第1章21話:呼び名
そして,もう話すこともないと思い,俺は部屋を出ようと反転した.そこに,
「そういえば,ハヤテ君,さっきアルって呼んでたよね.」
「ええ,さっきアルに言われたんです.俺はお前のことをハヤテって呼ぶから,お前もアルでいいって.」
とオレルアンの問いに対して答える.
「そうか,そうか.良かったよ.アルも君たちと仲良くなれそうで.」
そして,俺の答えにニヤニヤしながらオレルアンが言った.
「あの,急にアルはどうしたんですか?寝る前までは負け犬って呼ばれてたのに,起きたらハヤテですよ.こっちは戸惑ってるんですけど.」
と俺は正直に感想を吐露した.
「戸惑っているって割には普通に呼んでいるじゃないか.」
とオレルアンに返された.
「そりゃ,アルフレッドとアルじゃアルの方が言いやすいじゃないかですか.本当に何があって急に呼び名を変えたんだろう?」
と俺は言った.
「その原因は君にあるんだろう.」
とオレルアンは面白そうに言った.
「えっ.」
と俺が言うと,
「君が銃を"創造"して使ったからだよ.」
とオレルアンが言った.
「それだけであんなに嫌っていた俺の呼び名を変えるんですか?」
とオレルアンに質問した.
「それだけじゃないよ.言っただろう,魔法はイメージだって.君が銃を"創造"できるってことは,それだけ銃に思い入れがあるってことだ.あの状況なら,普通は"創造"なんて考えないよ.」
とオレルアンが言った.
「それは,俺の射る速度じゃ当たらないと思っただけなんです.現にアルの斧も躱していたし.だから,当てるにはもっと速いものが必要だ.だから,銃がここにあったらって考えただけなんですよ.」
と弁明した.
「でも,トラウマがあったんだろ銃に.それこそ弓に"付与"をかけれないほど,心の奥底では銃を使いたいって思ってたんだろ.」
「それは・・・」
「それは・・・?」
と俺とオレルアンは会話を続けるが,俺の返答が面白いのかどんどん口調が楽しそうに変化してきた.
「それは,あの時は必死だったんですよ.3人とも殺されそうだったんですから.トラウマのことなんて考える暇なんてなかった!火凜を助けなきゃ.自分を守らなきゃって!」
「でも,それだけじゃないだろ?他にもなにかあったんだろう?今まで使えなかった銃を使えるようになった何かが.」
とそこまで言われたところで,俺は一旦会話を区切った.
「火凜に言われたんですよ.守ってくれてうれしかったって.あの時に言えなくてごめんって.
だから,なのかも.火凜がありがとうって言ってくれたから,俺は銃を人を傷つけることもあるけど,守るためにも使えるんじゃないかって素直に思えたら,いつの間にか手元に銃があったんですよ.
でも,弾自体は当たらなかったんですよ.俺は銃を使ったんじゃなくてただ弾を撃っただけなんです.それだけで,アルが呼び名を変えるとはどうしても思えないんですけど.」
と俺は言う.
「そんなに,自分を卑下しなくてもいいじゃないか.ともかく,君は今までトラウマの塊だった銃を使えるようになったんだ.そして,その行為はフルネームで呼んでいた相手に愛称でいいと思わせるほどのことだった.それでいいじゃないか.」
と今度はオレルアンは俺を諭すように言った.
「君とアルは似ているんだよ.大きなトラウマを持っていることや,それをなかなか克服できなかったってことがね.だから,アルは君に怒っていたんだよ.見たくない昔のトラウマを克服できない自分に似ているって.」
そして,オレルアンもそこまで言った所で話を区切った.
「"半人"って知ってるかい?」
「いえ.でも遺跡の中でアルに対してそう言っていることは聞きました.」
「だろうね.そこまでは僕も聞いたよ.あのね,半人って言うのは人間とエルフみたいな他の種族から産まれた子供のことを指すんだ.この世界ではね,種族に関係なく結婚できるんだよ.それでね,僕のなくなった奥さんは人間だったんだ.」
と言い,昔のことを語りだした.




