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普通の兵士になりたかったのに、皇帝直属の隠密として帝国の闇を任されすぎている  作者: ネコミコズッキーニ
3章 ちょっと市場調査をしに行くだけの任務ですよね?

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仕事を開始する商務官 友人との再会

 領主と商務官は打ち合わせを進めていく。ドライガンは毎年受けている定期監査になるし、アーミックも慣れているのだろう。


 アリアシアが口を挟むこともなく、スラスラと話が進んでいく。


「港湾帳簿、倉庫台帳に商会の申告書類……いやぁ、確認することが多くて大変です」


「ははは、まぁ商会や港にはすでに話を通してある。存分に調べてくれたまえ」


 そう言うとドライガンは2人にオルディア家の紋章が刻まれた金属板を渡す。きっとあれがここオルディーンにおいて、2人の身分と立場を保証するものになるのだろう。


 その後も打ち合わせが進んでいく中で、ようやくアリアシアが意を決したように口を開いた。


「あの……ゴドウィン様」


「ん? なにかな?」


「その……ここ最近のオルディア領は荷揚げ量が増えているのに、税収は横ばいという状況が続いているようでして……」


 アリアシアの言葉にアーミックはぶわっと汗を流す。


 まぁアーミックの気持ちもわからんでもない。そんなこと、これから調べればわかることなのに、いきなり領主にその実態を問い正しにいっているのだから。


 しかしわるい手とも言えないか。今回、2人はその点についてよく調べてくるように言われているはず。


「経験の若い娘がストレートに聞く」というのも、相手の反応をうかがうという意味でもわるくないと思う。


 そして直球で質問を受けたゴドウィンはまったく顔色一つ変えずにうなずいて見せる。


「うむ、こういうことはよくある話だ。過去にも同様の問いをもらったことがあったな」


「ゴドウィン様には心当たりがあると……?」


「はは、私に限らずこうした商業都市を治める者であれば、だいたい予想もつくというものだ。帳簿や台帳を調べればわかると思うが、ここ数年は穀物の荷揚げ量が増えていてね」


 ヴァネッサ室長が言っていたな。税とは「重量」ではなく「価値」にかかるものだと。


 港の統計は物量ベースなので、市場が拡大し続ける都市ではこうしたズレがよくあるのだろう。


 ドライガンの言葉だけですぐに理解できたのか、アリアシアもなるほどとうなずく。


「そういうことでしたか……」


「実は少し頭を悩ませていることでもあってね」


「と、いいますと?」


「倉庫が荷揚げ量の増加ペースに追いつけていないのだ。おかげでうまく保管ができず、破棄せざるを得ない品も出てきている」


 そのため商売の取引に使用されないので、結果としてより荷揚げ量と税収にギャップが生じやすくなっていると。


「ははぁ……それだけオルディア領が潤っているということですなぁ。他の領主が聞けばうらやましがると思いますぞ」


「これも領民の努力あってのこと。私ができることなど、彼らの経済活動を少し支えてやることくらいだ」


 つくづくできた人だねぇ……。レイモンドも感動したような目をしているし。


「さて、打ち合わせはこんなものかな? あぁ、商務官殿たちはこの街には不慣れだろう? こちらで護衛をかねた兵士をつけよう、道案内に使ってくれ」


「え……で、でも……」


 ここでランド隊長が手を上げる。それを見てドライガンは口を開くことを許可した。


「すみません、話に入り込んでしまいまして。一応、俺たちは商務官殿の護衛ということになっているのですが……。土地勘のある兵士が護衛につくなら、あまり兵士を連れてぞろぞろと歩くのも、領民のみなさんに無駄に圧迫感を与えないかと気になりましてね……」


 要するに自分たちはどうしたらいいかと聞いているのだ。


 きっとランド隊長は、商務官の指示に従うよりもこの街ではドライガンに方針を決めてもらったほうがいいと判断したのだろう。


 その意図を正しく理解したドライガンはうむとうなずく。


「たしかに我が領以外の兵士が大勢で固まって歩くというのも、あまり外聞がよくないかもしれんな。とはいえ1人も同行しないのもまずかろう。ローテーションで2人ほど各商務官殿についてもらうのはどうか? 我が領の兵士も2人つけよう」


「残った者たちについては……?」


「商務官殿の指示に従いたまえ。まぁ私としてはゆっくりこの街を観光してもらえたらと思っているよ。ぜひ帝都に戻ったら、オルディーンの宣伝をしてもらえると助かるね」


 ドライガンの言葉にランド隊長はグッと拳を握り込む。喜んでいるのだろう。


「だそうですが……どうされますか、商務官殿?」


「ドライガン様の厚意です、甘えさせていただきましょう」


「ありがとうございます。ところで護衛にあたり、もう一つおうかがいしたいのですが……」


 おお……ランド隊長、グイグイいくな。一応、護衛隊長としての自覚はあったのだろう。


「なにかね?」


「昨日、騒いでいた連中がいたでしょう? たしかそちらも騎士様がマフィア崩れと言い、領主様も更生という言葉を口にされていたので、少し気になりまして……」


 たしかにそこは気になっていた。女性に絡んでいた男たち、何かワケありの4人という感じだったが……。


 ランド隊長の言葉にドライガンはため息を吐きながら視線を下に落とす。続けて後ろに控える騎士に視線を向けた。


「レイモンド、説明してあげなさい」


「はっ! 昨日の連中は少し前までオルディーンで幅をきかせていたマフィア、〈海の走者(マリス・コルサ)〉の残党になります」


「ほう……マフィアの残党……」


「これまでは領主様も見逃されてきたのですが……1ヶ月ほど前にとうとう領民にケガを負わせるという事件が起こりまして。そのため我らオルディア領の騎士が徹底的に〈海の走者(マリス・コルサ)〉を壊滅させたのです」


 へぇ……マフィアの根絶に動いたのか。ずいぶんと思い切りがいいというかなんというか……。


 レイモンドの言葉を引き継ぐようにドライガンが口を開く。


「我が騎士らの働きでボスを討ち、すでに組織はない。だが構成員全員を厳しく処罰しても、より不満が溜まるだけだろう。それにこの街は腕っぷし自慢の男手ならいくらあっても困らない。私はできることなら彼らに、このまま港で働いてほしいと思っているのだよ」


「なるほど……それが“更生してほしい”ということですか……」


 まぁ構成員残らず死刑という過激な手段に出れば、逃げ場を失った者たちが何をしでかすかわからないもんなぁ……。


 もしかしたら死なばもろともと、領民たちを無差別に殺し回る可能性だってあるわけだし。


 また荷揚げ量が増え続けている今、たしかに男手も欲しいのだろう。いくらカネとモノが集まっても、ヒトがいなければ十分に活かせないだろうし。


「組織が解体したとはいえ、彼らは今、倉庫街の東端を拠点にしていると聞く。建物が古いので使われていない倉庫だが、なるべく近づかないほうがいいだろう」


「ご忠告、感謝します」


 少し前まで存在していたマフィアか……。ヴァネッサ室長の話だとこういう港町のはブラックマーケットが「まずあるだろう」とのことだった。


 マフィアの解体とともにすでにブラックマーケットはなくなったのか……?


 それにあいつらがマフィアの残党だというのなら、あの時に絡んでいた女2人はなんだ……? たしか具体的な商会名を出していたが……。


「他に何か気になる点はあるかね? あぁ、もちろん兵士諸君らの疑問にも答えよう。ここは慣れない土地だろうからな、護衛任務を遂行するにあたって必要なことはなんでも聞いてくれ」


 少し迷ったが、俺はここで口を開くのをやめる。今回の任務を進めるにあたり、重要なのは「帝都から来た護衛兵士の1人」というカモフラージュを崩さないことだ。


 変に発言をして存在を認識されやすくなるという事態は避けておきたい。


「ふむ……ないようだね。ではここまでにしようか。私も仕事が立て込んでいるものでね」


「ドライガン様。もしよければ、護衛を行わない兵士たちの面倒は私のほうで見させていただければと思うのですが……」


「そうだな……たしかに慣れない土地で彼らだけを放り出すのも酷な話だ。よろしいレイモンド、兵士諸君が滞在中はきみが面倒を見てあげなさい」


「はっ!」


 そう言うとドライガンは残った騎士を伴って部屋から出ていく。するとすぐにアーミックとアリアシアが打ち合わせを開始した。


「では私たちはまず領主様が保管している帳簿と台帳を見させてもらおう。それを確認したら明日からどこの商会や港でどういった点を見ればいいか顕在化できるだろうからね」


「わかりました。では今日は1日、この屋敷で資料とにらめっこというわけですね」


「そうです。なので護衛の兵士さんたちは自由にしてもらっていいですよ。屋敷の中まで護衛は不要ですから」


「おお! さっそく自由時間とはありがたい!」


 アーミックの言葉にランド隊長は上機嫌になる。


「ランド隊長。くれぐれも騒動は起こさないでくださいよ……!」


「はは、起こすはずないでしょう。さすがに俺もあの領主様に睨まれたくないですって」


 そんなわけでさっそく自由時間が与えられる。ランド隊長は有志を募って街の観光へと出る。レイモンドはそんな彼らに案内のための兵士を2名手配した。


 玄関まで移動してランド隊長たちが外へ出ていくのを見守る。そうしてようやく2人になったところで、俺たちは再会の握手を交わす。


「よ、久しぶりだなレイモンド」


「レオン……! びっくりしたぞ! まさか商務官の護衛にこの街へやってくるとは……!」

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