第1章17話:風銃
銃声と共に弾が男に向かっていく.しかし,男に近づくと共に弾が小さくなり,男に当たる寸前に弾が消えてなくなった.それと共に右手の銃も消えていった.
「そんな.何で.」
と俺は言うしかなかった.
「やれやれ,危なかったですね.今の弾を"詠唱"して撃っていたら私の命はなかったでしょうね.」
と男は飄々として答えた.
「まあ,"放出"と"創造"の仕方を知らない人間があがいた結果としては十分でしょ.弾が消えたということは坊やの魔力はもうないのでしょう.やっぱり両方ともここまでですね.」
と男は続けて言った.確かに俺の体はだんだん重くなり,指を動かすだけでも大変になっていた.それに急激な眠気が襲ってきた.
「あなたの最後の悪あがきに敬意を表してあなたから殺すことにしましょうか.今度はお嬢さんも止められそうにありませんし.」
と言って,男は銃口を俺に向ける.そして俺は,
「くそっ!」
と舌打ちをして,バンッという音が聞こえそれと同時に,
(ほう,初めての"創造"で銃と弾を創造するか.しかもそれを"無詠唱"での.ホッホッ,なかなか見どころがありそうじゃの.小僧,後は儂に任せて今は眠りなさい.)
という声が頭に響いた.しかし,そのすぐ後に意識を失った.
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火凜サイド
疾風が撃たれたと思った.でも男が弾を撃つと同時にさっきとは違うリボルバー式の銃を右手に出現させ,疾風に近づいてくる弾をその銃から放たれた弾で弾いた.その様子に今度は男の方が驚いていた.
「何故だ.あなたの魔力は尽きたはずだ.なのに何故あなたはまだ銃を"創造"できる.しかも,その銃は何だ!何でそんなに"ブリューナク"と似ているんだ!」
とさっきとはうって変って取り乱したように言った.
「それは,そうじゃよ.先程の銃は小僧が"創造"したものじゃ.そして,今呼び出した銃は儂が"創造"したものじゃからな.」
と声は疾風だが,口調が明らかにいつもの疾風と違っていた.
「ねえ,あなたは誰なの?疾風じゃないでしょ.」
と私が疾風の体で疾風の声でしゃべっている存在について問いかけた.
「そうじゃ,儂は小僧と嬢ちゃんが見つけた宝玉じゃ.それとも,"風銃"と言った方が分かりやすいかの?」
とブリューナクは疾風の声で答えた.
「儂がはこれしか"創造"出来ないのでな.お主がこの銃はブリューナクに似ているの言うが,これはブリューナクに似ているのじゃなくて,ブリューナクそのものじゃな.」
と言い,その口調は楽しんでいるように聞こえた.
「何故だ.なぜ伝説の神器であるあなたが,そんな"放出"も"創造"も出来ない坊やに力を貸すのです!力を貸すのならこの私カミーユの他にいないでしょ!」
と男,いやカミーユが銃を持った手を自分に向けながら叫んだ.
「そうじゃの.力だけならお主の実力は申し分ないの.でも儂が気にいったのはこの小僧じゃ."放出"も"創造"も使えんのにお主に立ち向かっていく姿がの,年甲斐もなく興奮したのじゃ.この小僧と共にいけば,もっと儂をわくわくさせる何かがあるとの,その時に不覚にも思ってしまったんじゃ.じゃからお主には力を貸せんの.」
とブリューナクは答えた.
「そんなあいまいな理由で私を選ばなかったのか!いいでしょう,あなたごとその坊やを殺して私を選ばなかったことを後悔するといい.」
と言ってカミーユは銃を構えた.
「ホッホッ.儂と勝負するのかの.後悔するのはお主になると思うがの.まあいいじゃろう,返り討ちにしてくれるわ.」
とブリューナクが言うと同時に戦いが始まった.
「"風"よ.吹き荒れ滅せ!"暴風"」
とカミーユが先程と同じ魔法を詠唱すると同時に風が吹き荒れ,ブリューナクに向かって襲い掛かる.
「それでは,儂を殺すことは出来んの.
"風"よ.微風となりて,心地よい風を届けよ!"春風"」
襲い掛かる風に恐れることなく,ブリューナクが詠唱すると,吹き荒れた風が収まった.
「なっ!」
その状況にカミーユが驚く.
「お主,呆けている暇はないの.今度はこちらから行こうかの.
"風"よ.音と共に奴を穿て!"音速弾"」
今度は,ブリューナクが続けて詠唱する.すると同時に,カミーユの銃が空を舞い,音速弾の衝撃で,アルフレッドを拘束していた鎖も吹き飛んだ.
「そろそろ,この体の操作にも慣れたことじゃし,少し本気を出すとするかの.おい!そこの雷坊や,これに坊やの魔力を込めて儂に寄こせ!」
と言って,何かをアルフレッドに言って投げた.アルフレッドはそれを受け取って,
「これは,魔弾!お前何処でこんなものを手に入れた!」
と叫んだ.それに,
「いいから,速く寄こさんか!」
とブリューナクはアルフレッドに向けて怒鳴った.その言葉にアルフレッドは急いで魔力を魔弾を込め,ブリューナクに向かって投げ返した.
そうしている間にカミーユは飛んでいった銃を拾っていた.
「その余裕があなたの命取りになるのです.死ね!
"風"よ,弾の後ろに逆巻き奴を殺せ!"螺子巻弾"」
と拾った銃をブリューナクに向け間髪なく撃った.撃った弾は先程とは比べ物にならない速さでブリューナクに迫る.ブリューナクはその状況に少し笑み零して弾倉の中に魔弾をしまい,
「"装填"!
"風"よ"雷"よ,音よりも速く光の速さとなりて奴を穿て!"疾風迅雷"」
と言い,銃口から2発の弾が放たれた.撃たれた弾は1発目より2発目の弾の方が速度が速く,1発目の弾は風を纏い,2発目の弾は雷を纏っていた.
そしてすぐに,2発目の弾が1発目の弾にぶつかり,1発目の弾に風と雷が混ざり合う.その混ざり合った弾は勢いを増ながらカミーユが撃った弾に近づいていき,カミーユの弾を弾き飛ばす.そして,勢いを保ったまま,カミーユに迫り,カミーユの銃の銃口に吸い込まれ,カミーユの銃が爆発し,カミーユを吹き飛ばした.
だが,その爆発だけでは終わらず,一筋の煙筋が壁に迫っていき,ついには壁に接触する.すると,その雷も爆発し,2人は通れるような穴が開いた.そして,その先から光が漏れており,穴の開いた先をよく見ると壁がすべて破壊されており森が見えていた.
「少々,やりすぎたかの.まあいいじゃろ.おい,雷坊やそれに嬢ちゃんも,今のうちに逃げるぞい.」
とブリューナクは言った.
それから,火凜,ブリューナク,アルフレッドはブリューナクが開けた穴から外に出た.




