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放浪の始まり 02 ソフア

「ソフアが、言っていたよ。

紅カズラが咲いている家。

違うか?」

「あぁ、あの子の髪飾りを覚えているよ。

赤い糸を使って、髪飾りを編んであげたのは、この私だ。

3歳のお祝いに贈って、それを身につけて船に乗ったんだ。

そこの、造船所で作った初めての帆船だよ。

家族用でも、長い航海ができるようになっていたはずだったんだ。

メキリとメスアの親子が、考えて作り出したんだ。

何度も近くの島へ渡って、大丈夫だと言っていたのに。

海も荒れていなかった。

それなのに、何で?

家も、誰も住んでいないけど跡は残っている。

紅カズラの蔦が絡まった木が有るのは、あの家だけだよ。

メキリ、メスア、ソアレ、ソチエ、ガスエは・・・・・・」

長の妻 センダが震える声で聞いて来た。

「死んでいる」

「やはりか・・・・」

「ソフアの事を知っているのは?」

「多くの者が覚えている。

ソフアの家族は・・・・・もう15年くらい前の話だ」

「話が合うな。

アジャイが、ソフアを助けたのはその時だ。

一家の船は、舵を失ったんだよ。

そして、漂流した。

よりにもよって、アスアッドの一族の領地に・・・・・」

「それじゃあ・・・・・」

「その時、先遣隊にアジャイの兄達と、ドラーザになったばかりアジャイもいた」


沖から小舟が、何かを引きながら帰ってくる。


「アジャイの父親 アスアッド二世は残忍な奴だ。

我々、ドラーザは北の方から進出して来ている。

アスアッド二世になって、その動きが激しくなった。

南は、私の祖父、父が居て侵攻には犠牲が出る。

だから、東西。

特に東の荒野を突っ切って、東へ出て来て遂に、この海の向こうに到達した。

海の向こうからは、こちらの島は見えない。

だから、それで満足していたんだ。

だが、こうしてこの島々へ侵攻してこようとしている。

きっかけは、この時の遭難だ」

「何故!」

「船だよ」

「船?」

「さっきも言ったとおり、ドラーザは泳ぎが下手だ。

だからだ。

最初、漂着した彼らから話を聞いて飛んで渡ろうとした。

だが、陸地が見えなくともうダメだ。

恐怖に襲われる。

戻ることすら出来ないんだ。

一気に方向感覚を無くす。

だから、海岸線を南に向かって渡ってきたいが、そこには私の祖父と父がいる。

海を渡る方法が欲しかったんだ。

詳しくはまた話すが、元々、北の方に住んでいた私の一族と領民のファスタバは、アスアッドに追われて南の果てに住み着いた。

国もドラウドと名乗っている。

私もドラウドと名乗っているが、これは祖父の名前だ。

名前だけを唯一渡されて、この島々の国を守る為にやって来た。

祖父と父もファスタバを、大事に守っている。

これから、この街を守り麦を収穫するのに役に立つ知識を与えるが、全て私の国でやって来た事だ。

先に、君達の麦と野菜を見せて貰った。

頑張ってはいるが、あれでは心許ない。

旱魃(かんばつ)に襲われる事も、しばしばなんだろう?

それを改善しよう。

ソフアとその家族の話は、二人が来てから聞いてくれ。

アジャイは、その場所にいたんだ。

彼が、ソフアを守る為に、命をかけた事を知ってくれ」


そこで、話を打ち切ったのはドラーザの遺体が引き上げられたから。

全部で7体。

元は大陸にいて、ドラーザの殺戮から逃れて来たファスタバの男が説明している。

その話の正確さにドラウドは感心した。

「俺は、こいつらを解剖した事があるんだ。

悪いが、お前さんの身体の事は知っている。

・・・・でも、そうでは無かったな。

背中の肩甲骨の間か・・・・・

成程な。

翼に変形した時に、ここの骨が持ち上がって砕きやすくなるのか!

そして、神経にも衝撃が伝わる」

「解剖したのは、ドラーザだけでは無いな?」

「あぁ、ファスタバも解剖した。

死体には、事欠かなかったからな」

「そうか、では協力してくれ。

この街だけでは無く、島々のファスタバとドラーザの為に、お前の知識を残しておきたい。

絵が上手い奴がいるから、このドラーザを解剖して絵を残してくれ。

きっと役に立つ。

実は、私達も自分の身体ながら、知らない事が多すぎる」

「そうみたいだな。

俺はオーツリー。

お前さんの名前からすると、ケンパルの事は知っているだろう?」

「あぁ、アスアッドに真っ先に侵略された。祖父の友人が治めていた領地だ」

「詳しいな。俺の父親はファスタバながら領主に重用されて医師を務めていた。

だから、ドラーザの事は知っている。

俺は次男坊で、昔から医師になろうとして学んでいた」

「ケンパルは領主が、学術に精通していたからな」

「だからだよ。

真っ先にアスアッド二世に嫌われた。

奴は、ファスタバは奴隷、家畜として扱うそう考えている。

そうだろう?」

「そんな!」

「やはりそうなのか!」

「恐ろしい事だ」

周囲にいたファスタバが息を呑む。

そこへ、一人のドラーザがやって来た。

手に画材を持っている。

「ファスタバの画家から、絵を学びました。

アジャイ様にも、一つの物を色んな方向から見て説明する為の絵の書き方も学びました」

「さっき、言っていた絵が上手いのは、このゴンザ。

宜しく指導してくれ」

並べられた七つの遺体。


ゴンザは戦士ではあるが、ドラーザ同士の戦いは打撃戦になる。

だから、死体は酷いものだ。

互いに目を狙って棍棒で殴り合う。

先に一撃入れた方が勝ちだ。

脳を揺らせたら、気絶する。

そうしたら胸の鱗を抜くのだ。

それだけで、相手はドラーザに戻れない。

ファスタバ同様に扱える。


だが例外が有る。

マルードとロイヒの様に、石突の部分で背中の羽と羽の付け根だけでは無く、正面から肩甲骨と脇の付け根を突き落下させて顔を踏みつける。

そんな戦法ができるのは、俊敏さがなければできるもんじゃ無い。


だが、今回は、海に落としたからどれも綺麗な死体だ。

それが返ってゴンザにはダメージがデカい。

震えるゴンザを、オーツリーは遠慮をせずに指導した。


「良いか? 残りもいずれ浮かび上がってくる。

肺がデカいから、ガスが溜まって上がって来る。

迷惑な話だ。

遺体は、燃やさない。

匂いが嫌だし、何よりも爆発する。

火で燃やして葬ろうとしたら、肺が爆発する。

その角の部分も爆発するな。

大騒ぎだ。

だから、ドラーザは胸から鱗を抜いて埋めるんだろう?

それも深く。人が立てるくらいに。

それでも10日もすれば地中から、ボン!という音がする。

肺に溜まったガスで、粉々になった遺体が土に混ざっていく。

その時には、もう何がどうなったか解らないくらいだ。

骨もボロボロになっている。

だけど、鱗を抜かずに埋めると更に長い時間遺体はそのままだ。

半年位してやっと肺が爆発する。

土に埋めずにいたら大変な事になった。

大穴が空いたよ。

骨も残っている。

お前が死んだらどの方法が良い?

と言っても後100年はお前さんは生きる。

俺は後40年てところだ。

しっかり学べ。

ゴンザ!」


一旦検死をして沖に流しに行く。

胸の鱗を抜くと、死んでいても柔らかくなる身体。

海に捨てる際には、ここから肺まで穴を開ける。

改めて海に落とせば、肺に海水が入って浮かんで来ない。

そうすれば、魚の餌だ。


思ったとおり、先程前に出て来た二人の女が手にかけたドラーザは背骨が損傷していた。

これが、例え陸地に降りれたとしても、放って置いても死んだであろう。

背後のこの一点が、ドラーザの最大の弱点だった。



ドラウド達は、数日前から、この街の様子を伺っていた。

アジャイから聞いたアスアッドの動き。

今でもアジャイを助けてくれる者が、アスアッドにはいる。

その者が、曲がりなりにも帆船が建造されて、試験運用を兼ねた先遣隊が東方進出の為に、北の島々に派遣されると教えてくれた。

『北の島から南下されたら、我らだけでは無く父達が挟み撃ちになる。

先遣隊を潰して侵攻意欲を無くす。

ファスタバとの信頼を、勝ち取るには良い機会だ』

そう考えたドラウドは、息子達を残して沖からやって来る帆船を見張る為に、離れた場所から岬の上空に舞っていたのだ。

上昇気流が発生する朝方から空にあがる。

白い衣を纏い円を描く様にして、滑空をすれば雲程度にしか見えない。

それに、雨が降ったらアスアッドの連中は接近して来ないだろう。

接近して来たアスアッドの帆船の上空には、船酔いが酷いらしく船の上空を舞ってくれている。

自ら接近を教えてくれる訳だ。

それで、帆船とその上空を舞うドラーザを見つけたので太陽に隠れて待っていた。

準備ができたのでドラウドが、ファスタバ達の前に姿を現したのだった。


狼煙をあげた男達は最初、水平線に船が見えたのでファスタバか?

と思ったそうだ。

通常は、南から来る交易船はもっと小型で、海岸線を沿う様にやって来る。

だが、すぐにそれが間違いである事を知った。

船の上空で槍が光ったのだ。

空を飛ぶ光なんて、噂に聞いていたドラーザの連中でしか無い。

大陸からドラーザに追われて流れて来ていた男も

「畜生!ドラーザの連中だ! 15、いや16だ!」

「街に知らせて、俺たちは穴蔵に潜り込むぞ!

鍾乳洞だ!

灯りを消せば奴等は怖がって入って来れない。

灯りが有っても上から垂れている石筍で奴らは飛べない!」



狼煙に火を付けて、鍾乳洞の奥に逃げ込む。

外から、ドラーザが探している様な気配がする。

だが、降りては来ない。

狼煙の周囲には、あからさまに何本かのロープを見せている。

奴らは、これが気になって降りて来ない。

だが・・・・


外から悲鳴が聞こえた。

「ウッソだろう!」

「なんの音だ?」

「ドラーザの、助けを呼ぶ声だ!」

「そうなのか!」

「あぁ、ドラーザの殺し合いを見た時に、悲鳴をあげたんだ!」

「見えるか?」

「衣を羽織ったドラーザが、裸のドラーザを槍で海に突き落としている」

「あの、赤と黄色の奴!動きが早い!

お互いに一匹づつ片付けて、他の連中の手助けに向かっているぞ!」

岬の反対側に抜ける鍾乳洞の穴から、街を見ていたら信じられない光景が続いていた。

外から、

「クソ! ドラウドの若造か!」

「裏切り者め!」

「それより、撤退だ!こっちに来るぞ!」

「船は、船はどこだ!」

「見えない! だが、こっちだ! とにかく沖へ迎え!」

「俺、もうここで休めるものだと思っていたのに〜」

「休んで良いぞ。お前が、あの赤いのと黄色いの引き受けてくれ!

俺たちは逃げる!」

「ま、待ってくれ! うわー!本当に来やがった!」


うまく操船できない帆船に痺れを切らした先遣隊は、陸地が見えたので飛び立って来たのだった。

目に見える大地が有れば問題無い。

休める。

どうせ、相手はファスタバだ。

野鼠の方が仕留め難い。

そんな、笑い声と共に飛び上がった。

何日も、こうして船に乗り、その操船の下手さに揺られ続けて、やっと見えて来た島には近づけず。

イライラしていたのだ。

だのに、空から急降下して来たドラーザに、一撃を喰らい戦士長まで海に消えた。

こうして襲撃して来たドラーザは、1、2匹を残して海に消えた。

逃げたドラーザも、おそらく船にたどり着けなくて海に落ちたと思われる。

見渡す限り帆が見えなかった。


こうして、ドラウドと自らを名乗ったドラーザの一族は、このイドスの一角に住み着いた。



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