第四話 死の呪い
「何者だ、お前ら」
イケダは震える手で、刀の柄に触れながら聞く。
「あ? ないでわいに名乗る必要があっと?」
「オレは魔王幹部四天王が一人、『鉄壁』のヘルメタル。そして、こちらが同じく四天王が一人、『絶望』のデスソングだ」
「え、ないごて言うた?」
「ふっ。武人たるもの名乗らねばな」
「そも、武人は自分んこと武人ってゆわん!! そん口ん緩さをなんとかせえ!! わいは『鉄壁』ちゅうには口が緩すぎる!!」
魔族二人はなにやらもめているようだが、イケダ一行はそれどころではない。
「四天王……だとッ!? それが、二人……!?」
魔王幹部四天王、モンスターを狩る冒険者として生きていなくても、一度は聞いたことがある肩書。
魔王の次に、強い魔族と考えて、差し支えないだろう者たち。
「なんでこんなところにいるんだ……」
「うむ。当然の疑問だな。王都には、『必殺』のイチゲキがいるであろう。あの者は、魔王様にまた害をなしうる存在。それを消しに来たまでのこと」
「イチゲキ……か」
たとえ冒険者でなくても、その名を聞いたことのない者などいない。
彼は、冒険者の最高峰、A級を超越した人類の到達点、S級冒険者の1人である。
S級冒険者は、5年前、魔王を瀕死に追い込んだパーティを称えて、そのメンバーに与えられた称号。
この世界に存在するS級冒険者は、
剣士『勇者』キリサーク
戦士『鏡面』のミラージュ
格闘家『必殺』のイチゲキ
魔法使い『羨望』のマナザシ
のたった4人。まさに生ける伝説たちである。
「たしかに、彼が王都の地下牢にいる、というのは有名だが……どうやって殺すつもりだ」
「うむ。まずは王都で、このオレ、ヘルメタルがたくさんの人間を殺す。すると、流石にイチゲキを出さざるを得ないだろう? そこで、イチゲキにデスソングが『死の呪い』をかければ、イチゲキは死ぬ。以上だ」
そう言い切ったヘルメタルを、デスソングは丸い目、ぽかんと空いた口で見ていた。
「え、作戦全部いうた? 全部いうた!? ──全部いうた!!???」
「まぁ、オレ武人だし……あ! すまぬ、すまぬ!! 謝るからオレに『死の呪い』をかけようとするな!!」
……ひとまず作戦は聞き出すことができた、が。
イケダの身体の震えは止まらない。
そもそも作戦を聞いたところで止められるのか?
それこそ、四天王二人なんてS級冒険者じゃないとどうにもならないんじゃないか?
……逃げ出して、彼らの言う通りイチゲキを呼ぶのが得策か?
でもそれでは、王都に被害がでてしまうかもしれない。
それは駄目だ。
王都の冒険者として、それだけは許してはならない。
「ふぅう」
深呼吸をして、イケダは居合の構えをとる。
「──ん、勝つっち思うちょるんと?」
しかし、デスソングは面倒くさそうに頬を掻く。
こちらを睨む彼女の目に映るのは、行く先を阻む敵ではなく、潰せば死ぬ蛙。
ただ、その蛙をつぶすのも面倒くさい。
「戦うたあ面倒くさい。んー、ほれ」
そう言ってデスソングは杖を振るった。
──同時に、赤い蛍のようなものが、イケダ一行めがけて浮遊していく。
「ウッ」
その光と目が合ったフライヤは、我慢できずに吐き出す。
あまりにも色濃い死の色を、見てしまった。
(聞かなくてもわかる……これが、死の呪い)
その光はボーっと飛んで、そして──チゲのもとへ。
「逃げろチゲくん!!」
「──あ」
音よりも遥かおそいはずなのに、それは、声よりも先に。
衝突と同時に、頭上に赤い紋章が浮かび上がる。
「おい! なんだこれは!?」
蛙がゲコゲコとなくけれど、蛇は舌をだして笑うだけ。
「ははは、なんじゃち思う?」
「うむ。それこそイチゲキを倒す秘策、『死の呪い』だ。その紋章が現れると、あと三分で紋章が現れたやつは死ぬ。術師──デスソングが死なん限りその呪いは解けぬ」
「……」
「まぁ、同時に一人にしか呪いがかけれんのが難点だがな」
「──ヘルメタル」
「む? ……あ、やべ」
「お前は、帰ったら、殺す」
「あ、いや、違うのだ。すまぬ、すまぬ!!」
「何も、違わ、ない。殺す。今を、楽しんで、おけよ」
──なるほど、分かった。あいつを殺せばいい。
それがどれほど難しいかも、チゲは分かっていた。
「……げてください。逃げてください! 僕のことはおいて」
「チゲくん……」
──イケダとフライヤでは、勝てる可能性は限りなくゼロ。
もう自分はいい。ほかに死人をだしたくない。
鼓動がバクバクなっている。
死を真っ直ぐに受け止められるほど、幼きチゲの心臓は強くない。
熱い鼓動が身体から溢れて、目から涙となって漏れ出す。
しかし、彼らは逃げない。
出口に、チゲに背を向けて、刀を、杖を構える。
「どうして、逃げないんですか……!? 死ぬんですよ!?」
「──逃げない。ここでチゲを見捨てたら酒が不味くなる」
「──可哀そうなのはヌけないんだよ」
守るべきものを背中に──もう、足は震えない。迷いはない。




