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雨上がりの誓いと、新たな義手

私の技術が、村人を苦しめている。その事実に打ちのめされる私に、ギルバートは言った。「お前の技術は、人を守るためにある」。彼の言葉を胸に、私は決意する。最高の義手で、彼の呪いと、帝国の闇を、打ち砕くと!

私たちが襲撃された村にたどり着いた時、そこはすでに、地獄と化していた。家々は燃え、村人たちの悲鳴が響き渡る。そして、その破壊の中心にいたのは、黒鉄の機械兵士――『オウルム』が作り出した、量産型魔導兵士だった。

その腕には、見覚えのある機構が、禍々しく取り付けられていた。私が設計した、動力伝達機構。それが今、村人を薙ぎ払い、家を破壊するための、暴力の装置として使われている。


「……あ……」


私は、その光景に、言葉を失った。私の知識が、私の技術が、人々を傷つけている。その事実に、胃の腑がひっくり返るような、強烈な吐き気と自己嫌悪に襲われた。足がすくみ、その場にへたり込みそうになる。

その私の肩を、大きな手が、強く掴んだ。ギルバート様だった。


「アリア、下を向くな。前を見ろ」


彼の声は、厳しく、しかし、震えていた。


「お前の技術は、悪くない。それを悪用する、奴らが醜いだけだ。お前のその手は、人を傷つけるためではなく、人を守り、救うためにある。それを、今、ここで証明しろ」


彼は、そう言うと、背中に背負っていた、一つのアタッシュケースを、私の前に置いた。


「……これは?」


「工房の仲間たちが、徹夜で組み上げてくれた。お前が新しく描いた設計図に基づく、試作品だ」


ケースを開けると、そこには、銀色に輝く、美しい機械の腕――私の理想を詰め込んだ、最新型の義手オートメイルが収められていた。


「まだ、完全ではない。だが、これがあれば……」


彼の言葉に、私はハッと我に返った。そうだ、俯いている場合じゃない。私の過ちは、私の手で正さなければ。

私たちは、村の教会に立てこもり、義手の換装作業を開始した。


「ギルバート様、左腕を」


私は、彼の呪われた魔導鎧に、再び向き合った。しかし、今度の私の心には、もう迷いはなかった。

私は、試作品の義手に組み込まれた、特殊な装置を起動させた。それは、鎧の魔力循環を、強制的に逆流させるという、荒療治の機構だった。


「ぐ……うううっ!」


ギルバート様の体が、激しく痙攣する。鎧が、最後の抵抗を見せ、彼を締め上げる。


「もう少しです! 耐えてください!」


私は、汗だくになりながら、鎧の接合部を、一つ、また一つと、専用の工具でこじ開けていく。そして、ついに、最後の留め具が外れた瞬間。

カラン、と乾いた音を立てて、百年間、彼を苛み続けてきた呪いの鎧が、その腕から滑り落ちた。

露わになった彼の左腕は、長く魔力を吸われ続けたせいで、細く、そして力なく垂れ下がっていた。しかし、それは紛れもなく、血の通った、人間の腕だった。

休む間もなく、私は、銀色の新たな義手を、彼の腕に取り付けていく。神経接続用の端子を繋ぎ、動力パイプを接続する。全ての作業を終えた時、夜が明け始めていた。


「……動かしてみて、ください」


私の声は、震えていた。

ギルバート様は、恐る恐る、自分の左腕に意識を集中させた。すると、彼の意志に呼応して、銀色の指が、ゆっくりと、しかし確実に、握り締められた。


「……動く……。自分の、意志で……」


彼は、信じられないものを見るように、自分の新しい腕を見つめた。そして、その指で、私の頬に、そっと触れた。


「……温かいな。お前の頬も、この腕も」


義手には、温度センサーが組み込まれていた。彼が、失われた感覚を取り戻したのだ。彼の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。


「……ありがとう、アリア」


その一言に、私のこれまでの苦労は、全て報われた気がした。

その時、教会の扉が、轟音と共に破壊された。魔導兵士の部隊が、私たちの居場所を突き止めたのだ。

ギルバート様は、静かに立ち上がった。彼の体からは、もはや、呪いの禍々しい気配は消え、純粋な、そして以前よりも遥かに強大な、制御された魔力が溢れていた。


「――さて。ここからは、俺の番だ」


彼は、新しい左腕で、愛用の長剣を抜き放った。その動きには、一切の淀みがない。


「お前たちが模倣したのは、彼女の技術の、ほんの上澄みだけだ。本物の天才が作り出した、芸術アートの力を、その体で思い知るがいい」


彼は、単身、魔導兵士の群れの中へと飛び込んでいった。その動きは、まさに英雄。呪いから解放された彼の剣は、悪意の機械を、次々と切り伏せていく。

私は、その後ろ姿を見つめながら、固く誓った。私の技術で、この人を支えよう。そして、二人で、この帝国の闇を、打ち払おう、と。

雨は、いつの間にか上がっていた。教会のステンドグラスから差し込む朝の光が、彼の銀色の腕を、希望の光のように、きらきらと照らし出していた。

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