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普通の兵士になりたかったのに、皇帝直属の隠密として帝国の闇を任されすぎている  作者: ネコミコズッキーニ
3章 ちょっと市場調査をしに行くだけの任務ですよね?

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誤解とすれ違いから始まるバトル

 モーリックは紋影官シジル・シャドウが発した言葉の意味を正しく理解する。


 すでにバレているのだ。自分が今日、ここでとある組織と交渉し、そして懐にある〈深渦の核(アビスコア)〉を手に入れたことを。


 目の前の紋影官シジル・シャドウは言外に「禁制品はすべてここに置いていくのだな?」と圧力をかけてきているのだ。


「…………っ!」


 限られた時間で思考する。選択肢は2つ……〈深渦の核(アビスコア)〉をあきらめて帝国から去るか、この場で紋影官シジル・シャドウを撃退し、〈深渦の核(アビスコア)〉も含めた禁制品をいくつか確保した上でミルドリス共和国へ帰還するかだ。


 だが前者はやはり選べなかった。もしその選択を選んでしまうと、自分はすべてを失ったマフィア幹部に成り下がってしまう。


 だからこそモーリックはここが「命を懸ける場面」だと判断した。


「ベネテリー!」


「はっ!」


 瞬時に仙勁オーラを高め、ベネテリーが前に出る。


 ほぼ同時に紋影官シジル・シャドウは後方へ下がってブラックマーケットの会場へと出た。


「ふんっ!」


 ベネテリーが追従し、ハルバードを振るう。モーリックも高速で紋影官シジル・シャドウの側面へと回り込み、絶妙に回避できないタイミングで3本の鉄針を放つ。


 その鉄針は食事で使用するナイフくらいの長さがあった。


〈瞬刻三針〉……仙勁オーラで投射速度を極限まで上げ、なおかつ相手の回避方向も予測してカーブがかかるようにもなっている。モーリックが得意とする武技だ。


 完璧なコンビネーション。そもそもレベル8のベネテリーが放つ一撃は必殺と呼べる域にあるし、自分の放った鉄針も毒が塗られており、速度も申し分ない。


 相手がどのような異能を持っているのかは不明だが、受けるのも避けるのもむずかしい状況だ。


 そもそも常識外れの能力をもっていたとしても、それを発揮する前に決着をつけてしまえば問題がない……が。


「なっ!?」


 モーリックは一瞬たりとも黒仮面の紋影官シジル・シャドウから目を話さなかったというのに、気づけばその男はハルバードを振り下ろしたベネテリーのほぼ真後ろに移動していた。


 そのまま左腕を振るうと鎖が伸び、ベネテリーの後頭部を打つ。


「ぐがっ!?」


 鎖はすぐに紋影官シジル・シャドウの腕へと戻ったが、ベネテリーはそのまま体勢を崩して前方へと吹き飛んでいく。


「バカな……!? ま、まさか、あなたの異能は……!?」


 瞬間移動。そんなもの、本当に存在するというのか。


 いや、だからこそ帝国から遠く離れたオルディア領まで来ることができた……!?


「おおおおおおお!」


 モーリックとて普段は矢面に立って戦闘することはないが、身体はしっかりと鍛えている。そもそも仙勁オーラレベル7まで到達できる才があるのだ、戦闘技能を磨かない理由もない。


 だからこそ目の前の紋影官シジル・シャドウの異常性は理解できたし、相手の異能について瞬時に仮説を立て、その対策を立てたうえで行動に移る。


 両手で放つ〈瞬刻三針〉。右手で放った鉄針はそのまま紋影官シジル・シャドウに向けて放ち、左手に持った鉄槍は相手が自分の背後に瞬間移動することを見越して斜め後ろへと放つ。


 先ほどベネテリーのほぼ真後ろを取っていた位置取りを確認してアタリをつけたものだ。


 だが紋影官シジル・シャドウの動きはモーリックの予想を超えていた。


「はっ!?」


 彼は正面から消え、自分の斜め後ろ……ではなく、目の前へと姿を見せていた。


 そのまま金属片が縫い込まれたグローブを握り込み、モーリックに殴りかかってくる。


「がふぅっ!?」


 まさかの肉弾戦。先ほど暗器のような鎖を腕から伸ばしていたので、てっきりこの紋影官シジル・シャドウは距離を取って戦うタイプだと思い込んでいた。


 腹部に顔と連続で殴られるが、ここでモーリックは違和感を覚える。拳の威力が想定よりも弱い……弱すぎるのだ。


 不意を突かれたが、仙勁オーラで身体能力を高めた自分の肉体に大ダメージを与えるほどではない。


 つまりこの紋影官シジル・シャドウ身体能力では仙勁オーラレベル7の肉体を殴打で致命傷を与えられないということ。


「ぐ……! 舐めるな!」


「おおおお!」


 ベネテリーもハルバードを構えて突撃してくる。自分でも大きなダメージを受けていないのだ、いくら後頭部を突かれたとはいえやはりベネテリーも致命傷は受けていなかったのだろう。


 もしかしたらこの紋影官シジル・シャドウ仙勁オーラは大したことがないのでは……? そう勝機を見出したその時。


「がっ!?」


 またしても一瞬だった。ベネテリーが自分に近づいてきたタイミングで紋影官シジル・シャドウは姿を消し、突風が巻き起こる。


 ほぼ同時に気づけば自分もベネテリーも身体に鎖が巻き付いていた。


「これは……!? い、いつの間に……!?」


 巻き付いた鎖の先を目で追うと、そこには紋影官シジル・シャドウが立っている。彼は両腕からそれぞれ別々の鎖を伸ばしており、モーリックとベネテリーを拘束していた。


 そして紋影官シジル・シャドウが姿を消したと思ったその瞬間、自分とベネテリーは強制的に超高速で身体を回転させられる。


「ふおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 世界がありえない速度で回転し、視界が赤く染まる。強い遠心力がかかり、血流に異常が生じているのだ。


 ありえない。レベル7とレベル8がそろって、ここまで一方的だとは。


 自分もマフィアの中では上位に入る実力者だという自負があったが、さすがに2対1で隔絶した実力差を見せつけられる日が来るとは微塵も考えていなかった。


(こ……これが、紋影官シジル・シャドウ……! 闇社会の執行者……っ!?)





 だあぁぁぁぁぁ! 禁制品を見つけても騒動は起こさず、まっすぐ帝都に帰ってヴァネッサ室長に報告しようと思っていたのにいぃぃ!


 なんでヤバそうな奴らとバトルスタートしてしまったのか。この2人、どう見ても俺よりも仙勁オーラレベルが上じゃねぇか!


 正直言って今のこの状況は成り行き以外のなんでもなかった。


 モーリックはなんか勝手に勘違いしてペラペラ話しはじめるし、ドライガンもグルだと言ってくるし……!


 というかガチで禁制品なんか扱ってんじゃねぇよ! なんだあの量と種類は! 禁制品の見世物市じゃねぇか!


 モーリックは急に取り引きを持ち掛けてくるし、なんでそんな話の流れになったのかが理解できない。


 たぶんモーリックは頭がキレるので、自分でいろいろ考えすぎて勘違いを起こしたのだろう。そもそも俺、ここに禁制品があるという確信があってやってきたわけじゃないし。


「がはぁぁぁ!」


 ちなみに俺は自分がそれほど強くないのはよくわかっている。


 だが紋影官シジル・シャドウなんて仕事をしていると、今回のように格上との戦闘はまぁよくある。


 そんなヤバめな奴らと渡り合うために好んで使用しているのが、両腕に装着した腕輪だった。


 〈蛇鎖の腕輪(サーペントチェイン)〉……技管局が開発した俺専用の武器である。


 こいつは地脈からあふれ出る龍気ドラグマをチャージすることで、先端に重りが付いたチェーンを飛ばすことができる。


 腕輪はそこそこゴツいのだが、中にはチェーンがぐるぐる巻きになって収納されているのだ。


 この〈蛇鎖の腕輪(サーペントチェイン)〉と【夜影疾走ナイトラン】を組み合わせたものが、俺の紋影官シジル・シャドウとしての戦闘スタイルになる。


 まずは超高速で駆け抜けながらチェーンを放って相手の身体を絡めとる。はっきりいって異能が使用できる夜であれば、ここまでは容易い。


 だが俺には高レベルの実力者をノックダウンさせられるような“重い一撃”といった決め手がない。


 そこで編み出した技が〈連鎖廻獄〉になる。ちなみに名前を考えたのはノア先輩だ。


 チェーンを相手の身体に巻き付け、そこから【夜影疾走ナイトラン】を発動させて思いっきり引っ張る。すると相手は独楽のように身体をとんでもない速度で回転させられることになるのだ。


 どれだけ仙勁オーラを鍛えていようが、血流の動きは制御できないし三半規管までは鍛えられない。


 これをまともに受けた奴は激しい乗り物酔いに似た症状や両目、鼻からの出血など、さまざまなダメージを受ける。対実力者用の決め技である。


 ちなみにここまで自在にチェーンを操れるようになったのはごく最近だ。今のところ対人戦で決まったら勝ちが確定している必殺技でもある。


「決まったな……」


 モーリックとベネテリーの2人は超高速横回転がかかった状態で空中を舞っていた。


 見ているだけで「ギュルルルルルル!」と回転音が聞こえてきそうな勢いだ。


 しかしここからどうするか……こいつらも俺たちに禁制品が見つかった以上、証拠隠滅に動く可能性が高いし……。


 予想外に事態が進行してしまったので、俺としてもこのまま帝都に戻るわけにはいかなくなってしまった。


 と、その時だった。地面に激突する前に、超速回転モーリックから何かが勢いよく飛び出てくる。


「ん……?」


 それなりの速度で俺に向かって飛んできたので、反射神経でそれをキャッチする。同時に2人とも地面に激突した。


「がふぅぅ」


「うぐぅっ!?」


 2人は意識を失っておらず、ものすごく辛そうな表情でなんとか起き上がろうとする。


 だがまだ世界が回っているのだろう、生まれたての風角鹿のように両足をプルプルとさせている。


 肩で息をして酔っ払いのようにふらつきつつもモーリックは口を開いた。


「はぁ、はぁ……! な、なんという異能力者だ……! わ、私たち……うっぷ」


「おげえぇぇぇぇぇ……」


「私、たちを、相手にぃ……こ、これほど、うげえぇぇぇぇぇぇぇぇ……!」


 うわ……2人とも胃の中のものが出てきちゃってるよ……。それに鼻血も出ているし。


 これも〈連鎖廻獄〉を受けた者によく見られる光景だ。


 こうなると体調が万全に回復するまで数日を要する時もある。なんにせよもはや俺とまともに戦える状態ではないだろう。


「も……モーリック様が……!」


「バカな……! ベネテリー様まで……!」


 気づけばモーリックの配下たちも起き上がり、俺たちの戦いを見ていた。


 アリアシアたちを探している途中で騒動が起こっていたので、適当に気絶させた者たちだ。どうやら時間もあったので、意識が回復したらしい。


 しかし困ったな……ここからどう収拾をつける……? ドライガンも証拠隠滅に動く前になんとかしなくちゃいけなくなっちまったし……。


 そう頭を悩ませていると、地面にへたり込んだモーリックが俺の左手を見て驚愕に両目を大きく見開いていた。


「な……!? て、帝国の紋影官シジル・シャドウは……そこまで頭がぶっ飛んでいるのですか……!?」


「ん……?」


 なんだ……何を驚いている……? そういえば左手には今、超速回転モーリックから飛び出してきた謎物体を掴んでいるんだった。


 今さらのように左手に掴んだ物を確認する。それを見て俺は思考が固まってしまう。


 なぜなら俺の持つもう1つの異能……心写記憶フォトメモリアによって、その物体のことを把握していたからだ。


「あ、〈深渦の核(アビスコア)〉でブラックマーケットごと禁制品を消滅させる気とは……! あ、ありえないいぃぃぃぃ!」


 ちょぉっと待てえぇぇぇ! なんでてめぇから〈深渦の核(アビスコア)〉なんていう物騒なもんが飛び出してくるんだよおぉぉぉぉ!?

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