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放浪の始まり 07 異質

四男のナルフトは、北の砦の近くに設けられたテントの中にいた。

間も無く日が沈む。

今日では無いのか?

そこへ、砦から戦士がやって来た。

「ナルフト様!

アジャイと名乗るアスアッドの、王家の者が面会を求めております」

そう言って来た。

「そうか、本当に来たか?」

「本当に?」

「あぁ、こっちの事だ。

ここへ通してくれ。何人のファスタバを連れて来た?」

「一人です。3歳くらいの娘で足を怪我しています」

「そうか、それなら、こちらで診よう。

一緒に連れて来てくれ」


「オルルト!」

「はい」

「聞いた通りだ」

「あの声が言ったように、本当に現れましたね。ナルフト様」

「アジャイ。

アスラッドの、継承権を捨てるか・・・・・」

後にドラウドと名を変えるナルフトは、アジャイとソフアを先に暖かい湯に入れた。

海風にさらされながら飛んで来たのだ。

もう、体が冷え切っていた。


ファスタバの女達が、ソフアを湯に入れ脚を診る。

状態は・・・・・芳しくない。

右足首から下の腱が切れている。

他にも、青い痣・・・・虐待?

コレでは・・・・・助からない。

血管も傷んでいる。

脚を切るしか無いが、ここでは・・・・・

誰もがそう思った時に、湯浴みのテントの時が止まる。

『そう言うわけには、いかないんだよ。

この娘には、変革をもたらす息子を産んでもらわないと・・・・・』

光が現れて何者かが、娘の足だけでは無く全身を撫で回す。

『ふ〜む。

足首は治しておこう。

少し成長具合も悪いな。

ここの女達に、どのヤギが良いか教えておくか』

『相変わらず面倒見が良いな?』

『仕方ないだろう?

もう、戦いのステージは終わらせておきたいんだ。

お前だって、ここの知的生命体にアプデの竜人の能力を移植する為に学園を作ったじゃ無いか?』

『良いじゃ無いか? このファスタバだけじゃ宇宙に飛び出せ無い。そうだろう?』

『ちょっとしたスパイスか?』

『そうさ、ちょっとした味の変化が楽しいのさ』

光の中から出て来ずに、中から手だけを出して全てを終わらせた。

何者か達は、この光景を俯瞰した映像をソフアに残しておいた。


光が消え。

ファスタバの女達は驚く。

「足が、治っている!」

「オルルト様!」

状況を聞いたオルルト。

「わかった。

もうじき、目を覚ますだろう。

替えの衣服を用意した。

着替えさせてヤギの乳を温めて、パン粥を準備しておいてくれ。

少し塩を、入れておく様に」

「はい。

それでしたら一番良い乳を出すヤギの乳を貰います」

「あぁ、それが良い。

そのヤギは、アジャイ様に渡すか?」



アジャイは、別の風呂に入りナルフトの前に出た。

衣服は、何故か自分の物だった。

(寮監が、四男坊に送ると言ったな)

「アジャイ。四男坊だ。ナルフトと言う」

「すみません。

緑の寮監から『名前は変わるから、ただ四男坊に会え』

とだけ言われたのですから」

「緑の寮監か・・・・・

そう言われても、姿を思い出せんな。

アジャイはどうだ?」

「はい。共に学んだ者達の姿、顔、声や学園で学んだ事や出来事は鮮明に覚えています。

ですが、一番指導を受けた寮監や数々の講師の姿は思い出せません。

背中の肩甲骨が飛び出して来たのも、尻尾も生えて背骨の先が飛び出したのを触って知った時は飛び上がりました」


「あはは、そうだな。

尾骨が触れるから座るのに苦労をするようになった。

学園。

あそこは、不思議な場所だ。

いや、この世界も異常なんだろう。

寮監は何と言った?」

「私とナルフト様が、この世を変えると・・・・・」

「そうか、やはりそう言ったのか!

実はな、私は、今朝ここには居なかった。

今頃、王城は大騒ぎだろう。

部屋にいるはずの私とオルルトが、消えたのだからな。

王城には北の砦に居ると、知らせを行かせているが、まさか、学園から帰って来たばかりのアスラッドの第三王子が訪ねて来ているとは・・・・・・だが、ドラーザなら何者がやっているかは気付いただろう」

「学園。あそこの者達は何者ですか?」

「解らん。

だが、3年でファスタバと、ほぼ変わらぬ私達の身体をドラーザに変えて、この世の知識を平等に与える。

お陰で、農業、漁業、畜産に工業も発達したが、どうにも腑に落ちない」

「知っている事が、多すぎる事ですね」

「あぁ、ファスタバには

『太陽の周りを、この星が回っている。

この大地は、巨大な球の一部分だ』

と言っても理解できていない。

だが、ドラーザは知っている。

何故か? 学園で教えられているからだ。

では、その知識は?

教官達は、何故知っている?

謎なんだよ。

それに、コイツだ」

「あぁ、それは!」

「そう、お前の荷物だ。それにコレ!」

「コレは?」

「ソフア用に準備したそうだ。靴と下着に衣服。

他にも、ソフアが読む本もある。

ファスタバの世界には無い。

ドラーザ用でもない。

面白い本だ。硬い紙質で、オルルト。

私付きの女官が、目を通している」

「ですが、あの娘は歩く事が・・・・・

それどころか命も・・・・・」

「足の腱が切れている事か?」

「えぇ、砦で兵士が『足首を落とすならやってやる』と言っていました」

「その必要は無い。

腱は繋がり腫れも引いて、健康体そのものになった」

「何故? 何があったんですか?ソフアに!」

「私が治したと言いたいが、私が習った医術ではそうは行かない。

湯殿に教官が、現れて治したんだろう。

王城に現れた声は、緑の寮監だったよ」

「あぁ、ありがとうございます」

アジャイは、ソフアの服を抱きしめた。

「では、やはり全ては学園の手助け?

ソフアを守るのが私の役目?」

「だろうな。

変革を与えるか・・・・・・

悪巧みの間違いでなければ良いが。

しかし、お前の鱗も王の証だな?」

「はい。ですが寮監から

「胸の鱗は、絵の具を使ってくすませろ!四男坊がやっていた事だ!」

そう言い聞かされました」

「そうか、やはりか・・・・・

コレを見るが良い!」

ナルフトは、胸を見せた。

大きく深い紺。

厚い金の縁取り。

アジャイの物とは比べ物にならない。

「コレは・・・・・!」

「成長の証らしいな。

それにな、限られた者にしか見せていないが・・・・」

ナルフトは、左手を鱗に添えて右手を前に突き出した。

そして、その腕を持ち上げた。

浮き上がるアジャイ。

膝を突いていたが、足と膝の下に板があって、それが持ち上がっている。

そんな感じだ。

「こんな事が!」

すぐに降ろされたが、アジャイには解った。

新たな力。

それを得た者の、鱗が濃くなる。

「それでは、私にもできるのでしょうか?」

「人前では試すな。見られたら大変だ。特にここは戦地だ」

そこへ、ファスタバの女に抱かれたソフアがやって来た。

ソフアは、女の腕を振り解くとアジャイが拡げた腕の中に飛び込んだ。

「アジャイ!アジャイ!」

「あぁ、足が動く様になったんだな?

髪も、こんな色だったんだ」

しがみついて離れない。

灰色の髪の娘。

「炭で隠す様にしていた様です。

雨でも降られたら大変でしたよ。

目に入ったら痛いですから」

「アジャイ。

その子を連れてこっちへ来い。

ここの、ソファにかけろ。

今夜は悪いがここで寝てくれ、厠は裏にある。

井戸もな。

コレは、今我が国で作っている菓子と果物だ。

先にアジャイが、食べなければ娘が手を出せない。

・・・・・・そうでも無い様だな?」

ソフアは、ミルク粥を食べたばかりなのに果物に手を出していた。

「美味しそうですね?」

「あはは、コレは、こっちの果物だ。

暖かい地区でないと取れない。

蜜柑だ」

「そうですね。

野にある蜜柑ではなく、少し品種改良したんですね」

「やはり、お前も緑の学園派か?」

「えぇ、王家の立ち振る舞いとかダンスとかは馴染めませんでした。

婚約者も亡くなりましたし」

「あぁ、うちに逃げ込んで来たファスタバから聞いた。

残念だったな。

ファスタバを逃す為に、追手の前で川に飛び込んだ」

アジャイが、知らなかった事だ。

「どうしてそれを?」

「言ったろう。逃げて来たファスタバだよ」

「でも追手は、居ないはずじゃ?

闇夜で、ドラーザは居なかったはず」

「裏切り者が居たんだよ。

農奴の中にな。

実際、その一人が夜を徹して駆けて、近くの領地に駆け込んで急を知らせたんだ。

それで、裏切り者のファスタバを使って脱走者狩りをした。

夜は安全と思っていたファスタバとファスラーザの親子は真っ先に捕まった。

屋敷の中にいて、裏切り者の存在を知らなかった。

だから、後を追って来た裏切り者を迎え入れてしまった。

あとは言うまい。

君の婚約者は、自分の価値を知っていた。

だから、川に飛び込んだ。

裏切り者は、農奴を追うかドラーザの領主の娘を助けるかで悩んで、娘を助けようとしたんだ。

だけど、娘は溺れた」

(助け上げられて、その姿に興奮したファスタバとファスラーザに、慰み者にされて突き落とされた。なんて言えないからな)


ソフアが、アジャイの手を握る。

(アジャイ!元気を出して!私は一緒についていく!ダメ!声を出さないで!頭で考えて!)

(解るのか!ソフア?)

(こうして、手を握っていたら解る。二人っきりになろう)


「大丈夫か?アジャイ?知らない事だったのか?」

「えぇ、私も柩に入った姿しか見ていませんから・・・・でも、ある意味幸せかもしれません。

成人していたら、鱗を剥がれて胸に穴を開けられて埋められていたでしょうから」

「そうだな」

「ふぁ〜 アジャイ!抱っこ」

「いかんいかん。眠らせよう。それでは、明日の朝、また話すとするか?」

「済みません。ナルフト様」

「良い良い。しかし、成人と同時に子持ちとは・・・・羨ましいな」

「おやすみなさい。ナルフト様」

「良い子だな。ソフア。おやすみ。それではな。何かあれば、ファスタバが隣にいる。

声を出せば、駆けつけてくれる。優秀なファスタバで心配いらない。

ではまた明日」

「おやすみなさいませ」


ソファにスツールと、他の椅子を突き合わさせてベッドにした。

腕枕で抱き合う二人。

(アジャイ。お父さん達は殺されたんだね?)

(済まない。私が弱いばかりに)

(ううん。教えて貰っていたから大丈夫)

(教えて貰っていた? 声が聞こえたのか?)

(そう。船が流され始めた時に、その時から時々時間が止まった様になって、周りの風景やお父さん達が動かなくなるの)

(寮監だな!)

(寮監?)

(いや何でもない?しかし、お前は三歳児の知識じゃないな?)

(『ドラーザの学園の知識を与える』そう言われた)

(あの野郎!)

(続けるよ?大丈夫?)

(あぁ、済まない)

(何度も、時が止まる度に色んな知識が入って来た。ドラーザの事やアジャイの事もそして、婚約者の事)

(メルビアの事?)

(そう。メルビア。彼女が第一后になって、私は、お妾さんでアジャイの子供を産む計画だった)

(計画!って、お前は三歳児!)

(アジャイだって、成人できてないじゃない!アジャイが大人になれるのは後12年。

子供を産むなら15年待てって!)

(アイツら!こんな小さい子に何を教えているんだ!)

(でも、その中で知ったの。家族とは別れる事になる)

(とに、なんて事をソフアに負わせるんだ!)

(アジャイだって、そうじゃない?アジャイは、もうアスアッドの王子には戻れないわよ?)

(元々、嫌だったんだ。あの家が・・・・・)

(わたしたちを食べることね?)

(あぁ、メルビアも嫌っていた。だから、早く引き取りたかった)

(お母様もファスタバを好まれて居たけど、そのファスタバに永年毒を守られて居たんだからね)

(誰に?)

(領主が手を付けた妾のファスタバよ。一応は彼女の意思だけど、領主が使った裏切り者のファスタバが、彼女にお茶として渡していた。ユカトリスの葉よ。ドラーザには美味しいけど、ファスタバには飲む気になれない味よ)

(どんな味?)

(知らないわ。あなたには毒よ!飲ませたりしないわ!)

(あぁ、解った。もう、妻の迫力だな!)

(えへへ)

(しかし、お前大丈夫か?)

(家族の事? 父さんだけかな。亡くなって悲しいのは・・・・・・)

(何があった?)

(髪の色。この灰色の髪が薄気味悪いって言われたの。お母さんや兄さん、姉さん達もそうよ)

(私も初めて見たよ)

(そうよね。私が産まれて不運続きだった。漁は上手くいかなかったし、あの船を設計したけど誰も相手にしてくれなかった。風の力を利用してより高速で物を運べる。って言っても誰も信じてくれなかった。だから家族であの船を作り上げたの。初めての航海よ)

(あぁ、学園で習ったよ。今、東の島でファスタバが挑戦しているって、設計図まで見せてくれたけど、多分失敗するって言っていた)

(そう、あの光の主達は知っていたんだ)

(そうなるな)

(出港後、夜になるから岸に付けて休もうとしたのね。

ところが、暗礁に乗り上げて舵が壊れた。後は流されるだけ・・・・・)

(そうか・・・・・)

(光の主達は言ったわ。『海図も無いのに、コンパスも無いのに無謀』だってね)

(それは、そうだな。でもコンパスなんてこの世界には無いぞ・・・・・アレ?なんで俺は知っている?)

(光の主のせいじゃ無い? どちらにしろ、船は行き先を見失って母が怒り始めた)

(怒っても仕方ないじゃ無いか?準備不足は、自分達のせいだろう?)

(八つ当たりよ。殴られた。それだけじゃ無い。足首を掴んで船倉に叩きつけられた)

(それで!足の腱が切れたのか!)

(光の主も言っていた。『普通、それくらいじゃ切れないのに・・・・身体に捻りがかかったのか!』って怒っていた。ありがとう。抱きしめてくれて・・・・・肩甲骨。確かに出ているわね?)

(冷静だな。そうか、虐められていたか・・・・・僕と一緒だね?)

(メルビアもアジャイも、私も家族からは異質だったのね)

(異質じゃ無いと変革は齎せないか・・・・・・)

(それ、あの光の主も言っていたわ。だから、アジャイと結ばれろって・・・・御免なさい。眠くなって来た抱きしめて寝てくれる?)

(あぁ、良いよ)

(これからもお願い。私、お父さんだけだった。物心ついた時にはお父さんだけが抱きしめてくれた。お乳だって近所のおばちゃんからもらい乳して生き延びたわ)

(俺は、ファスタバの乳母の乳だったらしい)

(私は、私のお乳で育てるわ)

(三歳児の会話じゃ無いな・・・・)

(・・・・・・・)

(ソフア・・・・・おやすみ)


こうしてアジャイ20歳、ソフア3歳の奇妙な生活が始まった。

まぁ、ありきたりで済みません。

紫の君は、光源氏が好みに育て上げますが今回は逆です。

はい。

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