第0章2話:幼馴染
あの夢の後,目を閉じて寝ようとしたが,寝付けなかった.
やがて,東から日が昇り,部屋に光が差し込んできた.それと同時に台所からトントンという規則正しく野菜を刻む音と味噌汁の香りが漂ってきた.
「朝飯か.仕方ない起きるか.」
制服に着替え,鞄を持って台所に向かう.
母親が「今日は早いのね.いつもは火凛ちゃんが起こしにくるまで寝てるのに」と小言を言われるが,無視して,席に着き味噌汁をすすった.
次にご飯を食べようと茶碗に手を伸ばした所でチャイムが鳴った.
「噂をすれば火凛ちゃんね.は~い.上がって頂戴」
と母親が嬉しそうに玄関に向かって言う.
すると,すぐに足音がこちらに近づいてきた.
「叔母さん,おはようございます.それじゃ,疾風を起こしてきますね.」
と我が家を勝手知ったる風に俺の部屋に向かおうとするが,そこで俺と目があった.
「何で起きてるの!?いつもこの時間は寝てるのに.ちょっと止めてよね.雨が降るじゃないの.今日の体育ソフトなのよ.四試合連続ホームランがかかっているのに延期になっちゃうじゃないの!」
嫌味を言いながら,俺の胸ぐらをつかんでくるサイドポニーの少女がそこにいた.
彼女の名前は東火凛.俺の幼馴染である.彼女はテストを受ければ10番以内,大会前には運動部の助っ人を頼まれるほど運動神経がよく,10人いれば,10人振り向くほどの美貌であり,まさに文武両道,眉目秀麗なのだが,俺様主義で人の話を聞かずに行動するのである.しかもこんな奴が我が校の生徒会長というのだからこの世も末である.話がそれたが今も火凛は怒りの形相で俺を振り回している.いい加減腹が立ってきたので,俺の胸を掴んでる手を右手で払いのけて言った.
「いいだろ別に!俺の勝手だ.」
「痛いわね.まぁいいわ.早く準備しなさい.今日は全校集会なんだから遅刻なんてできないんだからね.」
と叩かれた手をさすりながら火凛は言った.
「分かってるよ.もう終わる.」
そう言って,味噌汁を飲みほし器をテーブルに置いた.
そして,鞄を持ち,母さんに言葉をかけようとしたが,火凛が俺の腕を掴み,
「それじゃ,叔母さん行ってきます」
と言いながら俺を引っ張り,玄関に俺を引っ張っていった.
そして,これが母さんを見る最後になるとは誰もこの時は思わなかった.




