各々の矜持
(なんか知らんが、想像以上にペラペラと話してくれた……!)
俺とバニィは東端の倉庫を目指していた……が、なんとアリアシアたちが先に倉庫に入っていくところだったのだ。
仕方なくコソコソ後ろから様子をうかがっていたのだが、アーミックが仕事らしい仕事をしていることに驚いてしまった。
なんやかんやで俺も仮面をつけて回収し、そしてバニィから聞いた情報をもとにさも「こっちはいろいろ知っているんだぜぇ?」という雰囲気を醸し出して話していたのだが……そしたら向こうが勝手にいろいろ誤解して、知りたかったことを話してくれたのだ。
きっとバニィは姿を隠しつつ、今も出てきた情報を精査しているところだろう。
ちなみに見知った顔が多いので、バニィにもらった変声アメを舐めている。これ、なかなか便利だな……。
(まぁこいつらとヴァルカ商会はもしかしたらつながっているかも……とは思ったが。そっちもアタリだったとはな……)
おそらくこの目で直にモーリックたちを見ていなければ、その予想はできていなかったと思う。そういう意味でもアリアシアの監査に同行してよかったと言えるな。
しかしここからブラックマーケットに直接密売品や横流し品が運ばれていたとは……。
「その金属板の入手方法は?」
「俺たちが持っている……が、4つだけだ」
1つあれば十分だし何も問題ないな。
「ではその1つをこちらに……」
「待ってください!」
ここで声を上げたのはアリアシアだった。彼女はメガネ越しにキリリとした目をこちらに向けてくる。
「これは商務官の仕事です……! どうかわたしたち4人にブラックマーケットを調べさせてください!」
「アリアシアくん!?」
「んぇっ!?」
アリアシアの発言にアーミックとランド隊長は戸惑いを見せている。
対してレイモンドは静かな……それでいて真剣な表情を浮かべていた。
「アリアシアくん、相手は紋影官ですよ!? もう私たちの手に負える案件ではありません、大人しくこの方にお任せしましょう!」
「何を腑抜けたことを言っているのです、アーミックさん! すべて任せてしまったら、なんのために商務官としてここへ来たのかわからないじゃないですか! 正義の商務官としての矜持がまだわずかでも残っているのなら、ここは引く場面ではなく食らいつく時だとわかるはず!」
「ハァ、ハァ……! そ、それは……しかし……ハァ、ハァ……」
「商務官としての使命を今こそ全うする時でしょう! そんなこともわからないんですか!」
「ハァ、ハァ……ッ♡」
やめろアリアシア! アーミックが悦んでしまっている!
というかアリアシア……やっぱり第一印象通り、真面目な商務官なんだなぁ……。
普通ならマフィアがかかわっているブラックマーケットの調査だなんて、怖いという感情が先行するものだと思うんだけど。
「紋影官殿、よろしいか」
続けて口を開いたのはレイモンドだった。レイモンドも真剣な眼差しを俺に向けてくる。
「今回の件、オルディア領の騎士として見過ごすことはできない。何より知らなかったとはいえ、ヴァルカ商会に……他国のマフィアにいいように使われたという事実が許せない……! この目で直接確認し、証拠を掴んで領主様に報告する義務が俺にはあるんだ……!」
領主への忠誠心からか、レイモンドもブラックマーケットへ行きたいようだ。実際に〈海の走者〉殲滅任務に参加した身としても、思うところがあるのだろう。
続けてランド隊長が身体をこちらに向ける。
「はぁ~……楽して終わる仕事ならそれにこしたことはねぇんだがなぁ。しかしこのまま若者任せというのも、大人として格好がつかねぇよな」
「ランド隊長……だからわたしも大人だと言っています……!」
「なぁアーミックさん、覚悟を決めようや。というわけで紋影官殿、もし可能であればブラックマーケットへの入場券は俺たちに譲ってもらえたら助かるんだが……」
これは……思わぬ展開になってしまった……! というかそもそもだけど、どうしてアリアシアたちはここにいるんだよ!?
本来であれば俺1人でさっさとブラックマーケットに潜入して調査すれば済む話だったのに、真面目な新人商務官にやる気のない商務官、忠誠心の厚い騎士と大人として格好つけたがる中年がそろったことで、ややこしい話になっている……!
今一度俺の任務を思い出す。この地におけるブラックマーケットの実態調査、禁制品が流れていないかを調べることだ。
その背後にいる海外マフィアとか領地としての事情は今回の任務とまったく関係がない。またたとえ禁制品が流れていたとしても、その場で摘発するのも仕事外だ。
しかしこのまま4人を放置すればどうなるかわかったものじゃない……!
やる気と使命に目覚めた商務官たちには、紋影官の威光なんて通じないし……!
判断に困っていると、近くから白仮面をかぶったバニィが姿を見せる。急にもう1人仮面をつけた人物が現れたことで、アリアシアたちは警戒するように身構えた。
「紋影官様、いいではありませんか。もともと彼女たちの職務にも関係しています。ここはこちらの4人にブラックマーケットの潜入調査をしてもらいましょう」
「……なんだと?」
「彼女たちは正規の商務官です。いざとなればその身分を明かせばいい。ブラックマーケット側も自分たちが見逃されていることはわかってやっているでしょうからね」
ヴァネッサ室長の言っていた通り、限度を超えなければブラックマーケットは必要悪として黙認されている。
そしてそのことはブラックマーケット側も当然理解している……か。
「逆に言えば、商務官が来たと知られて慌てふためいたり、口封じに出る動きが見えたら……」
「後ろ暗いことをしている可能性が高い、と」
要するにバニィは、せっかくやる気を出しているのだから商務官を囮にしようと言っているのだ。
たしかに単独で情報を集めるより、餌を使ったほうが効率よく必要な情報収集はできるだろう。
情報院のエージェントらしいというか、なんというか……。
「だが彼女たちを危険にさらすことには変わらない」
「騎士にベテラン兵士もいますよ。それに心配ならこちらは裏ルートで潜入して見守ってあげればいいじゃないですか」
たしかにどれくらいの規模で開催されているのかわからないブラックマーケットを、一つ一つ調べていくのは骨が折れる。今日だけで終わらない可能性もある。
だが商務官も禁制品の類には詳しいだろうし、もしかしたら俺以上に効率よく実態調査をしてくれるかもしれない……か。
「いいだろう、商務官殿に任せるとしよう」
「本当ですか……!」
「ああ、といってもこちらも別口で潜入はするが。……ところでそこの男。以前にブラックマーケットを開催していたとき、禁制品は扱っていたのか?」
マフィア崩れの男に問いかける。彼は首を横に振った。
「いいや、さすがにそこまでは手をつけていねぇよ。それに派手にやると商務官が税収等で綻びを見つけるのはわかっていた、ちょっとした横流し品や盗品を流していた程度だ」
「……今は?」
「さぁな。そこまでは知らねぇよ。ヴァルカ商会の奴らも俺たちをそこまで深い部分にかかわらせはしないからな」
やはり実態調査については現地に乗り込むしかないな。とりあえずアリアシアには釘を刺しておこう。
「もしブラックマーケットで禁制品を見つけても騒ぎは起こさないように」
「え……しかしそれでは……」
「その時は然るべき準備を整えて潰す。放置はしないから安心しろ」
「………………わかりました」
納得してはいない……か。まぁこればかりは飲んでもらわないと。
その他、もし正体がバレたときの対処法など打ち合わせを進めていく。
うぅん……アリアシアとバニィの提案を受け入れる形になったけど、1人でやるより面倒なことになった気がする……。
だが話を聞くと、アリアシアは自分で違和感を見つけてここへ乗り込んできたのだと言う。この分ではいずれ商務官としての身分を使って正面からブラックマーケットに突撃していた可能性もある。
変に放置すれば今度はどこでどんなアクションを起こすかわからないし、それならある程度行動の選択肢を狭めるやり方が適しているかもしれない。
そんなわけで会話を終え、俺は倉庫を後にしたのだった。
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ヴァルカ商会の支部長であるモーリックは、イスに座りながらボディーガードであるベネテリーと向きあっていた。
「さて……今夜のブラックマーケットはゲストもお見えになります。楽しみですねぇ」
「はい。しかしモーリック様……本当によろしいのですか? 奴らと〈深渦の核〉の交渉を行うなど……本国のボスの耳に入れば……」
「フ……間違いなく痛くもない腹を……失礼。痛い腹を探られることになりますね。ですがそれくらいのリスクを負える者でなければ、次期ボスの座を競うことなどできませんよ」




