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夏季休暇 -5

「なるほどな、そういう話か!」



 説明を終えると、苦笑した飛鳥はいつの間にか木陰で眠ってしまった百音と弟くんに視線を向けた。



「うちは父ちゃん事故で死んでいねぇから、親が揃ってる家よりは八雲さんの言う生きる確率を上げるための選択っての、よく分かるな!」

「随分小難しいことを考えてるんだね、最近の子達は。」



 そう言って豪さんは苦笑した。儀式は夕方に行うらしく、彼のおさげは健在だ。



「いや、いいことだとは思うんだけど。何も考えずに伸び伸び生きて欲しいっていう、大人のエゴもありません? ねぇ、八雲さん。」

「そうなんだよねぇ。守護団に入るならそれは到底無理なんだけどさ。10歳でこんな風に考えちゃう環境がね、素晴らしいけど複雑だよね。」



 豪と八雲は苦笑しながらそっと視線を俯かせた。



「豪さんは八雲さんの同僚って聞いてたんですけど、後輩ですか?」



 豪の口調が不思議でそう問うと、「うん、そうだよ」と教えてくれた。



「学年的には八雲さんの方が一つ上なんだ。だから厳密には先輩後輩。七、八年も一緒にいると一年くらいあんまり関係なくなってくるけどね。」

「へぇ…!」

「あともうふた(・・)……一人、年が近いのがいてね。きっと真白ちゃんの教育担当になると思うよ。」



 豪は途中、一瞬口を噤んだ。間違いなく『二人』と言いかけていた。……亡くなったんだろうか。だとして、それは少なくとも豪と八雲の間では禁句ということだろうか。私はそれに気づかないフリをして笑った。



「楽しみです。」

「僕らも持ち回りで担当するからね。バシバシ鍛えるよ!」

「頼もしいね〜、そういうのはお前が一番似合うよ。」

「八雲さんはすぐそうやって怠けるんですから!」

「適材適所ってね。」



 これはある意味珍しい組み合わせかもしれない。飄々とした八雲と、熱血漢の豪。まるで水と炎だ。だが見た感じ、魔力なんかを総合すると八雲の方が強いのが分かる。八雲って、すごいんだな…。



「八雲さんってかっけー! 俺も八雲さんみたいになりてぇ!」

「おっ。」

「えっ。」



 目を輝かせる飛鳥に、喜んだのはもちろん八雲本人だ。それに対して止めておけと言わんばかりの声を発したのは豪と聖だ。



「なんか、大人の余裕って感じ!? かっけー!」

「分かってるじゃん君、飛鳥くんだっけ? 頑張んなさいよ。」

「とりあえず猫背っすかね!」

「あ〜……、俺のどこがかっこいい?」

「怠そうな感じ!」

「ふ〜ん…。」



 八雲は瞬時に喜びをその表情から消すと、コソコソと寄って来て背後で少し凹んでいた。



「俺ってどう見えてるわけ…?」



 一部始終を見ていた豪と聖は大喜びして、飛鳥の背中をバシバシと叩いていた。



「八雲さんのかっこいいところは、経験に基づく自分の考えをきちんと持っているところと、それを鼻にかけないところ、ですよね。」

「青くんだっけ? ここにこんないい子がいるとはっ…! 俺君大好き。」

「はは、ありがとうございます。」



 青はサラリと交わすと、昼寝中の百音と弟くんの様子を見に行った。皆を見回して、八雲は肩の力をふっと緩めて笑った。



「本当、いい友達がたくさんできたな。」

「はい。」

「これからが楽しみだね、こりゃ。」

「ふふ。期待に応えられるよう頑張ります。」



 それから少し陽が落ちた頃、儀式が始まった。広場のステージ上に設置された椅子に豪が座っていた。その前に立った女性がリボンと豪華な装飾のハサミを持っている。恐らく豪の母親だろう。一緒にステージ上にいる男性は恐らく父親だ。いつの間にか広場は人だかりになっていた。皆が見守る中、豪の母親はおさげの根元をリボンで結ぶと、持っていたハサミでその真上を切った。



「こんなに長くなるまで…、無事に育ってくれてありがとう。」



 豪の母親は涙ぐみながら、おさげをそっと胸に抱いた。豪は優しく笑って言った。



「ここまで育ててくれてありがとう。」



 見守っていた豪の父親が歩み寄ると、三人はその場で互いを抱き締め合った。わっと広場中から拍手が起こると、三人は嬉しそうに笑った。

 手を叩きながらステージを見上げていると、鼻がツンと痛んだ。素敵な光景。自分にはない光景。羨ましくないと言えば嘘になる。けれどそれ以上に、この光景が当たり前になって欲しい。そう心から思った。

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