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普通の兵士になりたかったのに、皇帝直属の隠密として帝国の闇を任されすぎている  作者: ネコミコズッキーニ
3章 ちょっと市場調査をしに行くだけの任務ですよね?

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アリアシアの違和感 大人の役目

 おそらく昨日までの自分であれば、この違和感には気づけなかっただろう。


 そもそも今回の定期監査では、倉庫街のすべてを調べ尽くすという予定もなかったのだ。


「荷揚げ量が増えているのなら、新たな倉庫が必要になってくるはずでは……?」


 荷揚げ量は年々増加傾向にある。ドライガンは「うまく保管できずに破棄せざるを得ないときもある」と言っていた。


 おかげで脳内で「あぁ、倉庫の数が追いついていないんだなぁ」と理解し、それ以上深くは考え込まなかった。


 だが増加傾向が収まらないのであれば、新たな倉庫を作る動きはあってもおかしくはない。


 オルディア領は収益も潤っているし、借金もない領地だ。今後を見据えて新たな倉庫くらいは建設できるだろう。


「そういえば倉庫街の東端には元〈海の走者(マリス・コルサ)〉の残党が根城にしている空き倉庫があるって言っていた……」


 たしか古い倉庫で使われていないと言っていた。


 だが状況を考えれば、古い倉庫でも使用すべきではないのか。どうして今もマフィア崩れに倉庫を使わせているのか。


「たしかに古い倉庫では湿気や虫、ネズミも出るから干し肉や干し魚なんかは保管ができない。香辛料の他、セキュリティの面から高価な物も保管できないでしょうけど……」


 逆に言えば物を選べば、保管できなくはない。つまり倉庫としての機能を活かせるのだ。


 なんにせよ今の荷揚げ量で空き倉庫を遊ばせておくというのはもったいない話である。


「…………………………」


 もしかしたら自分の想像以上に建物がボロくなっているのだろうか。マフィア崩れに占拠を許しても別にいいかと思えるくらいに。


 今までの監査では「これならたしかに税収は横ばいだ」と、納得できるものだった。領主のドライガンも監査に協力的なのもうなずける。


 だからこそなぜ倉庫街に対して未だに手を加えていないのか、それがアリアシアには不思議に思えて仕方がなかった。


「あの……」


 人を呼ぶとすぐにレイモンドが走ってやってくる。


「すみません、急がせてしまって……」


「いえ、あなた方の面倒を見るのはドライガン様よりおおせつかった自分の仕事ですから」


「ありがとうございます。その……ドライガン様は今、どちらに……? 少し確認したいことがございまして……」


 わからないのなら直接聞いてみればいい。きっとドライガンであれば、嫌な顔することなく答えてくれるだろう。しかし。


「今日から明日までずっと予定が入っておりまして……」


「そうなのですか?」


「はい。今日はそもそも領都オルディーンにおられません。明日の午前中には帰ってこられるでしょうが、帰られてからも港の視察と商会長との会合がございます」


 どうやらドライガンは多忙なようだ。そもそも領主なのだから、忙しくないはずがないのだが。


「何か気になることがございましたか? 自分でよろしければ力になりますが……」


「……では倉庫街の視察についてきていただいても?」


「えぇもちろんです。準備をしてきますので、少々お待ちください」


 レイモンドはそう言うと部屋から出ていく。ほぼ同時に姿を見せたのはアーミックだった。


「アーミックさん。実は少し気になることが……」


「んん~~……アリアシアくん。わるいことは言わない、このままいつも通りの仕事をこなすんだ」


「っ!?」


 アーミックの言葉はアリアシアからしても違和感を覚えるものだった。


 まるでレイモンドを伴って倉庫街へ行くのを止めているように聞こえたからだ。


「アーミックさん……?」


「倉庫街の地図が数年変わっていない点に違和感を覚えたんでしょ?」


「っ!? は……はい」


「だがそれだけだ。今のところ税収が横ばいになっている点については十分な根拠と証拠がある」


 アーミックの目はこれまでのようなどこか余裕を感じさせるものではなく、むしろアリアシアを本気で心配しているように見えた。


 だからこそアリアシアもすぐに「何を言っているんですか!」とは怒鳴らずに、静かにアーミックと対話することを選ぶ。


「たしかに帳簿上では何も問題ありません。ですが……」


「昔の話をしようか。そう……あれは私がまだ20代前半だったときだね」


「…………?」


「当時の私はいわゆる“正義の商務官”だった。いや……そうあろうとしていた」


 正義の商務官……今のアーミックの姿を見れば素直に「そうだったのか」とは言いづらい。


「当時、私は先輩と共にある街の監査へと赴いた。そこで帳簿を調べていくうちに違和感を覚えてね。そのことを先輩に話したんだよ」


「まぁ……相談はしますよね」


「うん。先輩はすぐに私の掴んだ違和感について調べ始めてくれてね。どうなったと思う?」


 後輩が見つけた違和感を、先輩が調べる。経験豊富な先輩商務官であれば、すぐにその正体にたどり着くだろう。


「不正を見つけることに成功した……?」


 アリアシアの言葉にアーミックは首を横に振る。そして数秒経ってからゆっくりと口を開いた。


「翌日、死体で見つかったんだよ」


「っ!?」


 予想外の答えにアリアシアは息を飲んで両手で口元を押さえる。


 なぜ死体となったのか。考えられるとすれば……。


「なんでも先輩はその日の夜、酔っ払いとケンカになったらしくてね。そのまま酔っ払いに殺されてしまったのさ」


「…………………………」


「アリアシアくんもウワサは聞いたことがあるのではないかな? 稀に商務官が死体で見つかるというウワサを」


 たしかにアリアシアはそのウワサを聞いたことがある。


 だが死因は魔獣に襲われたとか、今のように酔っ払いに絡まれたとかだ。


「死体となった商務官には共通点がある。……監査中に覚えた違和感を突き止めようとしていた、というね」


「それって……」


 不正を隠すための口封じ。そんなこと、本当にありえるのだろうか。


「商務官が不正を見つけていいのは"抜き打ち監査"や"強制監査"のときのみ。このときは情報院のほうでも不正が確実だとすでに証拠が押さえられているからね。だが"定期監査"で迂闊なことをすれば、どこでどんな目にあうのかわからない」


「今回も……そうだとおっしゃるんですか……?」


「いいや? 少なくとも私はドライガン様は白だと思っている。だがマフィアどもはブラックマーケットに横流し品などを流して、商会ともつるんで莫大な利益を上げているケースもあるからね」


 ブラックマーケット……禁制品が出ない限りは帝都でも見逃されているというのは、アリアシアも知っている話だった。


 しかしそれはあくまで帝都の話。他の領地のブラックマーケットまでは把握できていない。


「ドライガン様なら、たとえブラックマーケットを把握していたとしても限度を超えないようにコントロールされておられると思います」


「そうだね。だがブラックマーケットを運営している者たち全員にドライガン様の息がかかっているわけではない。草むらを突いた結果、飛び出してくるのは猛獣かもしれないというのを伝えたいんだよ」


 なぜアーミックの目に本気でアリアシアを心配しているような色が見えるのか……それをアリアシアは理解した。


 彼はアリアシアが定期監査で実力以上に仕事をした結果、マフィアといった連中から狙われる可能性を憂慮しているのだ。


「もう一度言うよ、アリアシアくん。わるいことは言わない、このまま定期監査を超えない範囲内で仕事を続けるんだ」


 アーミックが自分を心配しているのはわかる。だがその気持ちが本当だからこそ、アリアシアはさらなる違和感に行きあたる。


「なぜ……?」


「ん?」


「なぜそこまでしてわたしを止めるのですか……? 今のところ、確認した帳簿と台帳は完璧です。今の時点でわたしはオルディア領においては何も問題がなかったと判断しています。このままどこで何を調べようとも、何もあやしいものは出てこないだろうと……」


「…………………………」


「それなのになぜアーミックさんは、わたしを止めようとしているのですか? まるで……これ以上調べたら、草むらから猛獣が出てくるとわかっているかのようです」


 アーミックに対する印象は「仕事の段取りはいいが意欲に欠け熱心ではない」といったものだ。


 ここでわざわざアリアシアにコンタクトを取ってくるような人物だとは思えない。


 だがコンタクトを取らざるを得なかったとしたら……? 


 この先に待つものをわかっているからこそ、絶対に止めなくてはと思っていたとすれば……?


「そういえばアーミックさんは5年前にも定期監査でここオルディーンに来られていたんですよね? ドライガン様も覚えていらっしゃいましたし……」


「ふむ……」


「もしやその時、猛獣の片鱗を見たのですか?」


 当時のオルディーンはマフィア〈海の走者(マリス・コルサ)〉が幅を利かせていたと聞く。そのことと何か関係があるのかもしれない。


 いったいアーミックが何を知っているのか。そのことに踏み込もうとしたタイミングで扉からレイモンドが姿を見せた。


「すみません、お待たせしました」


「……アーミックさん。わたし、行きます」


「アリアシアくん……」


「なぁんだか面白そうな話をしているじゃないの!」


「っ!?」


 続けて部屋に入ってきたのはランド隊長だった。その表情から、自分とアーミックの会話が聞かれていたのだと察する。


「商務官殿、視察に出るんだろ? ここは精剣兵の俺が護衛につきましょう!」


「ランド隊長……!?」


「アーミックさんよ。どうせこの嬢ちゃんは止まらないって。ならせめて大人がこうしてサポートしてやらねぇとな!」


「わたしも大人です!」


 思わず言い返すが、ランドの気持ちは素直にありがたかった。


 昨日踊っているときに突然声をかけられたときは心臓が止まるかと思ったが……。


「……仕方がありません。では私も同行しましょう」


「アーミックさん……」


「ま、何もなければそれでいいのです。それに今のオルディーンはすでに領主様によって、〈海の走者(マリス・コルサ)〉が壊滅している。きっとわたしの思い過ごしでしょう」


 そう言ってアーミックも席を立つ。


 こうしてレイモンドに案内される形でアリアシアとアーミックは、ランドに護衛されながら倉庫街の東端……元〈海の走者(マリス・コルサ)〉の残党が根城にしているという倉庫へと向かったのだった。

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