第1章20話:創造と放出
俺は,アルが部屋から出ていった後,何故か重たい体を引きずりながら執務室に向かった.そして,ノックしオレルアンに許可を貰って中に入る.
「やあ,目覚めたんだね.とりあえずは安心したよ.」
と,俺が入ると机で行った作業を止め,俺の方を見て答えた.
「心配かけてすいません.ところで,何の用ですか.」
と尋ねた.
「そうだね・・・.まずはアルを助けてくれたことの感謝と無茶したことを叱らないといけないから呼んだんだよ.さて,ハヤテ君アルを助けてくれてありがとうね.君がいなかったらおそらくアルは死んでいただろうね.君がいてくれてよかったよ.」
と言ってオレルアンは頭を下げた.
「王様,顔を上げてください.最初に俺達を助けてくれたのはアルですから.こっちこそアルがいなかったら死んでましたから.」
とテンパりながら言い,なんとかオレルアンに頭を上げてもらった.
「そうだね,アルを助けてもらったことは本当に感謝している.でも,アルも君たちも助かったのは結果論だ.」
そして,頭を上げたオレルアンは目を鋭くし,さっきまでとはうって変った冷たい視線を俺に投げかけていた.
「何で,あんな無茶をしたんだ!君たちはまだ"放出"のホの字も知らないのに軍のいる遺跡に入るなんて無茶にもほどがあるよ!」
「すいません.あの時は帰る道の分からない道を通って応援を呼ぶより,神器を探す方が今できることだと思ってました.今考えると軽率でした.」
と俺は素直に謝った.
「本当だよ.運よく神器が見つかって手助けしてくれたからよかったけど.君たち,特にカリン君だが思い込んだら突っ走りすぎることがあるから重々自覚しないと駄目だよ.まあ,もう終わったことだからこれ以上は言わないけど.」
そして,最後にオレルアンから忠告を受けた.
「はい,肝に銘じておきます.」
そして,俺は忠告に対して頷いた.
「さて,ハヤテ君,この部屋まで来るのに,体が重いとか頭が重いとかいつもと違うことはなかったかい?」
そして,オレルアンは話題を変えて俺に尋ねた.
「そういえば,いつもより体が重くてここまで来るのに苦労しました.」
と俺は答えた.
「やっぱり,無詠唱での"創造"と"放出"はかなり体に負担がかかったみたいだね.君の魔力量は元々普通の人より多いし,二日も寝込んでいたのにまだ影響があるとは.」
そして,俺の回答に対してオレルアンが言った.
「どういうことですか?」
と今度は逆にオレルアンに質問した.
「君はね.魔力の使用過多で倒れたんだよ.カリン君たちには君たちが帰ってきた後で説明したんだけどね,"放出"は自分の体から魔力を切り離し,"創造"は切り離された魔力を自分のイメージ通りに変化させる魔法なんだよ.この世界で魔法を使う場合,"強化"と"付与"までは自分の魔力を循環させるだけだから詠唱は必要ないんだよ.でもね,"創造"と"放出"は自分の魔力を体から引き離して出現させるから詠唱が必要となってくるんだ.こうやってね.
"光"よ,球となりて我が掌に現れよ!"光球"」
そして,オレルアンは俺の質問に答えながら掌に光の球を作り出した.
「詠唱はね,さっきやったようにまず自分の属性,次にどのようにしたいか,そして,呪文名を言うんだ.でもね,魔法は詠唱を省略しても使えるんだよ.
"光"よ,球となりて我が掌に現れよ!」
と言い,今度は今も光球を出している手と逆の掌に光球を作り出した.しかし,今作り出した光球は最初に出した光球と比べると大きさが小さく,形も歪んでいるように見えた.
「ただし,詠唱を省略すると,こんなに違うんだよ.それにね,詠唱を省略すればするほど使用する魔力が多くなってくる."創造"するものにもよるけど,詠唱を言ったときに比べて,呪文名を省略することで2倍,動作の省略で3倍,属性の省略で4倍の魔力を消費するんだ.これくらいの球なら,ほとんど影響はないけどね.それにね,魔法はイメージの強さなんだよ.だから,同じような魔法でも人によっては詠唱や効果が異なってくるから,普通は少しでも魔法の威力を高めるために詠唱によって自分のイメージを強くするんだよ.だから,普通は詠唱して"創造"の魔法を使うんだよ.」
と詠唱の仕方と詠唱を使う理由を教えてくれた.
「君はね,この"創造"と"放出"を無詠唱で行ったんだ.だから,君の中にある魔力をすべて使い果たして倒れた.これが魔力過多だ.普通は倒れるまでに,体の重み,頭の痛みがあるんだけど君は魔力を一気に消費したから体が重くなることなく倒れたんだよ.」
そして,倒れた理由もオレルアンは説明した.
「でも,まだ倒れる程度ですんでよかったよ.それ以上魔力を使用していたら死んでたかもしれないからね.ぎりぎりの所でリミッターがかかって助かったんだよ.だからハヤテ君,もう二度と無詠唱で"創造"と"放出"をしてはいけないからね.」
と再び忠告をされた.




