表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
普通の兵士になりたかったのに、皇帝直属の隠密として帝国の闇を任されすぎている  作者: ネコミコズッキーニ
1章 見習い紋影官 レオン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/16

夜中の取引

 兵舎内に用意された部屋で、リシェルはさっそく報告書の作成を行う。俺も要点をまとめつつ資料作成を手伝った。


「なぁリシェル。【放浪の翼】だが、どうしてこんな場所にいるんだと思う?」


「……ストライダーの考えることはわからないわ。自由気ままといえば聞こえはいいけど……お金の匂いがするところに集まるものじゃないの?」


「ここがストライダーたちにとってそこまで魅力的な場所だと思うか?」


「それは……思わないけど……」


 魔獣の多い土地であれば、ストライダーの仕事はかなり多い。彼らは魔獣を狩り、狩られた魔獣は資源としてさまざまな形で活かされる。


 だが帝都近郊にはそう魔獣が多くない。ストライダーの収益源、その一つがほぼないようなものだ。


「案外貴族のだれかが、護衛に呼んだんじゃないかしら? 私兵を雇いたがる貴族って多いし……」


「あんまりピンとこねぇなぁ。俺も生まれは貴族だけど、私兵を雇いたがっているイメージはないし」


「……そういえばそうね。レオンってヴァルツァー家の三男だっけ?」


「ああ。ま、山奥の村を治めている程度だし、私兵なんざ雇っても使い道がないだけってのもあるな」


 そう……俺自身は帝国北部で小さな領地を持つヴァルツァー家の生まれだ。少し大きい村が1つあり、父も領主というよりは村長といったほうがしっくりくる。


 とくに家督を継がない俺は成人後、どう生きていくかを考えなければならなかった。いろいろあったが、結果的に俺は軍学校へと入り、そして今に至る。


「ノワゼル家はどうなんだ? うちなんかよりも大きな領地を持つ家だろう?」


「……そうね。何度か私兵を雇っているのは見たことがあるわ」


「へぇ?」


「姉の……護衛として、しばらく腕の立つストライダーが雇われていたことがあるのよ」


 姉の話になった途端、リシェルは視線を下に下げる。だがすぐに顔を上げると資料作成を再度始めた。


「ああ、リシェルの姉ってたしか第二皇女殿下の側付きをやっているんだっけか?」


 皇女殿下の側付きとは、そう簡単になれるものではない。ある程度以上の家格とそれに相応しい教養、また見た目もよく利発でなくてはならない。


 ある意味でステータスのようなものだ。皇女殿下の側付きという時点で、その外観と優秀さが認められたようなものなのだから。


「…………そうよ。姉は昔からなんでもできる人だったわ。皇女殿下の側付きを目指したいと言ったときも、両親は喜んで賛成した」


「目指してなれるものじゃないんだろ、皇女殿下の側付きってのは」


「ええ。でも姉ならば、目指せばなんでも手に入れてしまうの。本当に……優秀な、わたしの自慢の姉、よ」


「……………………」


 その声色からは嫉妬が感じ取れなかった。そう……嫉妬なんかじゃない。もうとっくにそういう次元を超えている。


「レオンにも兄と妹がいるんでしょ? 兄妹仲はどうなの?」


「まぁわるくはないと思う。一番上の兄はヴァルツァー家の跡取りとしてがんばっているし、二番目の兄は騎士として遠征しているから、長らく連絡が取れていないけど。そういや妹にも最近手紙を送ってなかったか……」


 二番目の兄には仙勁オーラの才があり、軍学校を出てそのまま騎士としてとある貴族に仕え、今も国境の城塞都市で戦っている。


「自分も跡取りになりたいとか、騎士として活躍したいとか思わないの?」


「そうだな……大昔はストライダーにあこがれたこともあったが……。まぁ故郷や帝都にいる友人たちと、ずっと今の関係を続けていければそれでいいかな」


「今の関係……?」


「村では同世代の友人が少なかったんだよ。でも軍学校でたくさん友達ができて、うれしかったんだ。そりゃ中には気に入らない奴もいたけどさ。まぁなんだ、リシェルも含めてたくさんの友人たちと、このまま楽しく過ごせる環境があればいいな……と、思っているかな」


 これは本心だ。俺は友人たちと一緒に、長く楽しく過ごせていけたらと思っている。それに故郷の家族に友人たち……俺なりのやり方で、彼らを守りたいとも。


 ふと外を見るとすっかり日が落ちていた。リシェルは腕を伸ばし、そのまま立ち上がる。


「報告書の作成にも疲れたわね……少し風に当たってくるわ」


「……わかった」


 リシェルは外套をまとうとそのまま部屋を後にする。しばらくすると部屋の窓から彼女が外へ出ていく姿が見えた。


「……………………」


 俺も外套をまとって軍服を隠し、窓から外へと出る。そのまま人混みを歩いていると、ふと少女の声がスルリと耳に入ってきた。


終夜会ナイトフォール、20」


 顔は前を向いたまま、目だけを横に向ける。だがたしかに聞こえたはずなのに、少女の気配は微塵も感じない。


 この一瞬の呟きは俺以外に聞き取れた者はいないだろう。


(関連するマフィアは終夜会ナイトフォール、数は20ね……まぁわかってはいたが、クロで確定か……)





 ハグリアの倉庫街。その一角では男たちと1人の女が向き合っていた。女のほうはフード付きのローブを深くかぶっており、顔はまったく見えない。


「よく来たなぁ、ローズ。実験の結果は知ってるだろ? 満足のいくもんだったんじゃねぇのかぁ?」


「ええ、巨大魔獣……なかなかのもののようね」


「しかしわざわざストライダーを使ってブツを運ばせるとはな。帝国はそこまででもねぇが、他国じゃ俺たちみたいなマフィアとはかなり折り合いがわるいって知ってんのかぁ?」


 そういうと男は高そうな皮カバンを取り出し、開けて中身を女に見せる。そこには4つの黒い水晶が収められていた。


「それが……黒夢晶ダークルシッド……」


「そうだ、望みの品だぁ。てめぇがわざわざストライダーどもを使ってここまで持ってこさせたもんさ。1つは実験に使ったから、残りは4つだがなぁ」


 黒夢晶ダークルシッド……帝国でこれを知る者はかなり限られる。


 また黒夢晶ダークルシッドを知る者たちは、帝国内に持ち込むだけでも罪に問われることを十分に理解していた。


「まさかこんなおもしれぇモンがあるとはな……俺たち終夜会ナイトフォールはボスも含めて全員が知らなかったから驚きだぜ。どこでこいつのことを知ったんだ?」


「それをお前に言う必要はない。性能試験が済んだ今、お前たちの仕事は一つ」


「ああ、わかっているさぁ。ノワゼル領でこいつを使い、4匹の巨大魔獣を暴れさせろっていうんだろぉ?」


 黒夢晶ダークルシッドとは、魔獣を巨大化させるものだ。とある研究組織が作成した闇道具である。


 ローズと呼ばれた女性はこの黒夢晶ダークルシッドを【放浪の翼】を使ってハグリアまで運ばせた。


 ストライダーは金で動くし、金で言うことを聞かせやすい。相応の支払いは必要だが、うまく活用すればこうした闇道具の運び屋もさせられる。


 取り寄せた黒夢晶ダークルシッドは全部で5つ。1つはすでに性能実験で使用した。だが4つもあれば、ノワゼル領を混乱させることは容易い。


 それは巨大魔獣一匹出たときのハグリア側の対処と被害を見れば一目瞭然であった。


「ではさっさと向かってもらえるかしら?」


「へへ……」


 ここで男たちは凄みのある笑みを浮かべる。そして皮カバンを閉めた。


「わるいがこいつを持って、大人しくこの街から出ることはできねぇんだわ」


「……どういうつもり?」


「そのままの意味さ。いや、本来なら仕事はするつもりだったぜ? ずいぶんと金払いもいいしよぉ。だが俺たち終夜会ナイトフォールには、あんたよりも先に受けた依頼があるんだ」


「なんですって……?」


 不穏な空気。これを察したローズと呼ばれた女は警戒心を高める。


「帝都に根を張る俺たち終夜会ナイトフォールだが、ずっと前に依頼を受けていてなぁ。その依頼は“とある高貴な生まれの姫をさらえ”というものだ」


「な……」


「もちろんハードルがかなり高ぇからよぉ。とくにいつまでにという期限も設けられてはなかったからゆっくり機会をうかがっていたんだが……ここにきて思わぬチャンスが巡ってきたということさ」


「セレーネ皇女殿下か……!」


 思えばセレーネ皇女が賊を警戒していたのも、前々から不穏な気配を感じ取っていたからだろう。


 今回は賊を警戒して急遽出発の時間を変更したが、目的地であるハグリアには偶然にもすでに賊……マフィアが張っていた。他ならぬ自分の依頼を受けて。


「ま、詳細はさすがに言わねぇがな。しかし帝都から離れた地で兵士も全然連れてきていねぇ。問題は仙勁オーラレベル5相当とうわさの5人の護衛騎士だが……この黒夢晶ダークルシッドを使えば、かく乱には十分だろ」


「お前……っ!」


 要するに終夜会ナイトフォールの連中は、この街でかねてから受けていた依頼を達成しようと考えたのだ。


 黒夢晶ダークルシッドの性能試験を行ったからこそ、ここで騒ぎを起こすことで皇女誘拐の成功確率が上がると読んだ。


 また皇女をさらわせるくらいだ、依頼者には相当大きな貴族が関係しているはず。


 ローズが用意した報酬とは比べ物にならないくらいの成功報酬が約束されていることは容易に想像できる。


「わりぃなローズ。だが俺たちはストライダーの連中ほど、信用なんてもんにはこだわっていねぇ」


 男が指を鳴らす。するとローズを取り囲むように男たちが配置についた。


「一応聞くぜ? 姫さらいよりも高額な報酬を用意できるか?」


「……………………」


「できねぇよなぁ! 黒夢晶ダークルシッドの持ち込みなんてかわいく見えるくらいの危険な山場だ! お前が想像するよりも遥かにすげぇ報酬が約束されてんだよ! だがローズ、俺は感謝してんだぜぇ? 黒夢晶ダークルシッドをここまで運ぶ手筈を整えてくれたのはてめぇだ」


 ローズを取り囲んだ男たちが徐々に距離を詰めてくる。ここまで話を聞いた以上、帰すつもりがないのだ。


「それに前金ももらっている。言わばお前のおかげで仕事がうまくいく目途が立ったってことさ。だから命は取らないでやるよ」


「っ! は、離せ!」


 男たちは一気に距離を詰めるとローズを押さえつける。そのまま縄で彼女を縛っていき、フードも取られて顔が露わになった。


 そのまま男の一人がローズの衣服の中に腕を突っ込み、胸部をまさぐりつつ一枚のカードを取り出す。それは彼女の身分証であり、取り出した男はリーダー格の男へと放り投げた。


「ほぉう……リシェル・ノワゼル。帝国軍所属の三等剣尉とは……こいつぁ驚いたなぁ……」


「く……!」


 あっという間にローズ……いや、リシェルは後ろ手に身体を拘束される。


「しかもノワゼルって……まさか自分の家族の領地で混乱を起こそうとしていたってことかよ! イカれてんぜ、リシェルさんよぉ!」


「お前に……何がわかる!」


 リシェルは縛られながらも憎悪の込められた目を男に向ける。これに視線を向けられた男は強い関心を覚えた。


「参考にまで聞かせろよ。ここまでやる理由があるんだろぉ? 内容次第では俺の気が変わるかもしれねぇぜ?」


「……………………」


「どうした? 家に迷惑をかけてやろうとするくらいだ、理由があるんだろぉ? それともただ家族の慌てふためくところを見たいだけとか?」


「お前なんかに……わたしの気持ちがわかるはずがない……っ! 慌てふためく姿が見たいだけですって!? そんなことのために、ここまでの準備を整えるはずがないでしょう……っ!」


 男はリシェルの話を聞いても、具体的に何があったのかはわかりようがなかった。


 だが怨嗟で濁った目を見れば、動機の部分についてはいくらか推測できる。


「ははは……! いいねぇ、どっちにしろ狂ってるぜお前。だが気に入った……ストライダーやマフィアを使い、闇道具を使って自分の家をめちゃくちゃにしようなんてなぁ! 終夜会ナイトフォールの一員になってほしいくれぇだぜ!」


「だれが……っ!」


「んだがやっぱ黒夢晶ダークルシッドはこっちで使わせてもらう。ああ、約束通りお前は殺さねぇから安心しな。言っただろ、俺はお前を気に入ったんだ」


 黒夢晶ダークルシッドがあまりにも有能な闇道具だったから……そして皇女セレーネが少ない護衛でこの地にやってきたからこそ、マフィア終夜会ナイトフォールはここで依頼をこなすことを決意した。


 リシェルからは多額の成功報酬を約束されているし、そもそも黒夢晶ダークルシッドを手に入れる算段をつけたのも彼女だ。そこにも多額のお金が必要だったことだろう。


 だからこそ男は心の底からリシェルに感謝していたし、やはり遠く離れたノワゼル領の混乱よりも目の前の皇女が優先だと考える。


「リシェル。条件次第で黒夢晶ダークルシッドを1つだけ残してやってもいい」


「なんですって……」


「明日、皇女はどこへ行く予定だ? まさかわざわざこんなところに来て、すぐに帝都に帰るってわけじゃねぇんだろ?」


 1つだけ残った黒夢晶ダークルシッドを使っても、当初予定していたほどノワゼル領は混乱しないだろう。


 だが1つあるかないかだけでも話は大きく違ってくる。


「どうした? 欲しいんだろ、こいつがよぉ?」


 セレーネ皇女は今日、街の視察をしていた。だが本来の目的は巨大魔獣と戦った兵士たちの慰問。明日は高確率で兵舎を訪ねるだろう。


 時間が余ればそのまま街を練り歩くことも考えられる。帝都でもたびたび出歩いているのだ、視察が長引いてもおかしくはない。


「さぁ教えろ、リシェル。皇女は明日、どこへ行く?」


「教えたところでどうするの? 魔獣なんてここにはいない。黒夢晶ダークルシッドの使い道もないはず……」


「ははは、その心配はいらねぇよ! すでに北の森で生け捕りにした魔獣を確保しているからなぁ!」

「なん……っ!?」


「つまり好きなタイミングでいつでも街中に巨大魔獣を発生させられるってわけだ! ははは! 魔獣テロだな! こいつはたしかに国内に持ち込むだけでアウトな代物だ!」


 甘く見ていた。終夜会ナイトフォールの連中は本気だ。


 魔獣を生け捕りにしてここまで持ち込むだけでも、かなりのリスクを負っていたはずなのだから。


「うまくいけば俺が終夜会ナイトフォールの次期ボスだ……! さぁ言えリシェル! 一緒にこの街をめちゃくちゃにしようじゃねぇかぁ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ