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普通の兵士になりたかったのに、皇帝直属の隠密として帝国の闇を任されすぎている  作者: ネコミコズッキーニ
3章 ちょっと市場調査をしに行くだけの任務ですよね?

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商務官の潜入調査

「では……行きましょうか」


 その日の夜。アリアシアたちは目立たない服装に着替え、ローブを羽織ってフードを深くかぶっていた。


海の走者(マリス・コルサ)〉の残党から武器は持っていっても問題ないと言われている。


 またフードで顔を隠す者は多いので、この恰好のほうがかえって目立ちにくいともアドバイスをもらったのだ。


「アリアシアくん……本当に行くのかね? せめてドライガン様が戻ってからでも……」


 危険な場所を回避したいアーミックは再度止めに入るが、答えたのはレイモンドだった。


「すみません、俺はどうしても今日確認したいんです。本当にヴァルカ商会が関与しているのか、俺たちはあいつらにまんまと利用されたのか……」


「アーミックさん、レイモンドさんもこうおっしゃっておられます。騎士としての矜持があるように、わたしたちのも商務官としての矜持があるでしょう?」


「俺も乗り気だとは言わねぇが、まぁ大人としての矜持ということで同行するよ」


 潮の香りと波音が聞こえる中、アリアシアたちは夜のオルディーンを歩く。


 そしてヴァルカ商会支部長モーリックの屋敷につくと、教えてもらった裏口へと回り込んだ。


「あん……?」


「…………っ」


 裏口にはフォーマルな恰好をしてはいるが、人相のよくない男が立っていた。彼はアリアシアたち4人に視線を向ける。


「どちら様で?」


 アリアシアとて怖いものは怖い。ましてや夜の街で、情報がたしかなら相手はマフィアと通じている商会だ。


 目の前の男にしてもマフィアの関係者という可能性もある。


 思わず足が止まってしまったが、前に出たのはランドだった。


「よぉ、見張りご苦労さん。俺たちは客だ、ほら」


 そう言うと自然な動作で金属板を取り出す。アーミックとレイモンドもそれに続いたことで、アリアシアも同じく金属板を取り出して男に見せた。


「ふぅん……? しかし女の客とは珍しいな」


「お嬢様の社会勉強だよ。あんまりジロジロ見るんじゃねぇぞぉ、こういう場ではマナー違反だろ?」


「……まぁいいだろう。ほれ、奥に進んで先導に従え」


「ありがとさん」


 男が裏門を開き、ランドを先頭にアリアシアたちは敷地内へと足を踏み入れる。そして先導に従って裏口から屋敷の中へと入った。


 そのまま複雑な通路をいくつか曲がり、地下へと下りていく。そこには日中のオルディーンとは違う、独特な熱気があった。


「これは……」


 地下室とは思えない広大な空間。香の匂いと湿った石壁の匂いが混じり、同時に香辛料の香りが鼻腔を刺激してくる。


 カウンターの奥に見える棚には大量の酒が並んでおり、それを客に振る舞う男。


 いつくも露店が並んでおり、それなりに人がいるのか低いざわめきに金属をこするような音も聞こえてくる。


 惚けているとランドから軽く背中を突かれた。


「あ……と」


「さぁて、今宵はどんな品が見られるのか楽しみだな」


「……案内はここまでだ。帰るときはあそこに固まっているスタッフに声をかけろ」


「おう、ありがとさん」


 4人はゆっくりとブラックマーケットの会場へと足を踏み入れる。


 龍気ドラグマを活用した照明も多く設置されており、地下だというのに視界は良好だった。


「ここ……本当に地下室なんですか……?」


「ここまででかい地下室はさすがに初めて見るなぁ……」


「俺もです。もともと領主一族が住まわれていた屋敷とはいえ、これは予想外と言いますか……」


「ふぅむ。妖精族……とくに土を操ることに長けた鉄精ドワルンの魔術を活用して作られた空間なのかもしれませんなぁ」


 広大な空間を疑似的に商店街のように整えており、露店が並ぶ通りがいくつか見える。


 それとは別に仮説住宅のようなボックスが並ぶ区画や、バーカウンターや食事処も目に付いた。


 軽く露店を眺めるだけでも出所のあやしい品がかなり目に付く。アリアシアはドライガンから聞いた言葉を思い出していた。


「倉庫が足りなくて破棄する品も出ているという話でしたけど……」


「ええ。おそらく破棄予定の品もここに流されているのでしょう」


「そんな……」


 ここだけでいったいどれほどの売り上げが出ているだろうか。その規模を考えるだけでアリアシアは倒れ込みそうになる錯覚を覚える。


 だがストレスがリセットされてまだ日が浅い彼女の頭には疑問も浮かんできていた。


「破棄された品が実際にどのように処分されたのか、ドライガン様はご存じなのでしょうか……?」


 少しブラックマーケットを見回っただけで、アリアシアはとあるよくない予感を覚えていた。


 それを口に出すことははばかられたので、ちょっとした疑問として言葉に出す。


 これに答えたのはアーミックだった。


「いいえ。街や領主様次第ではあるのですが、オルディーンにおいては『破棄した品の取り扱いは担当商会に一任する』というルールになっています。どこでどう処分されているのか、ドライガン様は把握されておられないのではないでしょうか」


 アーミックの回答を聞いて、アリアシアは自分の懸念が外れていたかとホッとする。


 だがやはりこれだけの闇商売は見過ごせない。


「この規模……関係しているのはヴァルカ商会だけではないですよね……?」


「おそらく。主催はヴァルカ商会でしょうが、露店商の中には港で働く労働者もいるのでは? ヴァルカ商会から声をかけられ、意図して破棄された品をここに持ち込んでいそうです」


 そしてそれらを買い漁るのは同業の商会関係者や遠方から来た豪商たち。また異国の服や肌色をした者たちも幾人か見かけた。


「……ヴァルカ商会が二重帳簿をつけているのは確定ですね」


「まぁそこは間違いないですねぇ。とはいえ今回の監査でそこをモーリック支部長に指摘するのはおすすめしませんが」


「わかっています……」


 モーリックはマフィアと関係が深い。いや、もしかしたらモーリック自身もマフィアかもしれない。


 アーミックから過去に死体となった商務官の話も聞かされたのだ、アリアシアとてここでいたずらに動いて自分ばかりか、アーミックまで危険な目に遭わせるのは本意ではない。


「とにかくもう少し実態を調査しましょう。……すみません」


 歩き回るだけではまだ不十分。そう考え、アリアシアは露店を開いている男性に話しかける。


 売られているのは薬草のようなものだった。


「おう、なんだ」


「その……これはなんですか?」


「白星草だよ。見るのは初めてか?」


「………………っ!」


 白星草……それは高級な傷薬などの原料として使用される薬草だ。


 数ある薬草の中でも栽培と収穫がむずかしく、妖精族の樹精エルネスくらいしか扱えないと言われている超がつく貴重品だ。


「そ……そんなものまで、買えるのですか……!?」


「よそでは知らんが、ここではそうさ」


「で……でも……。これほど貴重な霊草、ここで流したら足がつきやすいのでは……」


「あぁ? んなもん大丈夫に決まってんだろ。これらはあくまで家畜飼料扱いで港に入ってきてんだからよぉ」


「っ!」


 つまり高級薬草を税率の異なる別カテゴリに付け替えているのだ。


 そして破棄される予定だった“家畜飼料”はここで横流しされることとなる。


「あの……あなたは普段、何をされている方なんですか……?」


 アリアシアは思い浮かんだ疑問をそのまま述べる。問われた店主は目を細め、数秒押し黙った。


「………………? なんだってそんなことを聞く?」


「あ、失礼しました!」


 アリアシアは急いでその場から離れる。後ろからついてくるランドが困った表情を浮かべていた。


「嬢ちゃん、いくらなんでもストレートに聞きすぎだ!」


「でも……! こうして聞かなくちゃ何もわかりません! 調査続行します!」


「マジか!?」


 焦るランドとアーミックだが、レイモンドもアリアシアに賛同する。


「賛成です。ドライガン様の治めるオルディーンでこのようなことが行われているなんて……! 他にも話を聞いて証拠を持ち帰り、ドライガン様に報告します!」


 レイモンドもレイモンドで、領主の騎士たる自分たちがまんまと利用されてヴァルカ商会に莫大な富を与え、また税金がかすめ取られている現実に怒りを覚えていた。


 若い2人は熱意のままに調査を続けていき、それをアーミックとランドは冷や冷やしながら後ろからフォローを入れつつ見守る。


 そしてそのどこか浮いた集団を少し離れたところから男……モーリックが見ていた。

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