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普通の兵士になりたかったのに、皇帝直属の隠密として帝国の闇を任されすぎている  作者: ネコミコズッキーニ
3章 ちょっと市場調査をしに行くだけの任務ですよね?

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ドライガンとアリアシア

「えぇぇぇい、どういうことだ!?」


 ドライガンは屋敷に戻るとすぐに執務室へと移動する。そして執事にあらためて昨夜の出来事について確認を取った。


「そ、それが……理由は不明なのですが、モーリック殿の屋敷が大爆発を起こしたのは事実でして……」


「理由が不明だと……!? モーリックからは何も連絡は来ていないのか!?」


「はい。朝から使いを店舗のほうに出しておりますが、だれもいないようなのです」


「なんだと!?」


 執事から昨夜の大爆発に対する被害状況をまとめた資料を渡される。それを見てドライガンは両目を大きく見開いた。


「ち……地下も含めて完全に崩壊だと……!?」


「はい。正直に言いまして、死人が出なかったのが信じられないくらいの幸運でございます。もっともヴァルカ商会の従業員たちについては安否が確認できていないのですが……」


 領民が話していた通り、かなりの規模の爆発だったので破片がそこらに飛び散ったようだ。


 しかし今のところそれだけの被害が出たのに、けが人や行方不明者はいても死人は確認されていなかった。


 だがドライガンにとってはそんなことどうでもいい。問題は地下室もすべて吹き飛んだということだ。


 地下室ではブラックマーケットが開かれていた。とくにヴァルカ商会が取り仕切るようになってからは禁制品まで扱っていると聞く。


 かく言うドライガン自身、禁制品ではないものの技管局の〈赤い息(レッドブレス)〉や帝国産シナモールを流している立場だ。


 もしそれらがあとから見つかれば大きな騒ぎになるのは必定。


 とくに今は時期がわるい。帝都から定期監査のため、商務官が訪れているタイミングである。


「それとドライガン様……」


「……なんだ」


「ドライガン様が戻られましたら、お話をさせていただきたいと商務官殿たちがおっしゃっていまして……」


 まぁ当然だろう。オルディア領で最大規模を誇る大商会が大きな混乱を引き起こしているのだ。そもそも言うまでもなくヴァルカ商会も監査の対象である。


 今後のことも含めて、どう監査の仕事を続ければいいのか相談したいのだろう。


 ドライガンとしても商務官に変に出しゃばられても困るので、今のうちにその行動を誘導する必要性を感じた。


「わかった、すぐに呼んでこい」


「かしこまりました」


 執事が部屋からでてすぐに商務官たちがやってくる。だが部屋に来たのは4人だった。


「うん……? どうした、レイモンド。それに兵士まで連れて……」


 アリアシアとアーミックが来るのはわかる。だがなぜ騎士であるレイモンドと兵士まで来るのか。それに4人ともどこか剣吞な目をしているのが気になった。


 明らかに先日までと雰囲気が違う。少なくとも友好的な視線ではないし、それが商務官だけでなくレイモンドから感じるのも違和感がある。


 口を開いたのはアリアシアだった。


「……ドライガン様。単刀直入におうかがいします……ヴァルカ商会と組んで〈海の走者(マリス・コルサ)〉を潰し、ブラックマーケットの管轄を移して税の横領をしていましたね?」


「……………………」


 まったく予想していなかった言葉が新人商務官から出る。


 だがドライガンは動じることなくハァとため息を吐いて首を横に振った。


「領都に帰って早々、何を聞かされるかと思えば……。アリアシア殿、今自分が何を言ったのか理解しておられるか?」


「はい。あなたはヴァルカ商会を使って意図的にブラックマーケットへ品を流していました。その中にはシナモールもあったことを確認しています」


 少し圧をかけたつもりだったが、アリアシアはまったく動揺することなく言葉を続けた。その態度から見て実際にブラックマーケットに足を運んだのだと感じ取る。


 どうやら新人のやる気というものを少し舐めていたようだ。おそらく昨夜の大爆発とも無関係ではないのだろう。


「ふむ……すまないが何を言っているのかまったくわからんな。私は領主として健全にオルディア領を治め、そして帝国にも税を支払っている。たしかにブラックマーケットの存在は把握しているが、そこは商人どもが許される範囲でやっていること。今のところそこまで手を伸ばしてより厳格に管理できるほどの余裕もないからな」


 ブラックマーケットに関してはまったく知らないとは言わない。


 領主として実態は押さえておくべき事柄であると同時に、その存在を把握していること自体に後ろ暗いことはないと態度で示すためだ。


 それに帝都も含め、どこも多少であればブラックマーケットはお目こぼしされている状態だ。


 懸念があるとすれば今のオルディーンのブラックマーケットでは禁制品も扱われているという点だが、ここは最悪突かれても「知らなかった」で通す。


 統治能力を疑われるが、税の横領が発覚するよりははるかにマシだ。


「それよりもアリアシア殿たちはブラックマーケットへ行ったのかね? であればぜひそこで見聞きしたものや、昨夜の爆発についても知っていることがあれば教えてほしいところだ」


 あくまで自分は商務官の味方である。ドライガンはそのスタンスを崩さずに会話を心がける。


 だがアリアシア含め、4人の目は冷たいままだった。


「ブラックマーケットでは白星草も売られていました。なんでも家畜飼料として港に入ってきていたのだとか」


「ふむ……本当だとすれば由々しき事態だ。港湾検査官も不正に関与している疑いがあるな。わかった、すぐに手を打とう」


 事情はわからないが、どうやらヴァルカ商会が下手を打ったようだ。


 場合によっては代わりの商会やマフィアを用意しなければならない可能性もある。


「シナモールについてはなんと説明されるおつもりですか?」


 シナモールは帝国においては専売制が取られている。そして商務官は領主の帳簿を確認しているので、少し前に大量に仕入れたことを把握しているはず。


 普通に考えれば「領主が横流しして不当に利益を得た」と考えるだろう。実際にその通りなのだが、これにもドライガンは落ち着いた声で返す。


「仕入れたシナモールだが、一部は保管状況がわるくカビが生えておってな。それらをまとめて破棄したのだが……もしかしたら破棄を請け負ったヴァルカ商会がそのままブラックマーケットに横流ししたのかもしれん」


「たしかにオルディア領においては、破棄した品の取り扱いは担当商会に一任するルールだと聞いております。この場合、領主様がヴァルカ商会にシナモールを売ったということになります。その取引を証明する帳簿はございますか?」


 小さなウソをアリアシアは商務官としての目線で掘り下げてくる。いつの間にオルディア領における破棄品のルールまで確認したのか。


 小娘だからと少し舐めていた。ここからドライガンは方向性を変える。


「ふむ……どうやらアリアシア殿は私のことをずいぶんと疑っておられるようだ」


「疑うも何も、この目でブラックマーケットに並ぶ品々を確認したのです」


「では証拠は? ヴァルカ商会の帳簿も確認したのだろう? オルディア家の保有する帳簿と照合し、何かおかしな点でもあったのかね? 何より先ほどから話に出ている白星草やシナモールの現物はどこだ?」


「それ、は……」


「まさかなんの証拠もなしに、皇帝陛下よりオルディア領統治を任されているこのドライガンを疑ったわけではあるまいな……!?」


 多少力技ではあるが、わかりやすく身分差や権力を利用して圧をかけにいく。


 商務官が不正を指摘するときは、証拠とセットでなければならない。証拠もなしに領主を疑うなど言語道断。


「もしそうであればこのことは然るべき部署を通して、アリアシア殿に商務官としての資格があるかを問わねばならん」


 ドライガンがそこらの貴族よりも人脈が広く、力を持っていることはだれでも理解ができている。


 きっと今のドライガンの言葉の意味……「お前から商務官の資格をはく奪することなど造作もないのだぞ」という意図は伝わっているだろう。


 ここで前に出たのはアーミックとレイモンド、それに兵士だった。


「ドライガン様……ブラックマーケットの視察は私も同行しましてねぇ。商務官2人の意見となれば、上も証拠がないからと軽んじることはありませんよ」


「ドライガン様……! 俺はドライガン様を信じたい……! で、でも……! あの時のモーリックは明らかに……!」


「……まぁなんだな。観念したほうがいいのは領主様のほうだと思うぜ?」


 どうやら全員同じ立場らしい。自分を妄信的に信じているレイモンドまでもドライガンの横領を疑っている。きっとモーリックと何かしらのやり取りがあったのだろう。


 いずれにせよ昨日の爆発がどうかかわっているのかを把握せねばならない。その間、この4人に好き勝手動かれても困る。


「どうやら証拠はないようだな。それで領主である私にあらぬ疑いをかけるとは……」


「ドライガン様! まだお認めにならないと……!?」


「証拠がないと言っていよう。さて、今年の商務官殿はどうにも監査能力に疑いがある。代わりの商務官を送ってもらうように帝都に伝えるので、その間は自室で大人しくしていてもらおうか」


「な……! それは……!」


 これで時間を作り、その間に状況を把握して証拠の隠滅を図る。領主としての統治能力を少し疑われる事態は避けられないが、最悪の事態は回避できる。


 アリアシアは悔しそうに拳を握り締めていた。その態度が証拠はないと如実に語っている。


 そして証拠がなければいかに2人の商務官の発言といえど、自分を罪に問えはしない。


 内心で勝利の笑みを浮かべたときだった。執務室の扉がバンと開く。


「む……?」


 ノックもなしに無礼な。そう思ったのも一瞬だった。


 何せそこには黒仮面をつけた人物が立っていたのだから。

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