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普通の兵士になりたかったのに、皇帝直属の隠密として帝国の闇を任されすぎている  作者: ネコミコズッキーニ
3章 ちょっと市場調査をしに行くだけの任務ですよね?

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暴かれる罪状 ドライガンと紋影官

「な…………」


 深くかぶったフードから覗く不気味な黒仮面。それを見てドライガンは目の前の人物がだれなのか、すぐに思い当たった。


「し……紋影官シジル・シャドウ……! ほ、本当に……実在、したのか……」


 ドライガンとて紋影官シジル・シャドウの存在は何度も聞いたことがある。だが実際に見るのは初めてだ。


 初見でも「こいつが紋影官シジル・シャドウか」とわかる異物感。裏社会では処刑人としても恐れられているという、皇帝陛下より特別な権限が与えられている存在。


 それがどうしてここへ姿を見せたのか。


 だがアリアシアたち4人は驚いていなかった。それどころか兵士が笑みを向けてくる。


「言っただろ? 観念したほうがいいのは領主様のほうだって」


 兵士の言葉を聞き、ドライガンは2つの可能性に思い当たっていた。


 1つ目は目の前の紋影官シジル・シャドウは本物で、自分の横領を罰しに来た可能性。


 2つ目はアリアシアたちが紋影官シジル・シャドウをでっちあげ、自分の罪を自白させようとしている可能性だ。


「ふん……驚きはしたが……。それで? なんの用だ?」


 相手が本物かわからない以上、無意味に恐れるのもよくない。ドライガンは平静を装って紋影官シジル・シャドウに視線を向ける。


 黒仮面の人物はズカズカとドライガンの前まで来ると、机の上にいくつかの品を並べていく。それらを見てドライガンは両目を大きく見開いた。


「これ……は……」


「昨日の夜、ブラックマーケットにて押収したシナモールだ。そしてこっちは〈赤い息(レッドブレス)〉……どうしてこんなものがオルディア領にある?」


「……………………っ!」


 その声は男性とも女性ともわからない、無機質な声だった。シナモールもまずいが、もっとまずいのが〈赤い息(レッドブレス)〉だ。


 技管局の試作品ともなれば、当然だが外部への持ち出しは固く禁じられている。ましてやそれを売ろうとしていたとなると、領主といえど重罪は免れない。


「い、いや……! こんなもの、あるはずが……!」


「モーリックが教えてくれたよ。自分たちがいかに領主に協力してもらってブラックマーケットを取り仕切っていたのか。禁制品をコレクションすることができたかを……な」


「な!?」


 今の言葉が本当だとすれば、紋影官シジル・シャドウはモーリックから情報を引き出したということになる。


 モーリックとて自分から不利になるようなことを話すがない。つまり。


「まさか……モーリックたちと戦ったのか……!?」


 戦ったうえで勝利し、そして口を割らせた。そう考えるのが自然だ。


「バカな……! べ、ベネテリーもいたはず……!」


 ドライガンもモーリックとベネテリーの実力はよくわかっている。とくにベネテリーは帝国でもそうはいない仙勁オーラレベル8に届く実力者だ。


 しかしなんでもないように紋影官シジル・シャドウは答えた。


「あぁ、いたな。追い詰められたモーリックが証拠隠滅を狙って〈深渦の核(アビスコア)〉を発動させたのは予想外だったが……」


「なっ!? あ、〈深渦の核(アビスコア)〉だと!?」


 昨夜の爆発の原因がはっきりした。はっきり言って〈深渦の核(アビスコア)〉はドライガンの手に余る。


 たとえ持っていたとしても、あれは使うようなものではない。持ち続けることに意味があるような闇道具だ。


 逆に言えば、モーリックはそれを使わざるを得ないほど追い詰められていたということ。だれにか……もちろん目の前の黒仮面によってだ。


「あ、あんなものを……! モーリックが……! し、知らん! 私は知らんぞ!」


「モーリックは最後にヴァルカ商会の裏帳簿を譲ってくれたよ」


「はっ!?」


 紋影官シジル・シャドウが信じられないことを言う。彼は懐から分厚い冊子を取り出した。


「ここにはブラックマーケットも含めた取引が詳細に記録されているのはもちろん、ドライガンといつどこでどのような打ち合わせを行い、どうお互いに便宜を図ってきたのかも記されている。証拠というには十分すぎるだろう」


「バカな!? そ……それは偽物だ! 私をおとしいれるための罠だ!」


 全員の冷たい視線が突き刺さる。そもそもなぜ紋影官シジル・シャドウはヴァルカ商会の裏帳簿を入手できているのか。


 ヴァルカ商会はミルドリス共和国のマフィアが深く関わっているだけあり、他にも多くの実力者がいる。普通に考えればそんなヴァルカ商会から裏帳簿など手に入れようがないのだ。


 しかし目の前の男は仙勁オーラレベル8のベネテリーを撃退できるほどの実力者。おそらくウワサに聞く“異能”も関係しているのだろう。


 この時点でドライガンは目の前の男が本物であると確信していた。一騎当千の実力を誇る皇帝陛下最強の懐刀、紋影官シジル・シャドウであると。


「お前は勘違いをしているようだな」


「なにぃ……!?」


「すでに結論は出ている。ドライガン、貴様にはシナモールを不当に市場に流した〈専売権侵害罪〉、税をかすめ取った〈公租横領罪〉および〈帝国収奪罪〉、ヴァルカ商会とブラックマーケットを運営した〈不正商取引共謀罪〉、禁制品の流通に関与した〈禁制品取扱罪〉、領主としての立場を乱用した〈統治権背任罪〉についての容疑がかかっている」


「は……は、は……………………!?」


 ここで前に出てきたのはアリアシアだった。


「ドライガン様……もうわかっているはずです。どうしてこの場に紋影官シジル・シャドウがいるのか」


「う……!」


「彼はあなたがすでに税を横領し、禁制品にも関わっていることを掴んでいたからこそ、この地へ乗り込んでこられたのです。そして紋影官シジル・シャドウは皇帝陛下の目であり耳。すでにこのことは陛下もご存知のはず」


「はは、は……!? あ……!?」


 そうだ……黒紋監察室ブラックシジルは皇帝の直属組織。そのエージェントたる紋影官シジル・シャドウは、いわば陛下の名代と言っても差し支えない存在だ。


 なんの理由もなくそのような人物をオルディア領に送り込んでくるはずがない。つまりどれだけ言い逃れをしようとも、初めから詰んでいたのはドライガンのほうなのだ。


「そ、んな……ははははは……ばかな、話……………………はははははは……」


 紋影官シジル・シャドウが姿を見せるときは、必ずなにか大きな事件がかかわっており、そしてそれを終わらせに来るときである。


 ドライガンはそのことを身をもって実感していた。





 いや、アリアシア……俺はべつに禁制品の証拠とか何も掴んでいなかったんだけど……。そもそもヴァネッサ室長もここまで大事になるとは思っていなかったと思うよ!


 ちなみに昨夜は屋敷を出たあと、そのまま港近くにあるヴァルカ商会の店舗へと向かった。そこでまたまたモーリックたちと再会したのだ。


 ディアンとルレットもいたけど、2人ともフラフラになっているモーリックたちと俺を見て驚いていた。そんな彼らに俺は「裏帳簿をくれ」と頼んだのだ。


 モーリックの指示を聞いて素直に渡してくれたので、姉妹は〈連鎖廻獄〉によって高速回転することはなかった。


 また大人しく裏帳簿をくれた代わりに帝国から出ていくことを見逃すことにした。


 二度と帝国の地には足を踏み入れないと言っていたし、そもそも俺1人ではヴァルカ商会関係者全員を捕えて閉じ込めておくことは不可能だ。


 このあたりはもしかしたらヴァネッサ室長から叱られるかもしれないが、それよりもドライガンの横領をどうにかするほうを優先した。


 現状、ヴァルカ商会はドライガンと組んでちょっとわるさをしていただけだし。


 禁制品コレクションは罪としてはかなりのものだが、あれらはすべて〈深渦の核(アビスコア)〉の爆発に巻き込まれて消えた。


 モーリックとしてももともと使うつもりはなく、本当にコレクションのつもりだったぽいしな。


 なんにせよ禁制品も消え去った今、ヴァルカ商会の罪についてはドライガンと比べるとかわいいものである。


 それと〈深渦の核(アビスコア)〉を使ったのはモーリックということにした。これで「爆発を起こしたのは俺じゃないっすよ~」と言い訳をするつもりである。


 まぁ実際、あれは事故みたいなものだったし!


「すでに……陛下は存じていたということか……!」


 ドライガンが何か勘違いしている……。まぁ今回の仕事は間接的とはいえ、ノア先輩をアシストすることにもつながるだろう。


 俺はレイモンドに身体を向ける。


「帝国監政院よりドライガンを捕えるための人員が送られてくるだろう。それまで部屋に監禁し、絶対に逃さないようにしろ」


「は、はい!」


 ドライガンは帝都に移送され、そこで罪を裁かれるはずだ。オルディア領はこれから大変だろうが、まぁ俺には関係ないこと……だよな?


 そんな漠然とした不安を覚えながらも今度はアリアシアとアーミックに顔を向ける。2人とも背筋がシャキッと伸びた。


「帝国商務院より本格的な監査のための人員も送られてくるだろう。ドライガンが口を割らずとも、いずれ裏帳簿も見つかるはずだ」


「はい……!」


「ただしドライガンとグルだった使用人が証拠隠滅に動く可能性もある。親族や執事含め、信用できない者はドライガン同様にどこかへ閉じ込めておけ」


 最低限これだけ指示を出しておけば、あとは帝都から来た役人たちがなんとかするだろう。


 どうでもいいけど、黒仮面をかぶっている時はちょっとハードボイルドっぽい態度で話せることが気持ちいい。


 しかし今回はブラックマーケットの実態調査がメインの任務だったのに、気づけばブラックマーケットは物理的に壊滅。さらにドライガンの横領まで明るみに出てしまった……。


 明らかに当初ヴァネッサ室長から言われていた仕事の範疇はんちゅうを超えすぎている。帝都に帰るのが怖い……。


 そんなことを考えつつ、俺はさっさと部屋を後にして仮面を外す。そして水を飲んで変声アメの効果を切り、兵士の服装に着替えて何食わぬ顔でランド隊長やレイモンドたちと合流する。

 

 そうしてドライガンや使用人の監禁を手伝ったのだった。

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