第1章11話;トラウマ
負けた後,俺は地面に寝転がっていた.
サラは,「楽しかった~.今度は魔法も交えてしようね.」と言って去って行った.
サラは,俺がサラの頭を狙えなかったことには,気付いていないようだった.
「なんだ.いつもの時間だからここに来たのに,いるのは負け犬だけか.」
とそこに声が響いた.誰かと思って顔を上げるとアルフレッドが立っていた.
「耳まで遠いんだな,負け犬.」
と,続けて言ってきたので,俺は立ち上がり,アルフレッドの胸ぐらを掴んで言った.
「聞こえてるよ.負け犬って何のことだ!」
「離せよ.負け犬.お前に触られたら負け癖が移るだろうが!」
とアルフレッドは俺の手を弾いて言った.
「だから,負け犬って何のことだよ.」
と再度,俺が問い詰めると,
「模擬戦ごときでも,頭を狙えないから負け犬だと言ってんだ!」
とアルフレッドが言い,その言葉に俺の動きが止まった.
「見てたのか.」
と,振り上げてた手を降ろして言うと,
「見たくて見たわけじゃない.流れ矢が俺がいる所に飛んできて,それに当たらないように木に登ったら見えただけだ.サラは気付かなかったみたいだけど,転がりながらでも膝を射抜けるような奴にサラが勝つのがまずおかしいんだよ.あの後,頭を狙えば間違いなくサラが負けてたはずだ.なのにお前は負けた.」
言葉が出なかった.
「お前,一緒に来た奴らと元の世界に帰ることが目標らしいな.」
「ああ.」
「今のままだと,お前のせいで全員死ぬぞ!」
と言ってアルフレッドは去って行った.
そして,去り際に
「俺はもう目の前で知ってる奴が死ぬのは嫌なんだ.」
と小声で言ったのが聞こえた.
「あいつ,俺のこと馬鹿にしにきたのか,励ましにきたのか,どっちなんだ?でも俺のせいで火凜達が死ぬか・・・でも,どうすりゃいいんだよ!くそっ!」
と俺は吠えた.俺が人を射れない原因は分かっている.あの時の事件が原因だ.
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俺は昔はガンマンに憧れていた.
きっかけは何だったか忘れたけれども,恐らく西部劇の映画だったと思う.
街の中で荒ぶる荒くれ者に向かっていく保安官,そして,1,2,3の掛け声で悪人を撃つ早撃ちが格好いいと思った.それから遊びに行くときは銃を持ち歩いた.最初は音しか出ない銃,次にコルク銃,モデルガン.歳をとると共に本物を求めていった.そして,日本では一般人には銃を持てないことを知ってもあきらめなかった.親に頼み込みオリンピック種目「ラビット・ファイア」の競技者になった.そして,小学校の高学年の頃にはオリンピックの強化選手に選ばれていた.すべてが順風順風満帆だった.あの時までは・・・
あれは,小学校6年生の夏だった.その時はたまたま火凜も一緒だった.火凜とは,昔は仲が良かったのだが,俺が「ラビット・ファイア」を始めたことや思春期がはじまったことで少し疎遠になっていた.その時は火凜の友達のほとんどが里帰りしてしていたことと,墓参りの帰りに会ったので久しぶりに遊ぼうという話になり,俺は火凜に格好いい所を見せてやろうと,モデルガンを持って公園に行き,空き缶を撃つ所を見せてやった.案の定火凜は,面白がり,自分もやりたいと言いだした.それからは変わりばんこに銃で空き缶を撃った.火凜は最初は缶を外していたが,すぐにコツを掴んだ.それが悔しかった俺は,火凜が真似できないような撃ち方を始めた.
それがいけなかった.
ある撃ち方をした俺が撃った弾は缶を外れた.そして,その外れた弾がその時通りかかった高校生の一人に当たった.
そして,弾に当たった高校生がこちらにやってきて,
「坊主,いいもん持ってるじゃねえか.それを俺達に貸しな.」
と言われた.俺が拒否したら暴力を振るわれ,押さえつけられ無理やり銃を奪われた.火凜はその時,震えていた.そして,その高校生たちはしばらくは空き缶を撃っていたが誰一人として,当たらなかった.癇癪を起した一人の学生が,
「こんな小さい物あてても面白くねえよ.何か別の物撃とうぜ.」
と言った.他の学生は,
「何を撃つんだよ,」
と尋ねると,
「そこにいるじゃねえか.的が」
と言い,俺達の方を指差した.
その言葉に,何人かは,「それはさすがに」と言っていたが,「面白そうだな」と乗った学生もいた.
そして,最初は俺が撃たれたが,殴られた痛みによって,俺達を撃とうといった高校生の気に召さなかったのかすぐに飽きられた.
そして,その高校生たちは次に火凜を狙いだした.
火凜は弾が当たると俺と違って痛がったので,高校生の行動はエスカレートしていった.まず髪を左右から引っ張って動けないようにすると,足や腕など服に覆われていない部分を狙うようになっていった.
そして,ついに火凜は泣き出した.それがどうしても許せなかった俺は,銃を持っている高校生に飛びかかり,銃を持っている腕をかんで銃を奪おうとした.しかし,俺が銃を取った時に,トリガーが折れて弾が暴発し,高校生の目に命中した.当たった高校生は目を押さえて地面にうずくまった.
そのころになるとようやく近所の人が呼んだ警察がやってきて事件は収束した.だが,その事件の傷跡はあまりにも大きかった.
あの時の高校生は全員退学になり,俺が撃った高校生は失明したと噂で聞いたが,
火凜はしばらく何か所か痣が残り,夏だというのにしばらく長袖で過ごさなくてはならなかった.それに,弾が耳に当たったらしく,耳に傷が残ったため髪型がそれからはサイドポニーになった.そして,一番の問題は髪を引っ張られて痛い思いをしたことから他人に髪を触られることを極端に嫌がるようになり,しばらくは明るかった性格がしばらくは見る影もないくらい暗かった.
なので,謝る機会を逃していた.
それに,俺は,銃で撃たれた恐怖,火凜を守れなかった恐怖,そして,人を撃ってしまった恐怖から銃を持てなくなり,強化生を辞めなければならなくなった.
その時に,保安官は所詮創作の物語であり,自分にはなれないのだと悟った.
そして,夢を失い宙ぶらりんの状態になった俺はぐれた.
幸い,圭介のおかげで更生することはできたが,いまだに銃が持つことができず,人に攻撃することにも恐怖を感じる所は治らなかった.
そして,火凜に謝ることもまだできず,このトラウマの克服方法も分からないままである・・・