放浪の始まり 01 トウラド
突然、一匹(?)のトウラドと名乗るドラーザが現れた。
海辺の街【イドス】
今までドラーザの残虐な行いの噂は、海を渡って聞こえては来ていた。
このドラーザも我々を襲う為に来たのか?
覚悟を決めて対応するイドスの長。
だが、トウラドは、このイドスのファスタバを守ると言い切った。
海に面する、この広場。
緊張が走る。
だがその時。
海の村の代表が、岬に上がる狼煙を見つけた。
北の海からの知らせだ。
左から2本、2本、1本の狼煙。
「ドラーザが、10体以上海を渡り向かって来ている」
との合図。
「狼煙をあげてくれた者は大丈夫か?」
長が海の代表に問う。
「狼煙を上げた後は、地下の鍾乳洞に逃げ込んでいるはずだ!」
「良い考えだ!」
ドラウドと言ったドラーザが頷く。
当然、この広場に女子供は見当たらない。
「鍾乳洞ですか!良い考えです。
我々は、暗闇では、そこまで目が良くない。
それを、知っている様ですね」
自らの弱点を認め、それを使った避難方法を評価する。
イドスの長は、このドラウドに興味を持った。
「北の国から流れ来た者達が見ていたのです。
夕刻になると、早々に引き上げるドラーザの者達を。
ですから逃げ出す時に、夜の闇を利用したそうです。
ですから、鍾乳洞には、お入りにならないで下さい。罠を仕掛けさせています」
「そうですか! でも気をつけてください。
我々は、匂いと温度の変化に敏感です。
昼間、襲撃を受けたら煙で燻せば良いでしょう。
準備をなさい」
「良いのですか? あなたもドラーザですよ」
「構いません。私は、あなた達を守る者です。
ここに居て、海の向こうからやって来るドラーザを迎え撃ちます。
ですから海を渡って、上陸された場合は若木を燻しなさい。
【ログア】の若木なら煙が目に染みます。
元々、あの木には私達ドラーザは近寄りたくも無い」
ドラウドが心底嫌そうな顔をして見せた。
ログアの木。
樹液が多く、ファスタバでも被れる者が居る。
「ククク!面白い。ドラウド様。
あなたを信じましょう。
皆、ログアの若木を準備しておけ」
「ですが、今は不要です」
ドラウドが海を指し示した。
岬を越えて、こちらに向かって湾を進む裸のドラーザが姿を現した。
数匹は岬の狼煙の周囲を飛び回っている様だ。
降りて来ないのは、罠を警戒しているのだろう。
残りは槍を構え、入江を越えて突き進んでくる。
先遣隊だ。
この街に偵察に入って、罠の程度を確認しに来たようだ。
その数、12体ほど。
悲鳴が上がる。
「落ち着きなさい!」
ドラウドが、腕を動かして指先を太陽に向けた。
皆、それに釣られて太陽を見る。
空高く、陽の光の中に何かが見える。
「ドラーザだ!」
それも、多くの数がいる。
「あれは!」
「私の一族です。
あぁやって、陽の光の中にいれば、海面をスレスレに飛ぶドラーザには見えません。
もう奴らは、長い間飛んでいます。
早く、この地に降りて羽を休めたいのです。
ですから・・・・・もう彼らには、この砂浜しか目に有りません」
間も無く上陸されるそう思った時に、ドラウドが振り上げていた腕を振り下ろした。
一気に上空から布を纏ったドラーザ達が現れ、海を渡って来たドラーザに襲い掛かる。
正確に、羽と羽の間に石突を突き入れた。
ドラーザの力でもドラーザの脊中を突き抜くのは困難だ。
槍が抜けなく成る。
だから、石突で打撃を与えた。
ファスタバが知らなかったドラーザの急所。
羽が痺れたのか、羽ばたきが出来ずにドラーザが海に落ちていく。
「左右の羽の付け根。
ここを突かれると羽が、しばらく使えません。
もう一つ!
ドラーザは、水に濡れるのを嫌います。
特に海水はね!」
海に落とされたドラーザ。
襲い掛かったドラーザは、再び上空に舞い戻る。
海から再び飛び上がろうと足掻くドラーザは、上手く飛び上がれずに力尽きて沈んでいく。
狼煙の場所にいたドラーザは、溺れる者を見捨てて逃げ去る。
あのドラーザ達も、帰り着けるかどうか・・・・・
まだ、船は完成していないはずだ・・・・・
だから、生身で飛んできた。
ドラウドが、島国に渡ったと聞いたのだろう。
恨み言が聴こえる。
裏切り者!
狼煙が上がる。
1本、間を開けて3本。
敵撤退。
湧き上がる歓声。
次次に舞い降りてくるドラーザ。
男だけでは無く女もいた。
流石に女は、ドラーザの姿を解く事は、人前ではしたく無かったが、ドラウドの頼みで数人のファスタバの女と共に一軒の家に入った。
そして、出てきた10人の女性のドラーザ。
誰もが若く、ファスタバの男達は見惚れてしまう。
「年齢の事を言うと怒られるかも知れないが、ここに居るドラーザで最年長は私の妻で50歳を越えている」
ひとりの、ドラーザが前に進み出た。
「マルードです」
「ウソでしょ!」
「50を越えているだなんて!」
彼方此方から声が上がる。
先程の海を越えてきたドラーザに、最初の一撃を加えたのはこの女性だ。
深紅の衣装が何よりの証拠。
隠れて見ていた女達の目にも、火の玉がドラーザに落ちたと思った程だ。
余りの一撃にドラーザが、失神しているのでは無いかと声があがった。
彼方此方から若い、綺麗だと声が上がる
マルードの顔が少し赤くなる。
若いと言われて嬉しく無い女は居ない。
「一番若いのは30歳
やっと、結婚が認められる歳だ」
「ロイヒ!」
こちらも、深紅の衣装の女に続いて、一際大きなドラーザに引導を渡した太陽の光の様な衣装。
「ドラーザは、この歳を越えないと男も女も子供が出来ない。
だから、40で初めて結婚する事は当たり前なんだ」
「えぇ!遅い!」
「私達なら、お婆ちゃんになってしまう」
女達は、指を折っては色々考え出した。
「秘密を教えよう。
ドラーザは、ファスタバと同じ身体をしながら歳をとりにくいんだ。
ファスタバの諸君は、何歳まで生きれる?」
「ウチの街では今生きているのは、パン屋の婆さんで83歳だな。
それでも長生きの方だ」
「そうだろうな。
ドラーザは産まれて20歳で、ドラーザの姿になれる。
そして、30歳を越えて子供が作れる」
「えぇ!そんなに!遅いの?」
「あぁ、私も55歳だがドラーザの中では若造だ。
ここに居る戦士長は、80歳を過ぎている」
ドラウドの横に立つ今はファスタバの姿の、筋骨隆々とした男が笑って見せた。
誰も、50程度にしか見ていなかった。
「大体、120歳から150歳が寿命だな。
中には190を越えて空を舞いながら大往生した爺様もいる」
「となると、子供や年寄りがいない様だが?」
「ロガイルと言う村があるだろう?」
「あぁ、この島と更に南の島の境にある島だ。
もう、人が住んでいないんじゃ無いか?」
「二人住んでいたよ。
正確にはファスタバの女と、元ドラーザの男が一緒に住んでいる」
「えぇ!」
「知らなかった!」
「ドラーザは、私の友人だ。
先程、この島を襲って来たドラーザ達の王太子だった男だ。
アジャイ。
ファスタバの女は、ソフア」
「ソフア!」
「それは、本当なの?」
「ソフアがなんで!」
「生きていたの!」
「他の家族は?」
「人違いかもしれん!ソフアの、髪は何色だ?」
「クセ毛の灰色で、肩まで伸ばしている。目の色は青だ」
「長!」
「あぁ、ソフアに間違いない。灰色の髪は滅多にいない」
「あぁ、実は、ここに子供や女達を預けてある。
そのうちに呼ぶ事になるし、この二人もこの街に来たいそうだ。
それもあってこの街を選んだ」