第1章16話:覚悟
俺達は後ろを向き,臨戦態勢をとった.
「誰だ!お前!」
そして,アルフレッドが問いかけた.
「いえいえ,名乗るほどのものでもありませんよ.ただのしがない軍の一人ですよ.」
と俺達に声をかけた男は飄々と答えた.ただ,その軽い口調とは裏腹に俺達に冷や汗が流れる.
[こいつ,強い]
と思わせる何かがそいつにはあった.
「まあ,そこの無能共とは違いますがね."風"よ,吹き荒れ滅せ!"暴風"」
そして,ぼそっと奴が呟くと同時に風が舞った.
「ちっ!お前ら,俺の近くに来い!"雷"よ,周囲に走り我らを守れ!"雷円"」
とその言葉に俺達はアルフレッドの傍まで近づき,俺達が近づくと同時に雷の円で俺達は包まれた.そして,舞っていた風は暴風となり部屋全体に吹き荒れ,倒れている軍勢がその風によって切り裂かれた.そして,切り裂かれると共に赤い飛沫がその場に降り注ぎ,部屋全体に血の臭いが充満した.
「お前!何やってんだ!そいつら仲間だろ!」
と俺は叫んだ.
「仲間!?何を言ってるんですか?私に仲間なんていませんよ.今肉になったのはただの雑魚です.そんなものと比べないでください.」
と,平然と言ってのけた.
「「なぁ!?」」
その言動に俺達は次の言葉が出てこなかった.しかし,アルフレッドは違った.男に向かって走っていき斧を振りかぶった.
「てめえ!お前が奴らを雑魚だと思おうがそんなのどうでもいい.とにかく俺はお前が気に入らねえ!」
と斧を男に向かって振り下ろす.しかし,男には当たらず空振った.そして,
「ええ,まったく同じ意見ですね.私もあなたが気に入りません.いえ,私以外のすべての存在が気に入りませんね.」
と男の声がアルフレッドの後方で言った.
「とにかく,残った3人の中で厄介なのはあなただけだ.だからまず,動きを封じさせてもらいます.
"風"よ,戒めの鎖となりて,拘束せよ!"風鎖"」
そして,男が言うと同時に風が鎖となってアルフレッドを拘束した.
「こんなもの!"雷"よ,降り注ぎ,鎖を破壊せよ!"落雷"」
とアルフレッドが叫ぶが,鎖は壊れなかった.
「無駄ですよ.足元をよく見て下さい.」
と男が言った.そして足元を見ると,鎖が地面とつながっていた.
「分かりましたか?その鎖はあなたの"雷"を封じるために地面と一体化するように"創造"しました.これであなたはもう"雷"を出せない.あなたの属性が"光"だったら話は別だったんですがね."半人の王子様"」
と男が俺達には意味が分からない言葉を呟き,ニヤリと笑みを零した.
「てめえ!そこを動くな.ぶん殴ってやる!」
とアルフレッドは取り乱したように暴れるが鎖はびくともしなかった.
「そんなこと言わなくても動きませんよ.あなたには残った2人を私が殺すところを見てもらわなければなりません.」
と言い,男は振り向き俺達の方を見た.
「お前ら!逃げろ!」
とアルフレッドが叫び,俺達は駆けだそうとした.しかし,バンッという銃声が響くと,俺達の進行方向に弾丸が飛んだ.
「逃がすわけないでしょう.無駄な抵抗は止めて下さい.どうせあなた達の未来は死で確定しているんですから.」
と銃口から煙が出ている銃を構えながら言った.
「じゃ,どちらから殺しましょうか.そちらのお嬢さんですかね?レデイ・ファーストと言いますから.」
と銃口を火凜の方に向けて弾を撃った.
「ただ死ぬなんて嫌よ!私は死ぬまで抵抗するわ!」
と火凜が叫び,鞘を抜き,撃たれた弾丸を剣で弾いた.そして,火凜に弾かれた弾は2つに分かれることはなかったが,地面に落ちた.
「ほう,これは面白いですね.じゃ,あなたは後にしましょう.坊やから先に殺しましょうか.」
と今度は俺の方に弾を撃つ.
「させない!」
火凜は俺に撃たれた弾も剣で弾いた.弾は今度は天井に向かっていった.
「おや,おや.そちらもあなたが邪魔しますか.いいですよ.我慢比べと行きましょうか.」
と男は銃口を火凜の方に再度向けて弾を撃つ.そして,火凜も撃たれた弾を1発1発弾く.
俺は,その間,男の銃に体はすくみながらも頭の中では必死に考えていた.
(このまま,火凜が弾を押さえているだけではじり貧だ.考えろ,どうすればこの状況を打破できる.
俺が,奴に走っていき殴り飛ばす?いや,駄目だ.アルフレッドの斧でも躱す奴にそんな方法は通じない.
じゃ,矢で奴を射る.駄目だ.俺の矢を射る速度では遅すぎる.やっぱり銃だ.俺にも銃が必要だ.
でもどうしたらいい.奴の銃は奪えない.それに俺の手元にもない.その状況で俺が銃を持つにはどうしたらいいにだ.)
銃が必要だという結論が出たが,この状況では銃を持てないということに気付き思考が止まる.
他に何かないのかと視線を左右に振った所でアルフレッドと風の鎖が目に入った.
(そういえば,アルフレッドは,どうやって雷を呼び出したんだ.この部屋には雲なんてないのに.それに奴の鎖もこの部屋にはなかった.なのにどうやってこの部屋に出現させた.
待てよ・・・.奴はあの鎖を出現させたときなんて言っていた.
[とにかく,残った3人の中で厄介なのはあなただけだ.だからまず,動きを封じさせてもらいます.
"風"よ,戒めの鎖となりて,拘束せよ!"風鎖"]
[分かりましたか?その鎖はあなたの"雷"を封じるために地面と一体化するように"創造"しました.これであなたはもう"雷"を出せない.あなたの属性が"光"だったら話は別だったんですがね."半人の王子様"]
そうだ."創造"だ.この場に俺が"創造"した銃を出現させればいい.でもやったことのないのに俺にできるのか?)
「ほらほら,もっと頑張ってください.」
「くう.」
とそこまで考えたときに,男と火凜の声が聞こえた.火凜の方を見ると,今まで通り弾を弾いているものの弾いた弾の行き先が天井や床だったのがだんだん火凜の体の近くになっているように見え,男の方は弾を撃つ速さがだんだん上がっているように見えた.それに,火凜の剣にはヒビが入っていた.
(やれるかじゃない.やるしかないんだ.)
目を閉じ,右手に自分の魔力を集中させる.
(銃を持つことは未だに怖い.でも,何もせずに火凜や圭介達を失うのはもっと怖い.火凜が言ってたじゃないか!嬉しかったって.信じろ!俺が持つ銃は人を救えると!覚悟を決めろ!俺が撃つ弾によって誰かを救うことも傷つけることもあるということを.そして,自分が選んで出た結果に後悔しないということを!)
自分の心が決まった所で目を開ける.すると右手には,元の世界で自分の部屋に置いていた銃と寸分たがわないものが収まっていた.
そして,俺が銃を手に入れると同時に,火凜の剣が真っ二つに折れた.
「あらあら,これで終わりのようですね.少し楽しくなってきたところなのに残念です.」
と男が改めて銃口を火凜の方に向けた.
「終わるのはお前の方だ!」
と俺は銃口を男に向け,引鉄を引いた.
そして,ドンッ!という銃声がその部屋に響いた.




