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普通の兵士になりたかったのに、皇帝直属の隠密として帝国の闇を任されすぎている  作者: ネコミコズッキーニ
3章 ちょっと市場調査をしに行くだけの任務ですよね?

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エピローグ 皇帝陛下とヴァネッサ

 ヴァネッサ室長は第一報として送っていた俺の報告書の他、バニィが情報院に提出した報告書も受け取っていたらしい。


 そのおかげで現地でどう活動したのかは把握していたのだが、だからこそ行きついた結果が実に不可解だと顔をしかめていた。


「わたしはお前に言ったな? 禁制品を見つけても手を出すな……と」


「あ、はい……」


「しかもドライガンまで……よくも長年うまく脱税していた男を短期間でその罪を暴けたものだ」


「ほ、ほめてます……?」


「あぁ? ほめているが?」


 口調と顔がほめてませんやん!


「いや、たしかにちょっとやりすぎたかもですが……」


「ほう。ちょっと。」


「でも仕方がなかったんですって! 商務官たちはブラックマーケットに行っちゃうし、そこで騒動になって禁制品も見つかったし……!」


「少なくとも倉庫街で〈海の走者(マリス・コルサ)〉の連中と会ったときに、黒仮面をつけておく必要はなかったと思うが?」


 おっと……そういやあのときって、なんで黒仮面をつけていたんだっけ……。


 そうだ。バニィちゃんが「紋影官シジル・シャドウが来たというシチュエーションで乗り込もう!」とか言っていたからだ。


 で、俺も乗っかってしまった。久しぶりにバニィに会えたことでテンションが上がっていたのと、スパイ小説っぽい展開が少しおもしろそうと思ったからだ。はい、俺のせいですね。


「ま、まぁ……情報を得るのに一番効率がいいかと思いまして……」


「たしかに効率はよかっただろう。だが商務官たちがブラックマーケットに潜入すると決めたのも、紋影官シジル・シャドウがバックについているという安心感があったからではないか?」


 ど……どうだろう……。少なくともアリアシアはそんなの関係なく、あの倉庫にたどり着いた時点でそのままブラックマーケットに潜入していたように思えるけど……。


「なんと言いますか……実際、商務官はけっこう優秀でしたよ。途中で俺が介入せずともブラックマーケットに行きついていたと思えるくらいには」


「ほぉ……ずいぶんと高く評価しているではないか」


 ちなみにアリアシアにはあの夜しっかりと「秘密は守る」と約束した。


 途中で被害妄想が入って「ああ……わたしは今後、この事でずっと強請ゆすられ続けるのね……。所かまわず呼び出されて、あんなことやこんなことを強要されるんだわ……」とか言って騒ぎ出し、なだめるのにかなりの時間を要してしまった。


 でも個人的には真面目なメガネっ娘とのギャップもあって、あの姿のアリアシアもなかなかわるくないと思う。


「ハァ……結果を出したのは認めてやる。だが終わり良ければ総て良しの精神で、派手に暴れてもらっても困る。一応、我らはその活動が明るみに出ないというのも大事な点なのだからな」


「あ、はい」


「とにかく今一度、紋影官シジル・シャドウとしての自覚を持て。能力は申し分ないのだ、加減を覚えろ」


「……うぃっす」


 え!? ぜんぜん加減していた結果の話なんですけど!? 


 というより「うおおぉ! 紋影官シジル・シャドウとしてめちゃくちゃ尽力しちゃうぜえぇぇ!」という気持ちで任務に臨んだこと自体がないし。


 あと能力を認められても素直に喜べない。なぜなら「お前は能力があるからこの程度の任務は容易くこなせるだろう」と、高難度な仕事を振られる予感しかしないからだ。


 あぁ……普通の兵士になりたい……。





 その日の夕方。レオンから詳細な報告を受けたヴァネッサは皇帝ガルディアスと面会をしていた。


「もしかしてレオンくんは派手に動かないと気がすまないのかな?」


「どうでしょう。ただ報告を聞く限り、今回は短期間かつ最低限の被害で最大の戦果をあげたとも言えます」


「戦果だけを見ればそうかもしれないが……おかげで宮中はてんやわんやだ」


 レオンがオルディア領で任務を全うした余波は帝都にまで及んでいた。


 急遽、帝国監政院と帝国商務院から大量の役人を送らねばならなくなったし、それはそれでコストが発生する。


 マフィアと関係の深い海外資本を追い出したのはいいが、問題はオルディア領の今後だ。今も次期領主が定まっておらず、政治空白も生まれている。


 そこらの田舎領地ならともかく、オルディア領はいつまでも放置はできない。基本的に次期領主を指名するのは現領主だが、その現領主が今は牢獄の中だ。


 また妻や息子など、血縁者も不正行為に関係していた可能性があるとして取り調べが進んでいる。


 ガルディアスとしては一時的に代官を送るかを決めねばならなかった。


「しかしドライガンもよくもこれだけ堂々と不正行為に手を染めていたものだ」


「逮捕が1日遅れるだけでも相当な横領がはびこっていたでしょう」


「ま、ごく短期間で罪を白日の下にさらした手腕はさすがといったところか?」


 たしかにレオンの解決手段はあまりにもめちゃくちゃだったが、結果だけを見れば短期間で死者を出すことなく問題を解決している。


 またブラックマーケットには〈深渦の核(アビスコア)〉を含め、全部で18種類もの禁制品があったと言う。ヴァネッサとしてもそれだけの種類と数を溜め込んでいたのは予想外だった。


 放置すればまたどこかで流れる危険性もある。〈深渦の核(アビスコア)〉を使ってすべて消滅させたのは、強引ではあるがその場の判断としては合理的な側面もある。


 ちなみにレオンは「〈深渦の核(アビスコア)〉を起動させたのはマフィアです!」と言い張っていたが、ヴァネッサはまったく信じていない。


「これだけの規模で行われていた横領に禁制品の数々……まともに対処しようと思えば、おそらく数ヶ月はかかっていたでしょう」


「それをオルディア領に乗り込んで約5日で物理的に解決……ずいぶんと優秀な黒紋監察室ブラックシジルではないか。……あとの被害を考えなければな」


 次期領主の件も含め、オルディア領はしばらく監査や復旧に時間がかかる。


 そこで発生するコストを考えると、この強引な解決手段とどちらがいいのかはヴァネッサとしても判断に困るところだ。


 だが今回はそれよりも注視すべき点が3つある。


「技管局の試作品〈赤い息(レッドブレス)〉が流れていた点は見過ごせませんね」


「そうだな……一番黒いのはゴドウィンだな。まったく……ジェイケルも奴の手綱を握れていないと見える」


 技管局の発明品の中でも、試作品の流出はとくに避けなくてはならない。他国に漏れて解析でもされてしまったら、帝国の優位性が崩れるからだ。


 とくに〈赤い息(レッドブレス)〉は、一時的に仙勁オーラレベルを高めるという薬である。現段階では激しい副作用もあって著しく実用性に欠けるのだが、完成すれば帝国に大きな恩恵をもたらすだろう。


 これが注視すべき点の1つ目だが、2つ目は。


「しかしヴァネッサ……まさかこれほど早く第一皇子派と第二皇子派の均衡を取り戻してくれるとは思わなかったぞ」


「それについてはわたしもです」


「レオンくん……想像以上に“使える”人材だな」


 ドライガンは横領した税金を何に使っていたのか。それは第一皇子派への資金援助だ。


 彼はヴァルカ商会を通じて巧妙に帝都に送金を繰り返しており、それが第一皇子派の資金源となっていた。


 今回ドライガンが逮捕されたことで、第一皇子派は貴重な資金源を失ったことになる。


 少し前に第二皇子派は終夜会との関係が切れてやや弱体化していたが、今ごろ第一皇子派はその時の第二皇子派以上に混迷しているだろう。


「1年以内に再び均衡が保てれば上出来だと思っていたが、まさかたった1ヶ月ちょいで成果を出すとは……」


 第一皇子派の勢いは間違いなく削がれることとなる。


 純粋な勢力では第一皇子派のほうが頭一つ抜けているが、これは第二皇子派が夜終会とつながっていたときも同様である。つまり見事に元の状態に戻せたと言えるのだ。


 それも互いに力をつけて均衡状態になったのではなく、力を削がれての均衡状態。一見すると少し前と同じ均衡が保てている状態だと言えるが、中身はまるっきり異なっている。


「レオンくんには今後も期待させてもらうとしようか。だが今回、〈深渦の核(アビスコア)〉が出てきたのは予想外だったな」


 ここでヴァネッサは真面目な表情になる。これが3つ目の注視すべき点だ。


「はい。レオンの話によると、どうやらヴァルカ商会の支部長が購入したもののようですが……」


「あぁ。ドライガンも〈深渦の核(アビスコア)〉についてはさすがに知らなかったようだ。まぁもし知っていれば、まともな領主ほど自分の領内に置いておきたいとは考えないだろうしな」


 レオンのミスは、〈深渦の核(アビスコア)〉の入手経路を調べる前にマフィアを海外に逃がしたことだ。


 たしかにドライガンを優先するという現場判断も理解できるが、〈深渦の核(アビスコア)〉は禁制品の中でも危険度が違う。


「この手の禁制品を扱う者たちといえば、心当たりは一つしかありません」


「〈黒曜オブシディアン聖団サンクトゥス〉か……帝国内にも活動拠点は作っているだろうし、なんとか排除したいところだが……」


黒曜オブシディアン聖団サンクトゥス〉……過去には他国で大きな事件を起こしており、どこの国も警戒しているカルト集団になる。


「情報院のほうで何か手がかりはつかめていないのですか?」


「ああ、残念ながらな。だがオルディア領に現れた可能性が高いのは事実。足取りを追わせてはいるが……どこまで期待できるものか」


 いくつもの光と闇を内包する帝国ではあるが、〈黒曜オブシディアン聖団サンクトゥス〉だけは毒にしかならないため、徹底した排除方針を取っている。


 もっともそれはどこの国も同じではあるのだが。


「まぁここでいくら気にしていても仕方がないことではある。それより帝国はもうすぐ春……青風の月を迎える。新たな年度の幕開けだ。引き続き頼むぞ、ヴァネッサ」


「はっ」


「それから今年度よりアナスタシアがアストラ学院へ入学することとなる」


「存じております」


 帝立アストラ学院……帝都を代表する3つの教育機関の1つで、貴族子女のみが入れる学院だ。ヴァネッサも当然、第六皇女が入学することは把握している。


 だが今、アストラ学院ではとある疑念があった。


「頼むよ? 情報部でも動いてもらっているが……セレーネとアナスタシアに何かあれば帝国がどうなるかわからないからね?」


「…………はい」


 ヴァネッサはアストラ学院の問題をどうするかを考える。


 今はまだ情報院が動いている段階だ。しかし黒紋監察室ブラックシジルとして前もって動いていてもいいかもしれない。


(まぁ今すぐにどうこうという話でもない……が、手は打てるように準備は進めておくか)

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