第二話 道中
イケダ一行は王都から西──ブロコ大森林のダンジョンへ向かう。
王都周辺は基本的に安全で、高くても脅威度B級止まりのモンスターばかり。
大森林に入ると、生き生きとした緑色に溢れていて、足が弾んだ。
「にゃはは! 気温も丁度いいし、飲むにはいい日だ!」
そう楽し気に言って、フライヤは水筒に入った酒を飲む。──酒を飲んでいる。
はじめは、それがただの水だと思ってみていたチゲも、流石に顔が赤くなったフライヤを見ていると気づく。
「──は? 嘘ですよね。酒? え、嘘。仕事中ですよ!?」
「ん、これは…………ただの聖水だヨ」
「あ、なんだ聖水か。くんくん…………酒じゃねえか!!」
「あー!! 命の水が!!!」
「そうであっても常飲するな!!」
そんなことを言いつつ、獣道を進んでいくと、あるとき、先頭のイケダが歩みを止めた。
どうかしたのかと思いチゲがイケダをみると、人差し指を口にあて、『音を立てるな』とサインする。
先程までのピクニック気分から一転。緊張を保ちながら目の前をみると……
「いや! 誰か助けて!!」
「「「GURRRRRR!!!」」」
少女が、豚の怪物──オーク三体に襲われていた。
きっとこのあたりの村の少女だろう。背中には山菜の入った籠を背負っている。
(すぐに助けにいくのか? どうする?)
チゲは焦りながらも、ここはリーダーのイケダを見る。
ここは彼に判断を委ねようかとおもっていたが──
「──ニゲキくん!?」
イケダの頭上をはるか飛び越えて、戦士ニゲキは少女のもとへ──
重い鎧も、ものともせずに風のようにかけ走った。
そして、今にも少女に振り下ろされようとしていた棍棒を受け止める。
「GUR!?」
流石は戦士職。その力を受け止めて、地盤にクレーターができるも、彼女自身は動じず、砕けず。
だが、その棍棒を両手で受け止めているため、動けない。
残りのオーク二体がニゲキに襲い掛かる。
「──くそ」
ニゲキの頬を冷や汗が伝った……が、問題ない。今の彼女には仲間がいる。
右手側のオークは、イケダによって頭部を鞘に入ったままの剣で殴られ、よろける。
左手側のオークは、フライヤが放った火花がぶつかるやいなや、炎に包まれ、悶えながら絶命した。
「ニゲキくん。その身をもって、真っ先に少女を助けにいく姿、素晴らしいよ」
イケダはそういって、剣を腰に戻し、背を低く構える。
「うん、ほんとうに素晴らしい。その引き締まった太もも、そしてたわわな胸」
腰に据えた剣──いや、あれは東の国アズマに伝わる特有の形をした剣、刀だ。それをスゥと引き出す。青く輝く金属から、冷たい殺気の霧が漏れ出す。
「ああ。ニゲキくん、俺は君で
ヌける」
「──は?」
ここでニゲキは思わず防御の力を緩めてしまう。オークもその好機を逃すまいと、もう一度棍棒を振り上げた。
────────────だが、それじゃあ遅い。
その斬撃は、音もなく。
先程、殴ったオーク含め、二体のオークの首が、胴体からズレ落ちた。
***
「大丈夫ですか? 傷は……なさそうですね。一応回復魔法をかけておきます!」
「ありがと!」
少女に手当をして、チゲはにっこり笑った。こうやって大人に振舞ってはいるけれど、背丈はチゲの方が少し高いぐらいだ。
しっかり辺りにモンスターがいないことを確認、少女を村のほうへ帰らせる。
「もうこんなとこまで来るんじゃないぞー」
「はーい!」
ようやくここで、一息つける。
「イケダさん、ケガは?」
「大丈夫だ。俺よりもニゲキくんに」
「…………ニ、ゲキさん。こちらへ」
「ありがとう」
「──顔、近いです」
しかし、流石は戦士職。傷は掌だけだ。
それに防御力も素晴らしい。
回復魔法をかけているときに、顔が近いのだけ気になるけれど……
「でもさ、イケダが変なこと言わなきゃ無傷でいけたんじゃない?」
フライヤがイケダにそう言った。
「すまない。俺は素晴らしいものには『素晴らしい』と、美しいものには『美しい』と、そしてヌけるものには『ヌける』と伝えなければ落ち着かない性質なんだ」
「ちなみにそのヌける……というのは?」
「チゲくん、君も男ならそんなこと聞くのは野暮というものだ」
「き、きも」
チゲもこれにはドン引きである。
そりゃあ、パーティに誰も入ってこないわけだ。
「ニゲキさん、もうこいつ殺していいからね」
「いや、別に気にしてはいない。少し驚いただけだ。今回の傷も、私の弱さ故のこと……」
「なんちゅう寛容でストイックな人ッッッ!!! あたしゃあんたで三杯はイケるよッッ!!! ぐび!!!!」
「ぐび……? 嘘だろ。何本もってきてんすか!?」
どこから取り出しているのか、また酒を飲んでいるフライヤ。チゲは取り上げようとするも、フライヤは逃げる。
その様子を、イケダとニゲキは笑って見ていた。




