第2章4話:疾風怒濤
魔力を体に循環させ"強化"する.それと同時にアルが声をかける.
「血熊と黒蝙蝠は血を見ると狂暴になるから,なるべくまとめて潰せ!森蜂と森狐は時間をかけると数が増えることに気をつけろ!狼猿は集団で動くことに気をつければ怖くないからな.お前ら頑張れよ.」
そして,圭介と共に血熊の一体に向かって行った.
「分かってるわよ!"光"よ.矢と指を繋げ!"光爪"」
サラは,詠唱しながら5本の矢を放つ.その矢の後ろには白い光の筋があり,その筋はサラの右の指とつながっていた.そして,鞭のように矢と光の筋を指で動かし,森蜂を倒していく.
「やるじゃない,サラ.沙希,私達も負けてられないわ."火"よ.我が手の平に球となりて出現せよ!"火弾"」
火凜は両手に火の球を作り出し,森狐に向かってぶつけていく.しかし,森狐の動きが少し止まるだけで倒すまでには至っていないようだった.
「ちっ!駄目か.」
それでも,諦めず火凜は攻撃を続けていた.その横で美南さんは,
「"水"よ."風"よ.混ざりて槍を作り出しかの者を貫け!"氷槍"」
と全ての蝙蝠の羽を槍で貫き,地面にたたき落としていた.そして,
「火凜.お待たせ.手伝うわ.」
と火凜に声をかける.火凜は,
「じゃ,狐をもう少し,一か所に纏めるから,沙希は蝙蝠と一緒に氷の球で包んで.その球を私がぶち壊すわ.」
と簡単に作戦を立てる.美南さんはその作戦に分かったと一言言うと同時に,火凜がさっきまで直接当てていた火弾を今度はわざと当てないようにして,狐を蝙蝠の傍まで誘導する.そして,すべての狐が蝙蝠の傍まで来ると,
「"水"よ.球となりて敵を包め!"水球"」
と沙希が詠唱し,狐と蝙蝠の周りに水の球を作り出し包みこむ.すかさず,
「"風"よ.吹き荒れ水の球を凍らせ!"凍風"」
と詠唱し,水の球を凍らせた.そして,火凜が,
「"火"よ.拳に纏いて籠手となせ."火掌"」
と詠唱し,火の籠手と作り出し,籠手で氷の球を殴っていく.そして,氷の球にヒビが入ると籠手を解除して飛び上がり,
「これで終わりよ!"火"よ.踵に集まりて剣となせ!"火剣・蹄落とし"」
と落下の勢いと体の捻りを加えて,氷の球を切り刻んで着地する.
「10点と.でも,やっぱり"付与"した時よりも切れ味悪いわね.」
そして,切った球を見ながら感想を述べる.
圭介とアルは俺の視界の端の方で熊を蹴り倒していた.
「この装備いいな.軽いし,強度があって.やっぱり実践をこなすと防具の良さがよく分かる.」
と圭介が言うと,
「確かに,親父が選んだことはあるな.俺たち二人の特性にもあっている.」
とアルも同意する.
「これで,熊が揃っただろ.一気に決めるぞ!ケイスケ!」
もう一度熊をアルが蹴ると確かに3頭の熊が一列に並んでいた.
「ああ,"土"よ.槍の硬度を上げよ!"兜突き"」
「"雷"よ.斧に纏いて奴らを切り裂け!"雷斬"
と2人同時に詠唱して,熊を倒す.
「俺達の息も合うみたいだな.」
とアルが笑い,圭介と拳を合わす.
圭介や火凜達が熊や狐を倒している間,俺は銃と弾を生成し,狼猿が火凜達の方に行かないように牽制し,火凜達と切り離すことは成功したが,その代償に魔力を使いすぎた.
(俺が銃を生成して撃てる弾は15発.そのうち8発は撃ったから残り7発.残りの猿は25匹.火凜達が来るにはまだ時間がかかる.銃を解除するのは論外.普通に撃っても足りない.どうする.考えろ!)
と考えている間に狼猿の内の数匹を先頭に25匹全てが俺に迫ってくる.先頭の数匹を蹴るが,だんだん追いつかなくなってくるため,両手も使って弾く.それでも手数が足りず,数か所傷を負う.しかし,ある程度は狼猿を一か所に纏めることには成功した.
「"風"よ.音と共に奴らを穿て!"音速弾"」
音速弾を詠唱し,狼猿をまとめて倒す.ただ,中には避けるものや攻撃範囲に入らないものもいた.
(残り8匹,残弾は2発か.くそ,撃った弾が散弾銃みたいに別れればいいのに.)
冷静に状況を把握し,また絶望感が募り焦る.しかし,
(そうか.散弾する弾を生成すればいいのか.)
ふとアイディアを閃く.
「やらなきゃ死ぬってんなら,やってやる!銃の中に弾を創造せよ!"風弾生成"」
と詠唱し,撃つと同時に弾が弾けるイメージを創造しながら1発の弾丸を作り出し,
「"風"の弾よ.撃つと同時に弾けろ!"疾風怒濤"」
さらに,詠唱を加えて弾を撃った.
弾が銃口から発射されると同時に8つに分かれ,狼猿に向かって飛んでいく.それと同時に銃が消え,体が急激に重くなる.そして,8つに分かれた弾は8匹の狼猿に当たって動かなくなる.しかし,当たった場所が遠かったのか2匹の狼猿が再び動きだし,俺に迫ってくる.
俺はもう一度,銃を作ろうとするが,力が入らないのと迫ってくる狼猿への焦りからなかなかうまくいかない.
そして,俺と狼猿の距離が約2mになり,狼猿が俺に向かって飛びかかってくる.
俺はもう駄目だと目を閉じる.
そして,血飛沫が舞った.




