第0章3話:親友と想い人
そして,俺は火凛に引っ張られて学校の体育館まで向かった.
「お,来たか.東が遅いとは珍しいな.」
と男の声が聞こえてきた.
「疾風の家に行ってたのよ.疾風が朝御飯をゆっくり食べているからその分遅れたのよ.」
「違うだろ.お前が胸ぐらを引っ張るから食えなかっただけだろ.人のせいにするなよ.」
と火凛の小言に対して俺は反論した.
「あいかわらずお前らは仲良いな」
と再び男の声が聞こえた.
「そんなんじゃないっての.私沙希探して,段取りの確認してくるから.」
と言い残し火凛は体育館の中に入っていった.
「からかうなよ,圭介」
と俺は声をかけて来た男に向かって言った.
この声をかけてきた男は西条圭介で俺の親友である.彼は俺がある事件の後で通い始めた道場の跡取り息子である.圭介の道場は空手の他にも武器を使った稽古もしており,圭介はどの武器も万遍なく使いこなすのだが,槍術が得意で弓術だけは苦手だったらしい.俺は,昔の経験から弓術だけが得意で他はそうでもなかったのだが,圭介に教えてもらいそこそこはうまくなった.弓術以外1回も勝てたことはないが・・・.まあ,それが元で仲良くなった.また,圭介は格闘技オタクで,暇があれば道場の書庫にこもって古今東西の格闘技を学び,実践して自分を高めている.そのため,道場の跡取りとして期待されている.
「お前,俺の好きな人知ってんだろ.」と圭介に近づき,小声で囁いた.
「悪い悪い.お前らを見ているとついな.悪かったって.」
と圭介は笑いながら,俺の背中を叩いてきた.
「たくっ,そういや準備は終わったのか?」
と俺は圭介に聞き返した.
「ああ.今日は校長の話だけだからな,マイク立てて終わりだ.音響の調整はいつも通り美南がやってくれるしな.」
タッタッタッタ・・・・
そこに,駆け足で誰かが近づいてくる音が近づいてきた.
「西条君,調整終わったよ.後はこれを北嶺君に渡したら,おわ・・りぃ!」
ドタン!
その音は,俺達のすぐ傍まで近づいてきて,大きな音を立てた.
「大丈夫か?美南」
俺達はこっちに向かって駆けてきて派手な音を立てた少女に近づき声をかけ,俺は右手を差し出した.
「大丈夫,ちょっと躓いただけだから.」
と笑いながら答え,少女は顔を少し赤くして俺の手を掴んだ.
「まったく気をつけなよ,美南さん.」
と圭介が言い,少女の手を引き上げて彼女を起き上がらせた.
この俺の手を掴んで立ち上がっている少女は美南沙希と言い,火凛の親友で俺の好きな人である.彼女は誰に対しても優しく,火凛の親友が出来るほどに心が広く,誰かに対して怒ったことを見たことがない.そして普段はおとなしく引っ込み思案なのだが,所属する合唱部での講演会等は独唱を担当して持ち前の透き通るような声で堂々と歌い上げるため,彼女のファンは多くファンクラブが出来るほどである.かくいう俺も彼女の声に魅せられた一人なのだ.また,火凛はスレンダーでどちらかといえば美人と言われるのに対し彼女は可愛い部類に入る.それに火凛よりも小柄の割に胸が大きいのも特徴で我が校の二大美女というと火凛と彼女のことを指す.
「あ~やっといた.」
そこに火凛が大きな声で叫びながら近づいてきた.
「沙希,また転んだの?本当におっちょこちょいね,あなたは.」
そして,美南さんの制服についた埃を払いながら言った.
「まったく,何やってんの.もう始まるじゃない.あんた達早く,持ち場に着きなさい.いい加減役員
の自覚を持ちなさいよね!3人とも.」
そう俺達3人は会長を火凛とする生徒会役員の一員なのだ.ちなみに俺が副会長,圭介が会計,美南さんが書記である.




