第1章9話:西条流弓術
俺は絶え間なく矢を的に射ながら弓の感触や弦の張りを確かめていた.
ただし,その射方は独特で常に移動しながらだ.俺が行っているのは西条流弓術と言い,圭介の家で教えてもらったものだ.
一般の弓道は
的に向かって両足を踏み開く「足踏み」
両足の上の上体を安静にする「胴造り」
矢を番えて弓を引く準備をする「弓構え」
弓矢を持った両拳を上に持ち上げる「打起し」
弓を押し弦を引いて、両拳を左右に開きながら引き下ろす「引分け」
弓を引き切り矢を的を狙う「会」
矢を放つ「離れ」
矢を放った姿勢を保つ「残心」
の8つのの動作から成り立ち,この動作をまとめると射法八節と呼ばれる.
西条流弓術はこの射法八節を戦闘用に昇華させ,常に移動しながら矢を射るようにした.
つまり,一般の弓道が固定砲台なら,西条流弓術は移動砲台なのである.
それに,間を置かず矢を射る「連射」,同時に複数の矢を射る「掃射」に重点を置き,高い攻撃力を誇る.
考えても見て欲しい.常に距離を保たれながら矢が放たれ,矢が間をおかずに飛んで来たり,矢がよける隙間もなく飛んでくる恐怖を.
しばらく矢を射ち続け,矢筒に入っていた矢がなくなった所で,俺は一息を置いた.
「ふう~.やっぱ久しぶりだから感覚が鈍ってんな.」
的を見ると的の黒い部分の中心を狙っていたはずなのに,何本か黒い部分を外れていた.
もう一度練習しようと的に行き,矢の回収を始めた所でサラが話しかけてきた.
「すごいじゃない,ハヤテ.7本しか外さないなんて.ワタシは移動しながらならもっと外すわよ.」
「全然すごくない.俺の流派では外さないのが当たり前なんだよ.俺もいつもなら,こんなに外さない.まあ,慣れたから次は全部射抜くけど.」
と俺は答えた.すると,サラが,
「じゃ,この的じゃなくて,別の的を射ってよ.外さない的に射っても鍛錬にはならないわ.」
と言ってきたので,
「基本が大事なんだよ.基本を怠るものは成長しないよ.」
と正論を返す.それでも,サラは諦めきれないのか,
「じゃ,その基本は何本射つと,終わるのよ!基本が終わった後に応用をしなさいよ!」
とキレ気味に言ってきた.俺は,
「そうだな,500本ぐらいかな.それだけ射てば満足かな.」
と答えた.サラは,
「いいわ.ならちょっと待ってなさい.」
と一言だけ言うと,城に戻って行った.
そして,俺が矢をすべて回収し,矢を最初に射た所に戻ると同時にサラが帰ってきた.そして,その手には4つの的を持ち,背中には5個の矢筒を背負っていた.
「はあはあ,的と500本の矢よ.あんたが射ち終わるまで手伝ってあげるから,最後は私に付き合いなさい」
とサラが言い,俺は分かったと了承した.
それから,サラが持ってきた的を準備し,サラから矢筒を受け取って矢を射ち始めた.
そして,しばらくは静寂の中に弦から矢が放たれる音と矢が的に当たる音だけが響いた.
この話で用いる弓術,後に出てくるであろう剣術はネットなど参考にはしますが,ほとんど作者の創作です.なので,おかしい部分があっても多めに見て頂くようお願いいたします.