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普通の兵士になりたかったのに、皇帝直属の隠密として帝国の闇を任されすぎている  作者: ネコミコズッキーニ
1章 見習い紋影官 レオン

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一般兵レオン

「うおぉぉぉ!? 今回の任務も危なすぎんだろおぉぉ!?」


 軍学校を出て普通の兵士になるはずだった俺、レオンは今……皇帝直属の監察組織に配属させられており、そこで日々危険な仕事をさせられ続けていた。


 今は目的のブツ……とある貴族が不正に密輸した危険なおクスリを奪取し、それを抱えて逃げているところだ。


 後ろからはビュンビュン矢が飛んできているし、めちゃくちゃ怖ぇ!


「盗人を逃すな!」


「ぜったいに見つけ出せぇ!」


 夜の森をブツの入った箱を抱えながら走り続ける。


 お、おかしい……! 明らかに適性がないのに、なんだってこんな仕事を回されているんだ……!? 少し前までは見習いとして先輩たちにフォローしてもらいながら任務をこなしていたのに……!


 しかし今では「もう1人でだいじょうぶだろう」と、危険な任務でもソロで放り込まれている。だがとりあえず今は。


「逃げきらねぇとおぉぉぉぉ!」


 危険な仕事が多いとわかっていながら、なぜ今もこの組織を抜けられていないのか。それはあまり思い出したくない「あの日」から始まった。





 今の俺、レオン・ヴァルツァーという人物がどういう男なのか。それを端的に表すのなら「帝国軍兵士」といったところだろう。


 今日も俺は相棒のザックと共に帝都の巡回を行っていた。


「お、見ろよレオン! あの娘、かわいくね?」


「うぅん……俺はあっちの酒場で呼び込みしている方が好みかなぁ」


「どれどれ……おお、たしかに!」


 広大な版図を誇るアイゼンブルク帝国。その帝都アイゼンスタッドは大陸で最も人口の多い都市として知られている。


 そんな大都市だ、もちろん犯罪者もいるし治安の悪い地区もある。


 だが俺たち兵士がまともに巡回する場所にそうしたアングラな場所は含まれておらず、今日も平和に巡回をする日々が続いていた。


「よし、決めた! 俺、今日の仕事終わりはあの酒場の娘狙いでいくぜ!」


「おいおい、俺が先に見つけたってのに、それはずるくね!?」


「わるいなレオン! くぅ、はやく仕事終わらねぇかなぁ!」


 ザックとの付き合いはそれなりに長い。それというのも軍学校に入ったときからの友人だからだ。


「同期たちもどこかでこうして働いてんのかねぇ……」


「そりゃそうだろ! 俺たちは軍学校を3年生まで残れなかったけど、俺は今の兵士職もわるくねぇと思っているぜ! 巡回兵士だと定時にあがれるしな!」


 アイゼンブルク帝国の軍学校は貴族でも平民でも入ることができる。だが三分の一は最初の1年未満で去ることとなる。


 要するに能力が基準値以下だと認定された者たちだな。しかも相対評価で決まるので、みんな生き残るのに必死だ。


「まぁそこについては同感だな。士官になったら今よりもかなり忙しいことになっているだろうし」


 軍学校に残れた者も全員が士官コースである3年生に上がれるわけではない。俺とザックは2年目で卒業したのだが、この時点で一般兵として帝国軍に入ることができた。


 俺自身いろいろあったのだが、今はこうして模範的な帝国軍兵士としてザックと仕事をする機会が多い。もっともザックと同じ部署に来たのは、1ヶ月前なのだが。


「しかしこうして兵士になって2年が経つけどさ。給金が安いことを除けば、それなりに楽でいい仕事だよなぁ」


「帝都を見回るだけだし、重苦しい装備も必要ないからな」


 巡回ルートはあらかじめ定められており、不必要に治安のわるい場所へ行く必要はない。それに鎧を着ているわけではなく、黒を基調とした軍服に、支給された剣を腰に挿しているだけだ。


 ザックの言う通り、安全な場所を練り歩いてたまに住民の相談に乗る……そんな仕事が続いていた。


「とはいえ俺たち一般兵は、上の都合でどんどん配属先が変わるからな……もしかしたら他国との最前線に送られるかもしれないぞ」


「そうならないことを祈るばかりだぜ。いつまでも平和なこの大都会で巡回兵士をしていてぇ」


 16の歳で軍学校に入り、17歳で卒業。それから2年兵士をして、来年には20歳。


 まずは安全な帝都で兵士としての基本を学ばせ、他の街に異動させる……ということは十分に考えられる。


 コネでもあれば、ある程度異動については考えてもらえるらしいが……なんにせよ俺にはどれだけ強力なコネがあったところで関係がない話だ。


「士官コースに上がった同級生たちはどうしているかなぁ。……あ、そういや俺、たまたまだけどユリウスを見たぜ」


「ユリウスを?」


 俺とザックは2年で軍学校を卒業したが、仲のよかった同級生たちで士官コースである3年生に上がった者もいる。


 ユリウスはその1人で、士官コースを主席で卒業したエリートだ。


 実家は高位貴族であり、本人も明るく気さくな金髪イケメン。ああいうのを“全部持っている奴”っていうんだろうな……。


「あぁ、隊長から報告書を出してくれって言われて、軍本部に行ったんだけどよ。そこで立派な軍服を着たユリウスを見かけた。お偉いさんと話していたから、俺からは話しかけられなかったけど」


「まぁ向こうは主席卒業のエリート様だしな。一般兵である俺たちとはもう住む世界が違う、あきらめたまえ」


「いや、ユリウスはそんなの気にしねぇだろ!?」


 もちろん冗談だけど。ザックの言う通り、一般兵その1とその2である俺たちが話しかけても、あいつなら笑顔で会話に応じてくれるだろう。


 実は俺たちの同級生で3年生に上がった者たちは、優秀な者が多い。


 昔のようにみんなで集まってワイワイ騒ぐ……というのは難しいだろうが、今でも久しぶりに会って話したいと思える者たちは多い。


「よし、そろそろ仕事終わりだな! 兵舎に戻って隊長に報告、資料をまとめたら着替えて酒場へレッツゴーだ!」


「だな!」


 きっとザックは異動さえなければ、これからも同じような日々が続くと考えているだろう。


 だが俺は知ってしまっている。アイゼンブルク帝国は決して盤石ではないということを。今も昔も、この巨大な帝国にどう混沌を呼び込むのか、その機会をうかがっている者たちがいくらでもいるということを。


 だから翌日、隊長から呼び出されたときに告げられた任務を聞いても動揺はなかった。それどころか「やっと来たか」という気持ちですらある。


「レオン、ザック。お前たちに辞令だ。帝都の東にある街〈ハグリア〉へと向かってもらう」


「えぇ!? 隊長、どういうことですかぁ!?」


 ハグリア……帝都からなら馬車で1日の距離だな。


 帝都近郊にある街はどこも人口規模が大きい。帝都にはあらゆる場所からヒトやモノ、カネが集まるが、それらは近くの街を経由してやってくる。


 いわば帝都が流通のハブ的な役目を果たしており、その影響が大きいからこそ近郊にも大きな街ができあがっていくのだ。ハグリアも例にもれず、それなりの規模がある街である。


「実は数日前、ハグリアの近くで巨大な魔獣が現れてな」


「えぇ……帝都近郊はあんまり魔獣なんて出るイメージないんですけど……」


「あぁ、だがまったく出ないというわけでもない。幸い漂旅士ストライダーとハグリアに駐屯している帝国軍の活躍もあって、魔獣自体は撃退できたらしい」


 漂旅士ストライダー……ストライダーギルドに所属する、いわば実力のある流れの冒険者だ。


 国もギルドに多少の資金援助を行っており、彼らはギルドの要請に従い、魔獣と戦ったり危険な場所に赴くことを生業としている。


「へぇ、ストライダーっすか。珍しいですね、こんな帝都近くの街にいてるなんて」


「俺、幼少のころは少し憧れていたこともあったな……」


 魔獣を狩ったり、遺跡を調査してその日を暮らすストライダー。俺に限らず幼少期にあこがれた男子は多いと思う。


 帝国はあまりストライダーを活用しておらず、ギルド支部も少ないんだけど。


「発展途上の中小国ほどストライダーの優遇政策を取っていると聞きますね。なんでもそういう国では有名ストライダーは英雄と同義だとか」


「帝国にはあまり有名なストライダーはいないけどな~」


 地方ならともかく、魔獣も少ない帝都周辺で活動するストライダーは珍しい。彼らにとってもあまり稼ぎにならないだろうし。


「たしかに珍しくはあるが今回の任務には関係ない。実は巨大魔獣との戦いで、帝国軍からかなりのケガ人が出たんだ」


「それだけ激しい戦いだったと」


「ああ。そこでセレーネ様が、ハグリアに赴いて兵士たちの慰問を行うことになってな」


「え!? えぇ!? せ、セレーネ様って、あのセレーネ様っすか!?」


 ザックが食い気味になる。セレーネ様……第五皇女のセレーネ様のことだな。現皇帝には子供が多いが、セレーネ様は一般人の間でも知名度がある方だ。


 それというのも、よく皇宮を出て帝都を視察しているからである。隣にイケメンの護衛騎士をつけて庶民たちに笑顔で手を振り、そのままお店に入って買い物をすることもあるぐらいだ。


 他の皇族とは違って気軽に庶民に接し、しかも超がつく美人。第五皇女という立ち位置だからこそできることだろうが、なんにせよ帝都民の人気は高い。


「当然だがセレーネ様お一人でハグリアへ向かうわけではない。何人か兵士をつけることとなる。で、俺の管轄からは2人を出すことって通達がきてな」


 帝都を巡回する兵士は、帝国軍全体の組織図から見れば最下層に位置する。広大な帝都は細かく管轄区域が分けられており、俺とザックはその一つに所属する身。


 そして隊長も一つの管轄区域を預かる責任者に過ぎず、他にも同格の隊長がわんさかいる。


「お前たち、軍学校を出てから訓練と巡回以外にあまり仕事らしい仕事をしてないだろ?」


「いや、迷子のネコを探したり、食い逃げ犯を追っかけたりと、いろいろやってますって!」


「その程度、だれでもやっている! ったく……お前たち2人は俺の管轄で一番若いし、これもいい経験だと思ってな。というより、先方からリクエストもあったんだよ」


「えぇ!? ま……まさか……セレーネ様が俺たちに守ってもらいたいと!?」


「んなわけあるか! セレーネ様が末端兵士のことまで把握しているわけないだろ。リクエストを出したのはリシェル三等剣尉だ」


「リシェル……っ!?」


 リシェル・ノワゼル。領地を持つ貴族家であるノワゼル家の次女で、俺とザックとは軍学校の同級生でもある。


 優秀な彼女は3年生に上がり、卒業した今は帝国軍内でがんばっているようだ。


「やっぱり知り合いか。こういうのはまぁ、個人的な繋がりでもないとわざわざリクエストなんて送ってこないからなぁ」


「はは、そうかリシェルが……!」


「ああ。どうやらリシェル三等剣尉は今回、セレーネ様の護衛部隊の責任者を務められるそうだ。顔見知りを入れておきたかったんじゃないか?」


 剣尉というのは、いわば帝国軍内における階級だ。セレーネは軍学校を出て陸軍に入り、今では立派な三等剣尉というわけだ。


「まぁセレーネ様の護衛としてハグリアまで行って、そのまま帝都に帰ってくるだけの任務だ。若手のお前たちにはちょうどいい仕事だろ?」


「ですねぇ! いやぁ、セレーネ様を間近で見られるなんて……しかもリシェルにも会えるし! 任務内容も楽そうだ、こりゃついてるなぁおい!」


 そう言ってザックは俺の肩をバシバシと叩いてくる。ここでザックは首を横にかしげた。


「そういやレオンよ、お前えらく落ち着いてね? まるで今のこの話を、最初から知っていたかのような余裕っぷりだぜ?」


「まさか。驚いて思考が固まっていただけだって」


「そっか。まぁたしかに、冷静に考えてみれば驚くしかない話だもんなぁ」


 ……今のは俺がわるいな。それにザックも変なところで気がつく奴だからなぁ……。


 なんにせよ今回の“任務”については、ちゃんと頭に入っているし理解もできている。


「頼むからセレーネ様に話しかけるとか、無礼な真似だけはするなよ? いくら気さくな方とはいっても、お前たちは帝国軍の兵士であって一般人というわけではないんだからな」


「わぁーってますって隊長!」


「はぁ……。おいレオン、ちゃんとザックが暴走しないか見ておけよ?」


「え、俺ですか!? ……了解です」


 こうして新たな辞令を受けた俺たちは、さっそく準備に取り掛かる。そして2日後……待ち合わせ場所である貴族街へと向かった。


 帝都は人口の増加に合わせて外へと都市を広げていった歴史がある。それもあって城や貴族たちが住む街、重要な施設などは帝都の中心部に集まっているのだ。


 貴族街へ続く道は限られており、行き来するには検問を通る必要があった。俺たちは検問所の外で待機する。


「レオン、ザック!」


 貴族街から姿を見せたのは、立派な軍服を身にまとったリシェルだった。


 実は彼女とはたまに食事をする仲でもあり、つい1ヶ月ほど前も3人で飯を食べにいったところだ。


「よぉリシェル! リクエストに応えてきてやったぜ!」


 リシェルは明るめの茶髪の髪を後ろで結んでまとめていた。


 腰には剣を挿しているが、別に彼女は剣が得意というわけではない。規則で挿しているのだろう。


「来てくれてありがとう。ちょっと予定と違う部分も出てきて、焦っていたところだったし……その、2人には頼ることになると思う」


「おう、任せろって! だてにこの2年、真面目に兵士をしてねぇからよ! なぁレオン?」


「まぁ巡回任務がメインだけどな……」


 少なくとも士官として1年過ごしたリシェルと俺たちでは、積んできた経験の質が異なるだろうな。


「皇女様をお守りしつつの旅だろ? で、肝心の皇女様は? あと残りの兵士たちは?」


「残りの兵士たちに関しては、もう少ししたらここへ来るわ。それとセレーネ様だけど……実は昨日の夜にもう旅立っておられるの」


「……はい?」


「だからね? いろいろ予定と違う部分が出てきたのよ……」


 そう言うリシェルの顔は疲れ切ったものだった。


 うん、まぁ“今回の任務”の本命ではないが……こういうイレギュラーは勘弁してほしいだろうな……。

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