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普通の兵士になりたかったのに、皇帝直属の隠密として帝国の闇を任されすぎている  作者: ネコミコズッキーニ
2章 手紙を受け取るだけの任務ですよね?

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19/53

同期会で飲むお酒は実際にうまい あといつも帰り道の記憶がない

 翌日からもやっぱり黒熊の巣穴亭は繁盛していた。きっとバイトを雇う日も近いことだろう。


 しかしこんな一瞬で超人気店にしてしまうとは……これが皇族の持つブランド力……!? これほど見事な工作、紋影官でも不可能だぞ。


 そんなことを考えながら、次の任務に備えて準備を整えていく。といっても武具類や薬などはだいたい黒紋監察室ブラックシジルのほうで用意してくれるのだが。


 俺が準備するのはあくまで精神的な部分。ノア先輩の不吉な予言により、休み明けにとんでもなく厄介な任務を引き受けることになるかもしれないし……!


 そうならないことを祈りつつ、甘味処を回って糖分補給をしていく。


 こうして次の任務に備え、メンタルに幸せ成分を補充していくのだ。東エリアは商業が発展しているだけあって、お店の数と種類には事欠かないな。


 余談だが帝都には「若い時は東、老いたら北」という文言がある。


 帝都の北エリアは金持ちがとくに多い区画だが、全体的に閑静なのだ。老後静かに過ごすには理想的とかなんとか。


「あぁそうだ。エグシス兄さんは久しぶりの帝都だし、アヴィエスは初めてになる。何か記念のお土産でも買っておこうかな」


 こう見えて稼ぎはかなりいいほうだからな! 命の危険と釣り合うのかと言われると少々疑問ではあるけど!


 そうこうしているうちにあっという間に同期会の日になった。指定されたお店に行って予約名を告げると部屋へと案内される。


「レオン!」


「久しぶりだな!」


 そこそこ大きな部屋にはよく見知った顔の4人がいた。


 仲がよかったグループは俺を入れて7人。どうやらあと2人らしい……と思っていると、幹事のユリウスが席を立つ。


「これで全員だね」


「ん? バニィとレイモンドは?」


 バニィは俺やザックと同じく軍学校を2年で卒業している。レイモンドは士官コースに上がった男だ。


「あぁ、2人は来られないみたいだ。かなり忙しいみたいだからね」


「そうか……」


 となるとザックとリシェル、ユリウスとフィローザ……それに俺の5人か。


 席について杯を持つ。するとユリウスがコホンと咳払いをした。


「みんな、忙しいところよく集まってくれたね。僕はとてもうれしいよ。何よりともに軍学校で苦楽を共にした同期たちと、こうしてまた会えたこの瞬間に感謝したい……! 僕たちは軍学校を出て2年、もしくは3年だが、ようやく仕事にも慣れてきたんじゃないだろうか。でも忘れないでほしい、僕たちは……」


「はぁい、かんぱ~~~~い!」


「かんぱいっ!」


「ちょ、みんな!?」


「なげーんだよ、ユリウス!」


 全員集合とはいかなかったが、それでもこの5人で集まれたのはずいぶんと久しぶりだ。軍学校を卒業してからは初めてだろう。


 ユリウスは相変わらずのイケメンだし、ザックとリシェルも元気そうだ。フィローザは奇麗な顔に似合わずガツガツと肉を食べてどんどん酒を流し込んでいっている。


 ストレスでも溜まっていたのだろうか……少なくとも記憶にあるフィローザはこんなに酒を飲むイメージではなかったんだが……。


「ユリウス~! 首席卒業さんよぉ! どうだ、かなり忙しいんじゃねぇのぉ!?」


「忙しいは忙しいけど、それはみんな一緒だろう?」


 ちなみにこの中で士官コースに進んだのは、俺とザック以外の3人になる。まぁ7人グループのうち、4人が士官コースに上がっているんだけど。


 これはすごいことだ。多くは3年生には上がれずに終わるからな。そしてフィローザはどんどん酒を追加で頼んでいる……。


「そういえば聞いたよ。レオンとザック、リシェルの3人は一緒の任務に就いたんだって?」


「ええ、1年前だけどね」


「セレーネ皇女様の護衛任務だな! いやぁ、セレーネ様めちゃくちゃかわいかったなぁ……!」


「いいなぁ~~。 わたしも知り合い同士で一緒の仕事をしたい~~」


 ちらりとリシェルに視線を向けると、彼女と目が合う。リシェルは小さく笑みを浮かべるとウィンクを返してくれた。


 すっかり元気になったみたいだ。よかった……あとなにげにこの中で俺が黒紋監察室ブラックシジル所属の紋影官だと知っているのは彼女だけになる。


 まぁリシェルの口からそのことが漏れる心配はしていないけど。


 そしてフィローザがしゃべると酒臭い。


「士官コースを出たんだ、いずれ一般兵をしている俺たちを従えて遠征する任務とかあるかもしれないだろ?」


「そうね、わたしの時がまさにそうした任務だったものね」


「7人全員で集まれる任務とかねぇのか、ユリウス?」


「うぅん……むずかしいだろうね。とくにバニィとレイモンドの2人は、なかなか連絡も取れないんじゃないかな……?」


 ユリウスの言葉に俺たちは首をかしげる。その反応を見てユリウスは「あぁ」とうなずきを見せた。


「そうか、人事の情報なんて細かく出回らないしね……」


「あの2人がどうかしたのかよ?」


 バニィは俺やザックと同じく2年で軍学校を出た女性だ。レイモンドは士官コースを出た男になる。


 そういやこの2人、俺も軍学校を出てから一度も会ってないな……。


「レイモンドはオルディア領に戻って、そこで騎士になったんだよ」


「え!? マジで!?」


「レイモンドが騎士に……?」


「そういえばあいつの家、どこかの貴族に仕える封臣だったか」


 封臣とは、広大な領地を持つ貴族から一部地域の統治を任された者だ。その者と家族は、あるじたる貴族の治める領地内において“貴族”として扱われる。


 もちろん領地外……帝都とかでは平民と変わらないのだが。


 しかしそうか……レイモンドの家はオルディア領の一部を任されている家系だったのか……。


「オルディア領といえば……」


「海に面していて商業の盛んな領地ね」


「領地持ち貴族の中でも、かなりの収益を上げている家だね」


 アイゼンブルク帝国には数名ばかし広大な領地を持つ貴族がいる。


 オルディア領はその中には入らないが、大領地を持つ貴族にも劣らないくらいに金回りがいいのだとか。


 やっぱり海に面しているのが強いのだろう。ただ海に面しているだけでなく、港を建造できる土地を持っているのが重要なのだ。


「そうか……とにかくレイモンドはオルディア家に仕える騎士になったというわけだ」


「とっくに帝都にはいないってことね~~」


「んならよぉ。バニィは?」


 バニィは年齢のわりに小柄な女性だった。しかし体力はかなりあり、鍛錬の成績もわるくなかったと思う。


「彼女は……所属が変わったんだ」


「どういうこと?」


「今の彼女は帝国情報院の所属なんだよ」


「…………えぇぇぇぇ!?」


「ほんとかよユリウス!?」


 え……マジか。知らなかった……。


 帝国情報院……国内外の情報を収集することを目的とした組織だ。黒紋監察室ブラックシジルと同じく秘密組織でもなんでもないので、その存在は一般的にも知られている。


 そして黒紋監察室ブラックシジルとの違いは、その組織の存在意義がはっきりと認識されている点にあった。


「あそこ、適性を認められた人がスカウトで入る部署でしょ……?」


「バニィ、密偵になったのか!?」


「情報院に所属している奴全員が密偵というわけじゃない。あいつらは国内のいろんなデータをまとめるのも仕事だし」


 たしかに密偵として他領や外国に赴くときもあるが、それは情報院にとってメインの仕事ではないのだ。


 たとえばその日の天気、たとえば特定地域の人口データや作物の収穫量。そうした細々とした情報を集め、資料を編纂するのが仕事である。


 帝国情報院には、アイゼンブルク帝国の情報がすべて集まっている……と言ったら過言だが、重要な組織なのは間違いない。


「なんかすげぇな……レイモンドにはわるいが、あいつが騎士になったという話以上に驚いたぜ……」


「そうね……」


 ちなみにマフィアの動向や国内の危険人物の見張りなども情報院の仕事である。


 黒紋監察室ブラックシジルは情報院が集めた情報の中でも、とくに危険度や緊急性の高い物事に対して対処することを求められる時が多々ある。


 また時にはヴァネッサ室長が強引に、情報院預かりの案件を“黒入り”にして黒紋監察室ブラックシジルの管轄にしてしまうため、両者の関係はわるくはないがよくもないといったところだ。


「そうなるとあまりバニィには会えなくなるな……」


「情報院の仕事はかなり激務というウワサだもんね~~」


 もし密偵なんかの適性を評価されて情報院に入ったのなら、バニィは帝都にいない可能性もあるしな……。


「激務な組織と言えばよぉ。黒紋監察室ブラックシジルなんかもそうだよな?」


「ああ、陛下直属の。実は僕、城で一度紋影官を見たんだよ」


「おいおいマジかよユリウス! よく生きてたなぁ~! やっぱりおっかない感じ!?」


「どうだろう……仮面をつけていたからね。だがただ者ではない気配はたしかにあった」


「全員が一騎当千の異能持ちって話だもんなぁ……ウワサでは陛下の指示で貴族を含む国内の不穏分子を消し回っているらしいし」


 いや、そんなことしていないよ!? 


 それに中には俺みたいな戦闘向きの異能を持っていない紋影官もいるし、全員が一騎当千というわけでもないからね!?


「実は帝国軍の中には、彼らをよく思っていない人も多いんだよ」


「……そうなの?」


「ああ。陛下直属だからと強権が認められているというウワサもあるし、それに普段どこで何をしているのかわからない不気味さもあるからね」


 今お前らと一緒に飯食って酒飲んでます……。リシェルは意識して俺のほうへ顔を向けないようにしている。


「とにかくみんなも、紋影官を見たら近づかないことだ。黒紋監察室ブラックシジル自体、何をしているのかよくわかっていない組織だし、異能についても解明されていないものだからね」


「こえぇぇぇ! 」


 いや、みんなが思っているほど怖い組織じゃ……。


 ……ふとこの間、鍛錬の時間に仮面を砕かれた記憶が思い浮かぶ。うん、怖い組織かも。よく考えたら俺、これまで何度も危ない目に遭わされ続けていたわ。


 く……! 俺だってみんなのように、普通に帝国軍所属の一兵士になるつもりだったのに……!


「まぁ普通に過ごしていたらまず遭遇することはないから大丈夫だよ! 僕もたまたま城で見かけただけだからね!」


「そ、そうだよなぁ!」


「うんうん、紋影官なんてそうそう見かけないわよ……」


「さけ~~」


 黒紋監察室ブラックシジルに対するイメージ……いや、決してよくはないと思っていたけど……!


 ヴァネッサ室長なんて対外的なイメージをまったく気にしていないだろうし。


 ちょっと冷や汗が出る場面はあったが、同期会は平和に終わった。レイモンドとバニィはむずかしいかもしれないが、またみんなで集まる日がくればいいなと思う。


 バニィとはもしかしたらどこかでバッタリ会うこともあるかもしれないが、レイモンドはむずかしいだろうな……。オルディア領は帝都からそこそこ距離があるし。


 まぁ生きていればまたどこかで巡りあえるだろう。そう思い、帰路へ着く……が、黒熊の巣穴亭は今日もセレニアンたちが行列を作っていた。


「く……! お、俺だって一角ウサギのステーキがお気に入りだったのに……!」


 空いていたら二件目のノリで入ろうと思っていたのに……。諦めてさっさと部屋に戻って眠りにつく。


 そして翌日は東エリアを散策し、未だ決め切れていなかったエグシス兄さんとアヴィエスへのお土産をゆっくり選んだのだった。

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