第1章14話:宝玉
建物の傍に行くと赤い鎧を纏っている男が数名見えたため,俺と火凜は近くの茂みに身を隠した.
「さっきの爆発はあいつらがやったのかな?」
「どうだろ?もう少し近づくか?何か分かるかもしれない.」
と火凜と相談し,低い姿勢を保ち,茂みを移動した.そして,大体5メートルだろうか,男達の装備がはっきり見えるようになると声が聞こえてきた.
「"神器"は見つかりましたか?」
「いや,まだみたいだ.さっきカミーユ様が隠し部屋を見つけたんだが,そこにはなかった.だから,今は手当り次第に爆弾を使って遺跡を破壊して探している.人手が足りないから見回りをしている兵士も参加させよという命令が下った.お前も手伝え.」
「見回りはいいのでしょうか?」
「こんな所には誰も来ないという考えだ.私は他の者を呼んでくるので速く本隊に合流しろよ.」
「了解しました.」
と兵士2人が別方向に歩いて行った.
そして,姿が見えなくなるのを確認すると火凜が話しかけてきた.
「どうやら,あいつらが爆発の原因みたいね.」
「そうみたいだな.でも"神器"ってなんだろ?」
「知らないわ.でもあいつらの話だと結構大人数で探しているみたいだから相当重要なんじゃない.」
「で,火凜どうする?」
「どうするって?」
「応援を呼ぶか,神器を探すか.」
「決まってるじゃない."神器"を探すわよ!」
「でも,結構な人数だろ.もし戦闘になったらどうするんだよ.お前は"付与"まで,俺は"強化"しか使えないんだぞ!」
「そうね.でも,疾風,あなたはここからアールヴヘイムまでの帰り道が分かるの?」
「それは・・・」
「でしょ.だったらもう選択肢は一つしかないのよ.」
と火凜に現状を説明されて愕然とするしかなかった.なのに火凛は笑顔で,
「じゃ,疾風行くわよ!ついてきなさい!」
といい,走り出した.
それから,俺達は建物の周りをぐるりとまわりながら,全然人の気配がしない入口を探し,そこから建物の中に侵入した.そして,火凜が前,俺が後ろを警戒しながら,なるべく足音を立てないように建物の中の探索を始めた.
建物の中は想像以上に入り組んでいた.なので,曲がり道が来るたびに火凜の剣で目印をつけながら進んだ.
そして,行き止まりの通路があったため,元来た道を戻って道を変更することを何回か繰り返しながら進むと,今までの行き止まりより大きな空間に出た.
「また,行き止まりか.でも今までの道よりは広いな.」
と俺が感想を呟くと,火凜が,
「ねえ,疾風あれ見て.」
と指差した.するとその空間の真ん中に台座があり,そこに緑色の宝玉が収まっていた.
俺達はその台座に近づき,
「ねえ,これが"神器"なの?私武器的なものを想像してたんだけど.」
と火凜が言った.
「俺もそうだ.だけど,これがそうかも知れないから持っていこうぜ.」
と俺が言い,宝玉を持ち上げた.
「そうね.疾風それ貸しなさい.私が持つから.」
と火凜が言い出し,手を差し出した.なので,俺は持ち上げた宝玉を火凜に渡そうとしたが,宝玉が火凜に触れた瞬間バチッと音がして,火凜が後ずさった.
「何?今の.疾風何かした?」
「いや,俺は何も.」
「まあいいわ.やっぱりそれは疾風が持ちなさい.」
と火凜が手を擦りながら自分の意見を取り下げたので,俺は宝玉をズボンのポケットに入れた.
「じゃ,ここから出るわよ.」
と火凜が言い,俺達はこの部屋に入って来た入口に戻りだした.しかし,その途中で,爆発音が響き,俺達が入ってきた入口のすぐ近くに穴が開いた.
そして,そこから,
「これで,8部屋目と.そろそろあって欲しいんだけどな.」
と先程俺達が話を聞いていた兵士がこの部屋に入って来た.
「まずい!」
と俺が言うと,火凜がその兵士に向かって走り出した.
そして,その兵士が,
「お前ら,何者だ!何処から入った!」
と言っている間に火凜が剣を鞘ごと振り回し,男の側頭部にぶち当てた.
するとその兵士は前のめりに倒れた.
しかし,倒れると共に,ビーという音が部屋全体に降り注いだ.