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実践演習 -2

「待って。」



 声をかけると、飛鳥と青はすぐに動きを止めた。



「誰かいる。」

「誰か!? なんで分かんだ!?」

「匂いがする。」



 声をひそめながらその匂いを辿る。その先にいたのは他チームの女の子だった。



「化粧品とかに含まれてる香料の匂いみたい。」

「真白、鼻いいね…。僕分からないや。」

「俺も!」



 大した強さじゃない。だけど戦場では命取りだ。その感覚に肌がピリピリする。これは戦場で戦ってきた経験に基づく本能的なものだろう。



「他の二人も近くにいるよな! リボン貰うぞ!」

「うん。」

「そうだね。」



 正直、体術も武器も使わず魔法だけで彼らの動きを封じるのは簡単だ。だけど、属性制限を受けている手前そんなことをしてもいいものか…。例えばロープ状の水で手を拘束してもいい。水の塊で顔を覆ってしまえば呼吸を奪い、気絶させることも容易だ。だけど、それに抵抗する術を持たない相手にそれは卑怯な気もする…。

 モヤモヤと考えている間に青は女の子を素早く組み伏せた。次の瞬間、女の子のチームの残り二人が飛び出してきた。私と飛鳥でそれを組み伏せる。三人の手を持っていたロープで拘束すると、リボンを三本回収して後退した。



「やったな!」

「訓練の賜物だね。」



 青も飛鳥も見事な体術だった。飛鳥はただ嬉しそうだったが、青は険しい表情で私を見ていた。



「真白、さっき躊躇したでしょ。」

「…うん。」

「例えこれが実戦でも?」



 一瞬俯いた顔を慌てて上げると、青の表情はやはり険しかった。



「実戦のとき、相手の力量なんて分からないよね。分かっても互角なんてまずあり得ないと思う。そういうときでも、同じように躊躇するの?」

「っ…。」



 私は思わず俯いた。青の言う通りだ。



「え!? 何!?」

「さっき真白は、相手より自分の方が明らかに強いからって本領を出すのを躊躇ったんだよ。」

「あー! なるほどなぁ…!」

「練習でできないことは本番でもできないよ。」



 青は柔らかく笑うとそう言いながらリボンを閉まった。どこかで少し休もうという青の提案で、木陰に腰を落ち着けた。



「考えたんだけどさ! 真白は本気でやっていいと思う!」



 不意に飛鳥が声を上げた。それを考えてくれていたのか。飛鳥は眉間に皺を寄せつつ言葉を続けた。



「確かに今の俺たちじゃ全然相手になんなくて、真白の一人勝ちが続くと思う! だけど、負けっぱなしでいい奴ばっかじゃねーと思う! 真白に勝てるくらい頑張れたら、俺ら超強くなれんじゃん!」

「僕もそう思う。先を歩いてる真白に追いつきたくて頑張るって、分かりやすくていいよね。」



 飛鳥に続いて青もそう笑った。



「そして俺は総隊長になるんだ!」

「ふふ、そうだった。ありがとう、二人とも。」



 お礼を言うと二人は一つ頷いた。



「さて、今の持ち点は12点。点を稼ぐもよし、守るもよし。どうする?」

「稼ぐ! 真白が本気出したら何点稼げるんだろーな!?」

「あはは、確かにそれを検証するのもいいかも。」

「えぇ…。それはさすがに気が引ける…。」

「冗談だよ。」



 それから私たちは何本かリボンを回収した後、日が暮れる前には食べ物を調達しつつ拠点に戻った。道中木の実や果実、うさぎを捕まえた。他チームに居場所がバレる危険性はあったものの、演習だからと開き直って夕飯の支度を済ませた。



「水属性と火属性の魔法が使えると便利だね。僕は役に立たなくて申し訳ないなぁ…。」

「そんなことないよ。寝床の壁作りは青のおかげだよ。」



 スープを啜りながらそう言うと、青は安心したように笑った。草属性魔法があれば野菜なんかも作り出せるのに。それでいくと風属性は野営ではあまり役立たないが、一番攻撃力が高いのは風属性魔法だ。火と水のサポートもできるし、使えない属性の魔法なんてない。



「なんでお前らそんな普通なんだよ!」



 青と和やかに話していると、飛鳥が少し泣きそうな顔で言った。見れば飛鳥はまだスープに手をつけていない。肉も入って、味付けも持っていた調味料でしたから不味いことはないと思うのだが。



「どうしたの…?」

「……俺、あんな風にうさぎ殺すの初めて見たんだ…。」

「あ…。」

「そのショックを受けてたのか…。気づかなくてごめん、飛鳥。」

「いや…。」



 国内での貧富の差というのはどうしてもあるもので、それは地域性にもよるものなのだが、青は慣れた様子で捌いていたが飛鳥はダメだったようだ。明らかにションボリしている。



「二人は、平気なのか…?」



 私と青は一瞬目を見合わせ、そして苦笑した。



「僕の家では自給自足が当たり前でね。農業や酪農をやってるものだから、それが当たり前の環境で育ったんだ。」

「私は純粋に抵抗があんまりない…かな。」



 戦地で散々捌いてきたというわけにはいかないので、苦し紛れの言い訳になってしまった。村での生活の記憶がないというのもなかなか不便だ。



「俺、肉は肉屋で売ってるのしか見たことなかった。もちろん知ってはいたけど…!」

「育った環境次第ではそうだと思う。でも守護団でやってくとなると、必然的に切っては切れない問題だね。」

「干し肉だけで持てばもちろん問題ないけど、そうもいかないときもあるだろうし…。青の言う通りかな…。」



 飛鳥はぐっと詰まった後、やはりションボリと下を向いてしまった。


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