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宰相ギルバートと、公爵令嬢アリア

宰相と公爵令嬢。立場は変わっても、私たちの関係は変わらない。多忙な日々の中、束の間の休息。二人きりの時間で、私たちは、未来を語り合う。それは、甘く、そして、少しだけ、もどかしい、大人の恋の、始まり。

帝国宰相ギルバート・アイゼンハルト。その名は、帝国の、復興の象徴として、人々の、尊敬を、一身に、集めていた。彼は、その、卓越した、政治手腕と、清廉潔白な、人柄で、混乱していた、帝国を、力強く、導いていた。

そして、アルバレス公爵、アリア・フォン・アルバレス。彼女もまた、その、天才的な、技術力で、帝国の、インフラ復興や、医療の発展に、多大な、貢献をしていた。彼女の設立した、技術開発機関は、帝国の、希望の、光となっていた。

二人は、公の場では、互いを、「宰相閣下」、「アルバレス公爵」と、呼び合い、完璧な、協力者として、振る舞っていた。

しかし、夜、二人きりになると、彼らは、ただの、ギルバートと、アリアに、戻った。

その夜も、私は、宰相執務室で、山のような、書類と、格闘している、彼の元を、訪れていた。

「ギルバート。また、こんな時間まで。少しは、休んだらどうです?」

「……アリアか。お前こそ、その、目の下の隈は、なんだ」

私たちは、互いの、働きすぎを、窘め合い、そして、苦笑した。

私は、持ってきた、夜食の、サンドイッチと、温かいスープを、彼の前に、並べた。

「さあ、仕事は、一旦、終わり。ディナータイムですわ」

「……いつも、すまないな」

彼は、本当に、美味しそうに、私の作った、サンドイッチを、頬張った。その、無邪気な、食べっぷりを見ているだけで、私の、一日の疲れも、吹き飛んでいくようだった。

私たちは、食事をしながら、他愛のない、話をした。

新しい、橋の、設計のこと。

隣国との、外交問題のこと。

そして、今度、新しくできる、孤児院の、こと。

立場は、変わった。けれど、こうして、二人で、未来を、語り合う時間は、あの、地下工房で、過ごした、濃密な時間と、何も、変わらなかった。

「……なあ、アリア」

彼が、ふと、真面目な顔で、言った。

「お前は、本当に、このままで、いいのか」

「何が、ですの?」

「俺は、お前を、生涯、支えると、誓った。だが、それは、お前の、自由な、未来を、縛ることには、なっていないか。お前ほどの、女だ。もっと、相応しい、相手が、いるはずだ。俺は、もう、呪われた騎士ではないが、ただの、仕事漬けの、面白みのない、男だぞ」

その、あまりに、不器用な、自信のなさに、私は、思わず、笑ってしまった。

「……あなた、本当に、馬鹿な方ですわね」

私は、立ち上がると、彼の、後ろに回り、その、広い肩を、優しく、揉んだ。

「わたくしが、選んだ、助手は、あなただけです。他の誰にも、務まりはしませんわ。……それに」

私は、彼の耳元で、囁いた。

「わたくしは、その、仕事漬けで、面白みのない、男のことが、どうしようもなく、好きみたいですわ」

私の、突然の、告白に、彼の肩が、びくりと、震えた。

そして、彼の耳が、みるみるうちに、赤く、染まっていく。

その、純情な、反応が、愛おしくて、たまらない。

しかし、私たちの、甘い時間は、いつも、邪魔されるのが、常だった。

「――失礼します、宰相閣下! 緊急の、報告が!」

レオが、慌てた様子で、執務室に、飛び込んできた。

私たちが、慌てて、離れる。

「……なんだ、騒がしい」

ギルバートは、咳払いを一つして、宰相の、顔に、戻った。

報告の内容は、深刻なものだった。

帝国の、南の辺境で、原因不明の、大規模な、地盤沈下が、発生し、大きな、被害が出ているというのだ。

「ただの、地盤沈下では、ないようです。現場からは、微弱な、しかし、未知の、魔力エネルギーが、検出された、と……」

私の胸に、嫌な、予感が、よぎった。

皇帝は、死んだ。オウルムも、壊滅した。

けれど、彼らが、遺した、負の遺産は、まだ、この世界の、どこかに、眠っているのかもしれない。

私たちの、「修理」の仕事は、まだ、たくさん、残っているようだ。

「……行くぞ、アリア」

ギルバートが、立ち上がった。その瞳には、宰相としての、強い意志が、宿っていた。

「ええ」

私も、頷いた。

私たちの、束の間の、休息は、終わりを告げた。

でも、それで、いい。

この、愛しい人と、共に、戦えるのなら。

どんな、困難も、乗り越えていける。

私たちは、互いに、視線を交わし、そして、新たな、戦いの舞台へと、向かう、決意を、固めたのだった。

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