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再会

 *



 死んだ。そう思った(・・・)



 「え…?」



 目を覚ますと、私は吹雪の中に放り出されていた。私は戦地にいたはず。雪の季節でもなかったし、辺りに人の気配はない。



 「どうなってるの…?」



 慌てて起き上がると、右腕に激痛が走った。そちらを見れば血が滴っていた。驚いて呼吸が荒くなる。パニックになってるんだ。瞬時に理解し、自分を落ち着けようと大きく息を吐く。

 訳が分からない。ここはどこで、何がどうなっているのか。分からないことだらけだが、分かることが二つだけある。一つは、どうやら私はまだ生きているらしいということ。二つ目は、このままここにいたら凍死する可能性が高いということ。私は何とか立ち上がると、当てもなく歩き始めた。


 いつしか吹雪は止み、雲間から星が見え始めた。もう吐息は白くならない。腕の痛みもどこかへ行ってしまった。随分歩いたはずなのに、民家の一つもない。ここはどこなんだろうか。せめて月の国であって欲しい。そう思いながら、私はその場に倒れ込んだ。


 何も聞こえない。あまりに静かだ。こうして誰にも看取られずに死ぬんだろうか。総隊長や守護団の皆はどうなったんだろうか。八雲隊長は無事なんだろうか。……いや、愚問だ。私は確かにこの目で彼が死ぬのを見た。涙が次から次へと溢れて止まらない。



 「八雲…隊長…。」



 ポツリと呟いたその時、雪を踏み固める音が聞こえた。複数いる。狼の群れだろうか。普段なら何てことなくても、今はもう戦う力は残っていない。諦めていたその時、人の声が聞こえた。



 「子どもだ!」



 どうやら駆け寄って来てくれたらしいその人は、私を抱き上げると体についた雪を優しく払ってくれた。



 「おい、大丈夫か!」



 薄っすらと目を開けると、闇の中で緑の瞳と目が合った。その時、雲間から月が顔を出した。今日は満月らしい。月光を浴びた銀の髪がキラキラと輝いた。



 「よかった、意識はあるな。」



 あれ。どうして。



 「もう大丈夫だからな。」



 そう笑った顔は、よく見知った顔だった。



 「八雲、隊長…。」



 また涙が溢れた。どうして、ここにいるの? 死んだんじゃないの? もしかしたらここは天国なんだろうか。私は八雲にしがみついて額を押し付けた。なんだっていい。また会えた。八雲は私の肩を抱くと、そのまま頭を撫でた。



 「よく頑張ったな。」



 安心したのだろう、私はそのまま気を失った。次に目を覚ました時、私は首都の病院のベッドの上だった。それから八雲には会えていない。



 人伝に八雲たちは国境沿いの村からの救援要請を受けて、そちらへ向かう道中であったこと。私はその村の出身だという記録が見つかったこと。そして、村は太陽の国の襲撃を受けて全滅だったことを聞いた。


 話の通りなら、襲撃を受けての唯一の生き残りということになるのだが、私からすれば不思議な点がある。

 まず、私が八雲に保護された場所は村からかなり離れていた。手負いの子どもが徒歩で移動するのは困難な距離だ。もしかしたら馬に乗っていたのかもしれないが、足跡はすべて雪の下。確かめる方法はない。

 次に、恐らく私はその村の出身ではない。というのも、前世では物心ついたときには戦争孤児だったのだ。前世との一番大きなズレはこれだろう。私は親の顔も、家族も知らない。


 とはいえ、そんなことを言えば怪しすぎる。折角身元が証明されたのだから、ひとまずそういうことにしておこうと口を噤んだ。

 そしてタイミング良く訓練が始まる時期をすぐに迎えたため、そのまま訓練に参加することになったのだ。



 *



 「じゃあ、八雲さんにはまだ会えてないんだ。」



 かいつまんで八雲に助けられた日のことを話し終えると、百音は大量生産した草の塊を放り投げた。塊は空中で霧散して消えた。百音には八雲に会いたいということしか話していなかったので、ここまで話したのは初めてだ。



 「うん。まだお礼も言えてなくて…。」



 せめてお礼だけでも伝えられればいいのに。この訓練所にいる間に接点はないものだろうか。八雲隊長に追いつくまで、彼には会えないままなんだろうか。追いつくなんて何年かかることやら。そんなことを考えて思わず苦笑が溢れた。



 「早く会えるといいな! 八雲さんに!」

 「うん。」

 「寮にいる間に会えそうじゃない!? あの寮のすぐ裏って、守護団の人たちの隊舎にもなってるし!」

 「どこにいるのか全く分からないわけじゃないし、やりようはあるかもしれないね。」

 「本当だ…。」



 どうして今まで思いつかなかったんだろう。八雲隊長に会える。それだけで心が晴れやかになっていく。どうしようもなく、ただ会いたい。



 「げぇ。隊舎の前で待ち伏せでもすんのか? ストーカーかよ。」



 聖は苦虫を噛み潰したような顔をした。聖の言うことも一理ある。八雲は私のことなんて覚えていないかもしれない。いや…、そもそも私が彼にこんなにこだわるのは前世の記憶があるからだ。今の八雲と私は赤の他人なんだ。晴れやかになった心が急降下した。それはきっと欠片も隠せていないだろう。



 「ちょっと、アンタなんてこと言うのよ!」

 「そうだぞ聖! さすがにひでーぞ!」

 「何だよ、本当のことだろ。」



 青が三人を宥めてくれてその場は収まった。その日の演習は途中で降り出したにわか雨によって切り上げとなった。

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