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普通の兵士になりたかったのに、皇帝直属の隠密として帝国の闇を任されすぎている  作者: ネコミコズッキーニ
3章 ちょっと市場調査をしに行くだけの任務ですよね?

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ヴァルカ商会 支部長モーリック

 はじめて女性2人を見たときの違和感、その正体に思い至る。


 そうだ……取り囲んでいた〈海の走者(マリス・コサ)〉残党の男たちより、この2人のほうが強いのに弱者のふりをしている、この点に違和感を覚えていたんだ……!


 あのときは距離もあったから薄い違和感程度だったが……こうして近くで見るとよくわかる。


「ご丁寧にありがとうございます。わたしはアリアシアと申します、お時間を取っていただいてすみません」


「いえいえ。しかしアリアシアさんはとてもお若く見える。きっと商務官としてかなり有能なのでしょうね」


「そんな……自分なんてまだ若輩で……」


「ご謙遜を。帝国は人口も多く、その中で競争に勝ち抜き、商務官の資格を得られたのでしょう? それだけであなたがすごい方だというのはよくわかりますよ」


 一見すると和やかな雰囲気で話しているように見えるだろう。おそらくこの4人の異様さに気づけているのは、この中では俺くらいだ。


 もしここでこの4人と戦うことになれば……と考えてしまうのは、これまで俺が紋影官としていろんな危険な目にあってきたからだろうか。


 落ち着け……俺たちはただ帳簿の確認に来ただけ。


「はっはっはぁ! 商務官殿、さては照れてますね?」


「ランド隊長! 何を言っているのです!」


「こういうときは謙遜せず、素直に受け取っておくものですよ」


「ええ、そちらの兵士さんのおっしゃる通りです。はは……無駄話がすぎましたかな」


 大柄な男は表情が読めないが、2人の女性は俺たちを値踏みするような視線を向けてきている。2人ともとくにレイモンドに意識を割いているようだな。


 この中ではレイモンドはかなりの実力者に入る。俺が4人の実力をそれとなく感じ取ったように、この2人もレイモンドの実力を感じ取っているのだろう。


 そんな視線が向けられている中、ランド隊長は2人の女性に視線を向ける。


「ところで支部長殿。こちらの方々は……?」


「あぁ、失礼。彼はベネテリー。私のボディーガードをしてもらっています」


「はぁ……ボディーガード……」


「この街は活気はありますが、物騒な連中もいますからね。立場上、他の商会のやっかみを買うこともあるので、こうしてボディーガードを務めてもらっているのですよ」


 そう言うとモーリックは肩をすくめる。


「ではこちらの美人さん方は……」


「左にいるのはディアン、そしてその隣はディアンの妹ルレット。姉妹には店舗担当者として働いてもらっています。商務官殿が来られると聞き、こうして屋敷に呼んだのです」


「…………? わたし、今日ヴァルカ商会へおうかがいするとは言っていませんでしたけど……?」


「ははは、昼過ぎからいくつかの商会を回られていたでしょう? 商人たちの間でこうした話はすぐに広まるものです、わたしのところにも来られると思ってあらかじめ準備していたのですよ」


 そう言うとモーリックは帳簿や資料を取り出す。


「どうぞ、そちらのソファーに腰かけながらご確認ください」


「あ、はい……ありがとうございます」


 アリアシアはこれまでと同様に帳簿の内容を確認しながらモーリックやディアンにいくつか質問を繰り返していく。その間に俺はあらためて4人を観察した。


 これは……アタリか……? 支部長と店舗担当者に、こんな実力者を配置する意味がわからねぇもんなぁ……。


「あれ……? ここの数字が合わないような……?」


「どれでしょう? …………あ! ここ、計算を間違えています!」


「あ、本当ですね」


「すみません……! ここ計算したのわたしだったんですけど……」


「もうルレットったらドジねぇ」


「ごめんなさい、お姉さま……」


「はは、ディアン。あまりルレットをいじめてはいけませんよ」


「まぁモーリック様。いじめてなんかいないですよ」


 これは……わざと計算間違いしたページを作っていた……? 


 商務官が見つけたミスを商会側が認めて訂正することにより、「意図して隠し事をしていたのではなく、単純なミスだ」と相手に思わせる。


 また商務官としても「自分がミスをみつけた」「仕事をした」と達成感を得て満足しやすい。


 なんというか……白々しく見えるのだ。とくにミスを指摘されてからの一連の会話が。


 さすがにヴァルカ商会の帳簿照合が時間がかかるのか、アリアシアはこれまでの商会で費やした以上の時間を使って中身の確認を進めていく。そして顔をあげたときにはすでに外は暗くなっていた。


「……確認できました、ありがとうございます」


「いえいえ、お役に立ててよかったです」


「それで……倉庫のほうも確認したいのですが……?」


「えぇ、もちろん構いませんとも」


 モーリックたちについていく形で屋敷の中を歩き、1階へ下りてロビーへと到達する。ここで俺は鼻腔を刺激する“何か”を感じ取る。


(このスパイシーな香り……香辛料……? いや、それだけじゃないな……)


 ふとそれとなく床や廊下などに視線を向ける。何かを引きずった跡か……?


「どうかしたのか?」


「っ!?」


 これまで無口だったボディーガードのベネテリーが俺に視線を向けている。つられるようにモーリックたちも俺に顔を向けた。


「あ、いやぁ……こんなに大きな屋敷、そうそう入る機会がないので……すごいなと思いまして……」


「だはは! まぁ俺たち庶民には縁がないもんなぁ! 今のうちに思う存分見ておいたほうがいいんじゃないかぁ?」


 そんなつもりはなかっただろうが、ランド隊長が俺をフォローしてくれる。


 というかこえぇ……! それとなく確認していただけなのに、この男……! 俺の視線に気づいた……!?


 だがある意味でこれはチャンスだ。少し踏み込んでやるか……!


「あとちょっとツンとした匂いがした気がして……」


「ん……? 匂い……?」


「気のせいですかね?」


「う~ん……少なくとも俺の鼻では何も匂わんが……」


 モーリックとベネテリーは無表情、ディアンはやや警戒するような目つき、ルレットは少し驚いたような反応……か……?


 これ以上は危険だな。


「うん、気のせいだったみたいです。すみません、足をとめてしまって」


「ふふ……構いませんよ。ではアリアシアさん、倉庫に案内します。隣の敷地にありますので」


「あ、はい。よろしくお願いします」


 屋敷を出てしばらく歩いたところで、ものすごく大きな倉庫があった。


 聞けば港の倉庫街にもいくつか借りている倉庫があるが、ここには近々外に持ち出す予定の物や高価な品を保管しているらしい。


「セキュリティを考えると、やはりここの倉庫に入れておくのがいいと思いまして。港から少し離れているのがネックではあるのですが」


 アリアシアは手元の資料と照合するように倉庫の中を確認していく。


 かなりの時間がかかったが、ここでアリアシアはフゥと息を吐いた。


「問題ありません。すみません、お忙しいのにかなりのお時間をいただいてしまいまして……」


「ふふ……構いませんよ。領主様からも商務官殿には全面的に協力するように仰せつかっていますので」


「そう言っていただけますと助かります」


 ようやく今日最後の商会訪問を終え、俺たちは屋敷を後にする。


 そのまま雑談交じりに領主の屋敷へと帰還し、アリアシアたちと別れたところで俺は街に出ようと踵を返す……そのタイミングで声をかけられた。


「よぉしレオン! たくさん働いたし、飲みに行くぞ!」


「……え!?」


「初日はみんな飲ませてやったが、レオンはいなかったからなぁ! 気にすんな、支払いは俺は半分払ってやる!」


「全額じゃねぇのかよ!?」


「だはは! よぉし行くぞ、レオン! 夜のオルディーンへ!」


 そんなわけで俺は強制的にランド隊長と飲みに行くことになったのだった。

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