第1章10話:模擬戦
無心になる.無心になって矢を射る.
なのに,矢を射れば,射るほど矢の遅さが気になってしまう.
銃が手元にあれば,もっと速く的を撃ちぬけるのにとどうしても考えてしまう.
銃への思いはあの時捨てたはずなのに.火凜が怪我をして,俺が人を失明させたあの時に.
___________________________________________
「ハヤテ.ハヤテってば!」
とサラに体を揺さぶられて目が覚めた.
「ん.サラどうしたんだ.」
「どうしたじゃないわ.まるで機械みたいに動いてたくせに.もう矢はないはずなのに,矢を探して矢を射る動作を何回もしたら心配するわ.」
「悪かった.どうやら心を空っぽにしすぎたみたいだ.」
とサラが俺をゆすった理由を教えてくれ,俺は謝った.
どうやら,銃のことを考えてしまった間,体は無意識に動いていて,すべての矢を射ってしまったらしい.
状況が分かって的を見ると,すべての矢が黒い部分に刺さっていた.なんか無意識のほうがすごくないか,俺.
いつもは調子が良い時でも1,2本は外すのに.何気に記録更新してるし.
「なら,いいけど.もう止めてよね.心配するから.」
と俺がまた意識を飛ばしてる間にサラが何かを言ったが聞き取れなかった.
「それじゃ,もう全部終わったんだから,これを片付けたら今度は私に付き合ってよね.」
と今度は聞き取れたので,了承の言葉を言い,2人で矢と的を片付けた.
そして,サラがついて来いと促してきたのでサラについていくと裏庭の隅,さっき俺達が矢の練習をしていた場所よりも奥の森のそばに来た.
「それで,何に付き合うんだ.」
と俺が言うと,
「これを着けて.」
とサラが何かを投げつけてきた.
それを拾うと,
「サポーターとヘルメット?」
と明らかに見たことのあるものだった.
「それを着けて模擬戦するのよ.サポーターは肩と肘と膝につけてヘルメットは被って体を"強化"して.それをすると,防御してない所が倍の魔力で覆われるわ.私達はこのサポーターとヘルメットを狙って矢を射るの.サポータに当たれば,当たった部分が重くなって動きを阻害するの.ヘルメットに当たれば,地面に叩きつけられるから.ヘルメットに矢が当たれば負けね.そんなに心配しなくても大丈夫よ.魔力で覆われた部分に矢が当たっても,体に刺さらずに地面に落ちるから.いつもは兄様とするんだけど,一度同じ武器を使う人とやりたかったの.」
と俺が準備している間に,サラがこれから行うこととルールを簡単に説明してくれた.
そして,サラと向き合って,矢を構えた所で,
「準備はいい.じゃ,始めるわよ.」
と模擬戦が始まるが,始まると同時に矢が飛んできた.俺は矢を回避すると,サラに向かって矢を射ろうとした.
ところが,先程,昔のことを思い出しただからだろうか,一瞬サラの顔が失明させた奴の顔に見えた.
そして,体がわずかに硬直するのが分かったが無理矢理矢を射った.しかし,サラの方に向かって飛ばず,それどころかサラに右膝を射ち抜かれた.
急に右足が重くなり,大勢が右に崩れる.追撃の矢が飛んでくるのが視界の端に見えたので,左足で飛び,地面を転がる.一回転,二回転,三回転,そして,四回転目で回転の勢いを利用して起き上がると同時に,2本の矢を放つ.今度は当たり,サラの左膝を射抜いた.
両方とも足を射られたことで,動きが鈍る.だが,俺は左足で動いたり体をひねって矢を躱し,サラは,反対に動きを止めて,向かってくる矢を自分の矢で撃ち落す.そして,俺もサラもその間を縫って矢を射った.
しばらくは一進一退の攻防が続いたが,徐々に均衡が崩れていく.
頭が射れないのだ.頭を射ろうとしても,どうしても,失明させた瞬間が頭にこびり付いて離れない.なので,攻撃の速度を鈍らそうと肘を狙うが肘付近は回避しやすいために当たらない.サラは足を止められてからは俺の頭を中心に狙ってきていた.そのため,矢をよけそこなって肩に当たり,逆にこちらの動きを止められる.
そして,ついには頭を射抜かれ,異世界に飛んで最初の模擬戦は惨敗をきした.