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錆びついた英雄への設計図

呪われた騎士団長を救いたい。その一心で、私は彼の呪いを解くための機械からくりの設計を始めた。けれど、落ちこぼれの私に彼へ会う術はない。意を決して飛び込んだ夜会で、私は運命と対峙する!

あの日、凱旋パレードで見た騎士団長ギルバート・アイゼンハルト様の苦しげな横顔が、私の頭から離れなかった。魔力ゼロの私に何ができる? 自問自答を繰り返した末、私は一つの結論に達した。私にできることは、私が得意なことだけ。つまり、機械で彼の問題を解決することだ。

それから数日間、私は工房に籠もりっきりになった。公爵家の書庫から持ち出した古代魔道具に関する文献を読み解き、呪いの鎧の正体を突き止めた。それは「自己増殖型魔力変換装甲」。宿主の魔力と生命力を喰らい、自らを強化、修復していく厄介な代物だ。魔法で剥がそうとすれば、さらに強く抵抗し、宿主に激痛を与えるという。


「なら、逆転の発想よ。魔力で動いているなら、その魔力供給を外部から遮断してしまえばいい。そして、鎧の代わりに、純粋な機械の力で腕を動かす動力を与えれば……」


私の頭脳は、かつてないほどの速度で回転した。スケッチブックの上を、鉛筆が滑るように走る。歯車、ピストン、圧力弁、蒸気機関。魔法の要素を一切排した、純粋な機械工学に基づいた、精密な義手オートメイルの設計図が、少しずつ形になっていく。それは、呪われた鎧を「無力化」し、その上から被せる形で腕の機能を「代替」させるという、大胆な計画だった。

しかし、設計図が完成に近づくにつれ、私は大きな壁にぶつかった。どうやって、これを彼本人に届ければいいのか。

父に「騎士団の装備メンテナンスの助手をしたい」と直談判してみたが、「魔力もないお前が行って何になる。家の恥をこれ以上晒すな」と、予想通り一蹴された。

諦めきれないまま時間だけが過ぎていく。そんなある夜、皇太子主催の夜会が開かれることを知った。騎士団長であるギルバート様も、必ず出席するはずだ。これしかない。私は侍女に頼み込み、一番地味なドレスを借りると、家族に内緒で夜会へと潜り込んだ。

きらびやかな会場の隅で、獲物を探す狩人のように彼の姿を探す。すると、テラスで一人、夜風に当たっている漆黒の騎士服の背中を見つけた。間違いない、ギルバート様だ。

私は深呼吸をし、震える足で彼に近づいた。彼は手すりに寄りかかり、苦痛を堪えるように眉間を寄せている。呪いの鎧が、また彼を苛んでいるのだろう。


「……あの、ギルバート様」


勇気を振り絞って声をかけると、彼はゆっくりとこちらを振り返った。そのアイスブルーの瞳は、何の感情も映さず、ただ私を冷たく見つめるだけだった。


「何の用だ、ご令嬢」


「突然、申し訳ございません。わたくし、アリア・フォン・アルバレスと申します。単刀直入に申し上げます。あなたのその左腕の呪い、わたくしに修理させていただけませんか」


私の言葉に、ギルバート様の眉がぴくりと動いた。しかし、すぐに嘲るような笑みがその口元に浮かんだ。


「修理、だと? 神殿の最高位神官ですら匙を投げたこの呪いを、どこぞの令嬢が戯れ言で治せるとでも?」


「戯れ言ではございません!」


私は懐から、丸めた設計図を取り出し、彼の前に広げた。


「魔法で治せないのであれば、別の方法を試すまでです。これは、魔力を一切使わない、蒸気と歯車の力だけであなたの腕の機能を取り戻すための設計図です。あなたの鎧を無力化し、あなたの体を解放するための、機械からくりです」


ギルバート様は最初、馬鹿にしたように設計図に目を落とした。だが、そこに描かれた緻密で、論理的で、そして一切の魔法の要素を含まない純粋な機械の図面を見るうちに、その表情が険しいものから、驚愕へと変わっていくのがわかった。


「これは……なんだ……。こんな理論、見たことがない……」


彼は初めて、私を「どこぞの令嬢」としてではなく、一人の技術者として見た。そのアイスブルーの瞳に、ほんのわずかな、しかし確かな興味の色が宿ったのを、私は見逃さなかった。


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