残り二匹まで倒せたよな.魔力足りなかっただろ?」
「ああ,何匹かは重なり合ってる所を狙って二匹同時に倒したんだが,それでも足りなかったから,散弾銃みたいに撃った瞬間に弾ける弾を生成したんだよ.」
と説明を続けていると,足がふらつき再び倒れそうになる.そこを圭介が支えてくれる.
「悪い.おかげで命拾いしたんだけど,魔力なくなっちまって.悪いけど手貸してくれないか.」
と言うと,何も言わずにアルが俺の腕を自分の肩に回して支えてくれた.
「ほら,肩貸してやるから行くぞ.」
とアルがぶっきらぼうに言い,火凜達がいる所に向けて歩き出す.
そして,歩きながら,
(でも,一発の弾を撃つにしても魔力の強弱をつけるとかできるようにしたいな.そしたら弾数も増えるし,威力も上げられるしな.)
と先程の戦いから今後の戦い方について考える.その後,
「そういや,そっちはどうやって倒したんだ?」
と血熊の倒し方について尋ねる.
「一か所にまとめて,後は魔法だな.俺は槍で貫いて,アルは斧でぶった切った.」
「一頭ずつ倒すと最後の一頭が狂暴すぎて手がつけらなれなくなるんだ.それに,仲間想いで同胞を目の前で倒した奴をどこまでも追ってくるんだ.だから,一気に倒すしかなかった.」
と圭介がざっくりと説明し,アルがそれに対して補足する.
「へえ~大変だったんだな.」
と俺が言うと,
「「まったくだ.」」
と2人声を揃えて言った.
「まったく,一頭倒すだけでも骨が折れるというのに,それが三頭もいるとか,どんな無茶振りだ!戦い慣れてるケイスケがいたからまだ何とかなったが,もしいなかったら俺ら間違いなく死んでるぞ!」
とここぞとばかりにアルがキレる.
「戻ったら,一発殴らないと気が収まらん.」
と続けて言い,歩く速度が上がった.
それから,すぐに火凜達を見つけ,そこに駆け寄った.すると,
「遅かったじゃない.何してたの?もう少し遅かったらなくなってたかもよ.」
と火凜が呑気に蜂蜜を指で舐めながら俺達に言った.その隣でブチンと何かの切れた音がしたかと思うと,アルが俺を放り出し,火凜に拳骨をくらわす.
「何すんのよ.痛いじゃない!」
と火凜が怒るが,
「痛いじゃないじゃない!お前はもう少し人の話を聞け!それからこれから勝手に行動するな!お前が勝手な行動によってこっちにも迷惑がかかるんだ!・・・」
とアルが説教を始める.
火凜を叱っているアルを背景にサラと美南さんがこっちに駆け寄り,
「北嶺君,怪我してるの.待って,今直すから."水"よ,この者癒しを!"治癒"」
と治癒魔法をかけてくれる.そして,美南さんが治癒をかけている間にサラが,
「いつの間にかいなくなるから心配するじゃない.あんなに数がいたのによく倒せたわね.どうやったの?」
と尋ねて来たので一部始終を説明する.
「それは,大変だったわね.そりゃ兄様がキレるのも無理ないわ.下手したらハヤテ死んでたんだもの.」
とサラがしみじみと言う.その言葉に俺はオレルアンから聞いた話を思い出し,
(そういや,アルは目の前で人が傷つくのを極端に嫌がるんだったな.それに,勝手に行動してみんなを危険な目に合わせた火凜をサーシャさんに重ねているのかも.)
と思った.それから,治癒が終わるまでの30分間アルは火凜に叱りづづけていていた.さすがにもういいだろうと俺とサラが仲裁に入るとやっとアルの怒りがおさまった.
そして,その後火凜から渡された蜂蜜を舐めた.その蜂蜜は今までに食べたことがないくらいに甘かったが,疲れた体によく染み渡った.
その後は,何事もなく順調に旅が進み,2泊ほどすると目的の山の麓までたどり着いた.




