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放浪の始まり 03 温泉

南へと逃げるファスタバを守る様に、前後を固めるドラウド達。

その間にも様々な土地で、ファスタバの民と話をして互いの知識を交換した。

その時に集めた知識が役に立つ。

そして、()()()()()()()()()()も有効に使う。


「小麦は、北の地の物が収穫量も多く雨風に強い。

これを使って、この地を豊かにしよう。

それと、鍾乳洞が有れば石灰岩が採れる。

これを砕いて一度焼くんだ!

麦の収穫の後にやろう。

燃える黒い石が出る島も見つけた。

西の国でやっていた方法だ。

この粉を捏ねて、壁の隙間や土台の岩の隙間に土に代わって押し込むんだ。

そうすれば乾いて土より強固な壁や土台になる。

水路の下に流し込んでも良い。

水路を作る時には、こうした管に水を入れて二つの桶を使って傾きを決めるんだ。

水は必ず高い方から低い方に流れる。

決められた傾きで水路を作るんだ。

途中の砂を貯める場所には桶を沈めて置けば砂を定期的に抜ける。

又、改良すれば良い。

小魚の隠れ家と大雨の時に水を逃す溜池を作ろう。

ここから、乾季になれば水を畑に送れる」

アジャイは学んだ知識を、惜しげもなくファスタバに伝える。

ドラウド達は更に改良する。

旅をして来ただけでは無い。

農業や漁網の改良。

それこそ、今までは、ただ自然の恵みと気まぐれに悩んでいたイドスの街の周辺と、海辺の村を豊かにしていくようにドラウドはファスタバ達に手を貸した。


「南には、もう、多くの私の考えに賛同してくれた者達がファスタバと暮らし始めている。

私が定めた法を守り、君らを守っている」

「では、ドラウド様は、何故この地を選ばれた?」

「この地が、海の向こうの国 アスアッドと近い事。

そして何よりアスアッドの連中が、私らの宿敵である事だ。

だから私は、この地を守る場所だと定めて、ここに住む事にした」

「それは、複雑な気持ちになりますな」

「我々がいるから海の向こうの連中は、ここから上陸しようとする。

だが、我らがいなければ、この街は蹂躙され死の街になる。

いつまでも、鍾乳洞に篭っている訳にはいかないからな?」

「成程、私達はドラウド様達を受け入れるしか無いのですね?」

「済まんな。(おさ)

「いいえ。ようこそドラウド様。イドスの民は貴方を歓迎しますよ」


ドラーザは長寿で有り、竜人の姿でなくてもファスタバよりも強者だ。

食料の消費が、ドラーザの姿をしている方が多い。

それに、カトラリー(食器)を上手く使えない手になるので、手掴みで食事をするし、牙のせいでスープも飲み辛い。

大口を開けて上を向き、ジョッキに入れたワインを流し込むか、皿を舐める事になる。

こぼれ落ちた食べこぼしや、口を垂れる汁が嫌でドラウドや、その周辺の者はファスタバ(幼体)の姿で居ようとする。

だが、中にはそれを楽しむ者もいた。

ドラーザの姿で一日を過ごし、夕方に灯りを煌々と点けた部屋で大皿に載った生肉を手掴みで喰い、酒をジョッキで大口を開けて流し込む。

垂れた酒や、汁はデッカい布を使って拭って捨てる。

酒宴を終えたらファスタバに片付けさせる。

かつての、ドラーザの生活。

それを懐かしんでいる。


島の周囲を警戒して飛び回るドラウドの戦士は、皮で作った水袋を使い、肉と野菜を丸めて焼いだ物をパンに挟んで食べる。


ファスタバを奴隷として扱い、その収穫をむしり取る。

それが、ドラーザの本来の姿。

より多くのファスタバと領地を得る為に、ドラーザ同士で戦い、相手の領地とファスタバを強奪する。


だが、それではいつかは行き詰ってしまう。

それを、知っているドラウドの祖父と父は、多くのファスタバを守りながら侵略者(アスアッド)から逃げた。

そして、やっと定住したのが大陸の南の果て。

ファスタバの数も少なく、農耕も出来ずにファスタバと共に逃げ回った一族には、これ以上ファスタバを減らすわけにはいかなかった。

聡明な祖父は、ドラーザに厳格な法を作成し領地となった大陸の南端を治め始めた。

そして、この地に安寧な日々が訪れた。


だが月日が経ち、祖父と同じ名を引き継ぐドラウドが祖父と父母、兄達から離れて東の島へ移り住む。

だが、ドラウドは、この島国の安全性を高める為に北の地へ移動して来た。

大陸の南は、今後もドラウドの兄達が治めるだろう。

そちらから、アスアッドが侵攻しては来ない。


新しい領地を求めて、この島へ渡って来た。

聞こえは良いが、鱗を抜かれるか、死を告げられるかの瀬戸際だった。

ドラウドの名を与えたのは、祖父が兄達へ与えた無言の諌め。

末弟であるドラウドを攻めるのは、この地を納めたこの私への叛逆と同じ。

そう、指し示した。


転機が来たのは、息子のドラウナが17歳からの3年、親元を離れて帰って来てからだ。

どんなに優秀でも、地方の領主が関の山の四男坊。

その四男坊の長男の胸の鱗が、三人の兄達の息子達よりも濃くなって帰って来た。

王の証。

この時には長兄が王太子に指名されて胸の鱗も濃く、金の縁取りも濃くなっていた。

だが更に、ドラウナの胸の鱗の紺は鮮やかで濃かった。

金の縁取りも厚く豊かになっている。


それまで、片方の肩に掛けるだけの衣装を、両肩に腕を通し首筋まで隠したファスタバの衣装にさせた。

そうでもしなくては、見えてしまう。

胸の鱗。

このままでは、いらぬ疑いを掛けられる。

そう思い一族を率い息子と、その婚約者を連れて仲間を募って命を削って海を渡った。



取り敢えず、家族共々、兄弟の手で殺される心配は無くなった。

ファスタバの姿で翼と尾を仕舞い、ファスタバ達と共に開墾に汗を流す。

それでも、力が必要な時にはドラーザの姿を取って更に汗を流す。


海辺にはこうして、一日を働き終えた竜人姿のドラウドと、彼をを頼って来たドラーザが戦士に誘われて、海辺に造られた木の桶に浸かっていた。

この後、更に真水で身体を何度も洗う。

農作業や野営や陸に上がっている間に、鱗の隙間に虫が入り込んだそうだ。

これを、駆除する為だという。

最初は何をしているのか解らずに、戸惑っていた長の息子ロイ口。

戦士に何をしているのか聞いて、思わず吹き出した。


「あはは、ドラウド様。

そのような事をなさらぬとも、良い場所がありますよ」

ドラウドが誘われて行ったのは、山沿いの河原。

「ココですよ」

砂地に穴が掘って有り、湯気が立ち上がっていた。

ファスタバの者達が、そこに浸かり川の水を引き込んで湯の温度を調整している。

「これは、暖かい湯が湧き出ているのか?」

「はい私達も、ここに、こうして湯に浸かりに来るのです。

この湯には、恐らくドラーザの方々を悩ませる虫を追い出す効果があると思います。

私たちの祖先が、この砂地で寒い中でも砂浴びをする鳥がいる事を不思議に思っていたのです。

砂浴びをする鳥が、湯煙に包まれるから暖かいお湯が湧き出ていると知ったのですよ」

「少し臭うな?」

「ドラウド様は、煙を上げる山を見ておられませんか? ここからでは見えませんが、この川の上流にあります」

「あぁ、あの山の臭いだ!

そうか、あの火の山の地下を流れて来た地下水が、こうして、ここに出て来ているのか!」

「火の山? ドラウド様は、あの山の真上を飛ばれたのですか!」

「あぁ、不思議に思ってな!一番底に炎が見えたぞ!」

ロイ口は慌てた。

「今後は、お気をつけ下さい。

近づく時は、風下からお願いします。

時には、あの上を飛んだ鳥が落ちて死んでおります。

あの煙は、多くを吸い込みますと命に関わるようです。

私の家に、あの山で旅人が亡くなったとの言い伝えがあります。

この河原も、横の林を切り倒して風が抜ける様にしています。


「そうか、それは危なかったな。

皆にも近づかない様に伝えておこう。

それでは、わしも湯に浸かってみても良いか?」

「大丈夫でしょうか?」

「元々、ファスタバの身体だ。

ぬるめの穴から順に入っていこう」

こうして、川の温泉を使い喜ぶドラウド。

妻のマルードや若い側室のロイヒを誘っては湯を楽しむ。

戦士達がファスタバと協力して河原に、幾つもの建屋を建てた。

その一つは、領主たるドラウドの為に使えるよう、ここで寝泊まりできるようにしたのだ。

ドラウナもやって来たら驚くだろう。

アジャイもその妻ソフアも、子供を連れて帰ってきたら、あの紅カズラの木の袂に住めるように準備をしている。




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