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魔法演習

 演習場に出ると、爽やかな青空が広がっていた。今日は天気がとても良い。春の風が心地良くて、日向ぼっこにはちょうど良さそうだ。



「今日は魔法演習だ!」



 心なしか進先生が少し楽しそうに見える。先生は座学より演習の方が好きなんだろうか。



「初めての魔法演習だから、今日のところは発現練習だ。魔法の中では基礎中の基礎だが、かなり苦労すると思う。」



 先生は顔を少し曇らせた。言いたいことが手に取るように分かる。それは恐らく皆も同じだろう。

 私たちは生まれた時から体内に魔力を持っている。これに精神エネルギーと身体エネルギーを組み合わせることで発現することができる……という理論なのだが、そもそも生まれた時から体内にあるものを意識することが難しい。こればかりは根気の話だ。



「だが同時に、今日の演習は自分の得意属性を知る手掛かりにもなる。属性は覚えてるか? 飛鳥。」

「火、水、草、土……と…、風!」

「そうだ。訓練を積めばコントロールできるようになるが、最初は無理だからな。無意識に発現された属性が得意属性というわけだ。」

「得意属性って一個なのか!?」

「良い質問だ、飛鳥。基本の得意属性は一つだ。だが、訓練次第で増やすことが可能だ。守護団所属の人間になってくると、複数なんてのはザラだ!」

「すげぇー!」



 ぼんやりと手のひらを見つめると、沸々と魔力を感じ取れた。前世での得意属性は水と草だった。基本は水の方だったから、今日は水が出るんだろうな。……とはいえ、上手いことやらないとまた睨まれてしまう。



「今から手本を見せる!」



 進先生は片手のひらを上に向けて、前に突き出した。



「体内の魔力を感じたら、そこに精神エネルギーと身体エネルギーを組み合わせて…」



 次の瞬間、先生の手のひらの上に、手のひら程の大きさの土の塊が出現した。皆から驚嘆が上がった。



「俺の得意属性は土だ。魔法は戦いにも使えるが、日常生活にも使える。さぁ、次は皆の番だ! 理論は昨日授業で教えた通りだ。暴発すると悪いから、距離を空けて各々やってみろ!」



 各々立ち上がると演習場に散らばっていく。私たちも周りと少し距離を取って取り組み始めた。



「これ難しすぎねぇ!?」



 飛鳥は顔を真っ赤にしながら手のひらに力を込めていた。力の入れすぎで指が強張っている。



「難しいね…。魔力なんて感じたことないもんなぁ。」



 青も自分の手のひらを見つめて苦笑している。かなり苦戦しているように見えるが、これが普通なのだ。最初の発現に限っては、努力というよりセンスだろう。その隣で聖も怖い顔をしながら手のひらを睨んでいた。



「百音はどう?」



 私と同様に三人を眺めていた百音に問うと、百音は誇らしげに笑った。



「実は私、できるの! 兄貴に教えてもらったんだ〜!」



 そう言うと百音は手のひらを突き出し、サッと草の塊を作ってみせた。発現の速さも、塊の大きさも申し分ない。すごい。三人からも驚きの声が上がった。



「百音、すごいね!」

「すっごく練習したけどね! これだけしかできないけど。」

「でも大変だったでしょ、すごいよ。」

「私、守護団に入りたいからさ! 魔法は頑張ってるの!」



 この歳でこれだけできれば十分だろう。百音は恐らくセンスが良いんだ。これはちゃんと鍛えればいい使い手になる。



「それにはお前、基礎練習もやらねぇと無理だぞ。」

「知ってますー! でもやる気出なくて…。」

「なんでだ!? ちなみに俺は総隊長になりてぇから頑張るぞ!」

「なんで総隊長!? 国のトップよ!?」

「なんかカッケェから!」



 そう笑う飛鳥の笑顔が眩しい。


 この国の運営を担う組織、守護団。月の国には国王がいるが、実質的な長は守護団のトップである総隊長だ。総隊長はつまるところ、最強の戦士なのだ。何に於いても秀でた存在。それに憧れるのは、至極当然のことだ。



「皆志が高くてすごいね。僕とは大違いだ。」

「青は守護団興味ねぇのか。」

「僕は、戦いとかあんまり…。」

「……確かに向いてなさそうだな、お前は。」



 聖の苦笑に少し影を感じた。あれは何か強い決意を秘めている人間の表情だ。



「聖も守護団に入りたいの?」

「うるせぇ。お前もさっさとやれ。」



 少し勇気を出して訊いてみたものの、ばっさりと切られてしまった。やはり嫌われているような気がする。私、聖に何かしてしまったんだろうか。



「真白は!? 守護団入んのか!?」



 すぐに空気を変えてくれた飛鳥にホッとする。本当に飛鳥には助けられている。



「うん。会いたい人がいるの。」

「八雲さんでしょ!? 私も見てみた〜い!」

「八雲って、あの(・・)八雲さん?」

「青、知ってるの?」

「知ってるも何も、かなりの有名人だよ。」

「そうなんだ…。」



 まさか八雲が有名だなんて、考えたこともなかった。前世では内部の人間だったので、外聞がどうかまでは知らなかったのだ。だが考えてみればそれもそのはず、八雲はエリート部隊の所属だった。名前が知られていても不思議はない。



「でもなんで八雲なんだ!?」

「……私、八雲さんに助けてもらったの。」



 前世でももちろん助けられてばかりだった。けれど今世でもすでに、彼には助けられている。それはまだ死の直後、目覚めてすぐのことだった。


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