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放浪の始まり 18 ベリア フロウ

モリハンに送られたリシャルの両親、兄弟達への追求は厳しく苛烈を極めた。

特にジア王国の王弟、貴族、商人と組んだ横領、贈収賄、密入国、密出国、密貿易に誘拐、殺人、そして偽金貨造り。

モリハン、ジアだけでは無く、多くの国で犯罪組織の痕跡が見つかる。

今回の犯罪に関わったのは王弟や貴族ではあったが、彼等は、その地位を利用されただけの様で、決して首謀者では無い。

この悪事を仕切った人物が居ると誰もが考えた。

モリハン達は捜査を継続する。

だが、現在捕らえている者達の証言は取り尽くした。

あとは、国民に毅然とした姿を見せなければ、王族、貴族、商人に忖度していると取られかねない。


刑の執行は、モリハンから始まる。

モリハン王は先ずリシャルの兄達。

リシャルが自ら捕縛に当たった事で、彼女の正当性が認められた。

民衆は彼女に好意的である。

そして続いて両親を処刑した。

それだけでは無く、ファスタバへの暴力や陵辱の罪が暴かれた成人の甥達も処刑。

妻や娘は鱗を抜いて、市民としての生活を送ることを余儀なくさせた。

成人前の貴族の婚約者は、そのまま学園に進ませ、その間の態度で貴族のままか庶民になる事が決まるが、実家が処罰を受ける以上、新たな貴族か王族の婚約者を見つけない限り庶民として暮らす事になるだろう。

逃げ出す事も死ぬ事もできない。

兵士か技士の妻として生きていく事になる。


偽造金貨の鋳型と鋳造現場の捜査は難航した。

鋳型は、以前アスアッドが製造した金貨の鋳型を持って逃げた商人がいた。

名をマゴイと言う。

かつて作られた質の悪いアスアッド金貨を溶かして、更に金純度を下げた偽金貨を市場にばら撒いた。

最初に発行した旧金貨は悪貨として名高く、六掛けの価値しか無いとされたがそれでも金の価格より高かった。

それが更に信用が落ちた。

五掛けでも取引できるか?

もう、金貨としての価値を失っている。

アスアッドに、再び大きな打撃を与えてしまう。

当然、アスアッドの関与が疑われたが、流石にそうではなかった様だ。

アスアッド3世は、顔を真っ赤にしてマゴイの捜索を命じた。

全ての金貨について、その貨幣価値を調べて流通経路を調べる。

更に、新貨幣の鋳造は断念し友好金貨への参入を表明した。

これには、モリハンやその他の国から立会人を出して貰って、アスアッド金貨の信用を立証してもらうしか無かった。

次々と精錬される金貨。

アスアッドが所有して居た金貨は、純度九割を若干下回る程度で金貨としては問題無かった。

ただ、鋳型の質が悪く重量と紋様が一定しない。

これが、信用を下げて居た。

金の純度を九割に固定。

これで一対一の取引ができる。

だが、市場から集められた金貨は、目を疑う程の出来だった。

これを溶かして精錬して、新たに新貨幣と交換すると四割の価値まで下がってしまう。

今まで500枚の金貨で、モリハンとの取引で金貨300枚の取引ができていたが、友好金貨に変えない限り200枚以下と値切られてしまうのだ。

もうこうなっては取引が成立しない。

アスアッドの商人達は、泣く泣く四割の友好金貨を手にするしか無かった。

中には『もう商売を辞める』

とコールトに、後を譲る商人も出て来た。

コールトは、彼等を引き留めてイストと名を変えたアゴズの領地開発へ誘った。


大打撃を受けたアスアッド。

アスアッド3世は、溶かされる金貨を睨みつけている。


あの忌々しいドラウナの嫁の実家が潰されたと喜んだのも束の間、それ以上にアスアッドのハラワタを食い破った奴がいる。

思えば最初の質の悪い金貨の鋳型を準備したのもマゴイ。

これが狙いだったのか?

あの後に鋳造した金貨も質が悪く、六割の価値しかなかったが、それでも新金貨を鋳造するよりも安かった。

だが、最初の金貨を回収しなかった事から、事がここまで最悪の展開を見せた。

これを、ばら撒いた奴がいる。

間違いない。

マゴイは、最初から俺を嵌めにきていた。

アスアッドも捜査に参加した。



フォース家の息子二人は、ジア王国に送られた。

ドラウド国、モリハンでも罪が加算されて居た。

更に、ジア王国のファスタバの家族からの訴えで誘拐事件が明るみになり、ジアの王都で裁判が開かれた。

ジア王国の王弟も貴族も、同様に様々な罪状が積み上がる。

王弟の領地。

谷間の集落に隠された鋳造工房の跡。

ドラウド国の石炭。

壊された鋳型。

領地の廃屋から王弟の証言通り、見つかる偽友好金貨。

多量のアスアッドの金貨。

すぐさま、諸国の金貨が期間を決めて調査に入った。

この期間外で偽造金貨を使えば最高刑は死刑。

ジア王国の信用取引は停止された。

国家に与えた損害は計り知れない。

王弟に示された判決は死刑。

王弟は兄だけでは無く両親や先王、領主、貴族に泣きついたが王の決断は翻らなかった。


公開処刑の日。

引き出された王弟に貴族達。

フォース家の、馬鹿息子二人も膝を突かされている。

そして、その手先のドラーザやファスタバ、ファスラーザ。

一応に項垂れて震えて刑を待つ。


ジア王は宣言をする。

「我が国は、全ての犯罪人に対して厳しい対応をとる。

その証がこれだ!」

ジア王は胸を国民の前に指し示した。

抜かれた王の鱗。

王弟らは知らなかったのだろう。

その赤く腫れ上がった胸から目が離せないでいる。


「周辺国に与えた被害が大きすぎた。

その責を負って、私はドラーザである事を捨てた。

王太子コアを、新たな王に指名する。

尚、ここまで疲弊してしまった国を立て直すには、此奴(こやつ)らが溜め込んだ財産を没収しても足りない。

今後も、捜査は継続する。

我が国だけでは、国家再建はどうにもならない。

モリハンも関連した貴族の処刑を済ませ、その没収した財産を使って我が国を救う為の基金を創設してくれた」

この言葉に膝をつかされて居た王弟が声を荒げる。

「当たり前じゃ無いですか!元は、バイクが誘いかけた事!」

「未だ、その様な事をほざくか?

では、偽金貨の鋳造は誰の差金だ?

ゴールマン?

ロッテ?

ファフロス?

国民に言ってみろ?

今彼らが手にしている金貨は、半分の値打ちも無い。

それが解っているのか?

言って置くがコアは国ごと、モリハンに降っても良いと言っている。

全ての王族と貴族を平民にするとまでな!」

「そ、そこまで! 我々は、そんな大金を騙し取って居ない!」

「溜め込んだ金はそうだろうが、国家予算で10年を越える打撃だぞ!

信用問題はそこまで重い!

それに、お前らの屋敷裏から出て来た大量の人骨。

どう説明する?」


赤く充血した王の目。

もう何日も眠って居ないのだろう。

その目に怯えて広場で悲鳴をあげ続ける王弟。

ドラーザの姿といえど、兵士職では無いただのボンボン。

王族である青の鱗を抜かれファスタバの姿となり、現れた肌に短剣を突き刺された。

続いてフォース家の二人の息子も処刑台に引きずり上げられた。

柱に括り付けられた二人の息子。

裸に向かれて、もうその胸には鱗が無く、赤く腫れあがった肌が見えている。

処刑台にあがるファスタバ達。

恋人を攫われ、哀れな最後を迎えた事を誘拐に携わったファスタバ、ファスラーザが自白した。

一人ずつ短剣を足や腕に突き刺していく。

そして最後は、娘達と子供達の両親が心臓を貫いた。



ドラウド國でも、最後の元貴族が処刑される事になった。

全ては、貴族達の思い出話。

ファスタバを追い立て暴行、陵辱。

そして、ドラーザの姿で食い殺し祝杯をあげる。

そんな話を得意げにしていた父親の馬鹿な団欒。

妻 ベリアは、その事に嫌気が差して離別していた。

フォース家の館から見つかるファスタバの骨。

「忘れられなかったんだ。

息子達と他所の領地から攫って来たファスタバの女を・・・・・

ジアの王弟や商人が差し出してくれた子供を・・・・・」

反吐が出る。


群衆の中から進み出るフォースの元妻。

周囲のファスタバから、驚きの声が上がる。

一部の島民を除いて彼女が、ドラーザだとは知らなかった。

穏やかな女性。

ファスタバに刺繍を教え、子供を預かり若い母親達を支える。

先生と呼ばれる存在。


フォースの目の前に立ったベリアの姿。

「お前が、逃げ出したからだ!

全ては、お前のせいだ!貴族の生活を与えてやったのに!

ドラーザの名誉を与えてやったのに、何で我らを捨てた!」

叫ぶ元夫。


冷徹に見下ろすファスタバの姿をした女。

90歳である筈だが、ファスタバの姿になると40代にしか見えない。

「下らない。

そんなアンタを相手にしたから、馬鹿な男を二人も産んでしまった。

私は、もうドラーザでは無い!」

そう言うとシャツをはだけて見せた。

豊かな胸の谷間に顕になるドラーザの鱗。

中央の鱗は無くなっていた。

ドラーザを捨てた証。

抜く時には、凄まじい痛みがあると言うのに自分で抜いた。

実家に帰らず他の貴族の元妻と子供達とでドラウド国で暮らしている。

「私が殺されたファスタバに代わって、この外道に裁きをくだす。

お認めくださいますね?

ドラウド一世」

「あぁ、お主しかおるまい。壇上へ引き上げろ!

国民よ!これを目に焼き付けろ!

我は、この国の王として宣言する。

今後、誰であろうともファスタバ、ファスラーザへの迫害、暴行、脅迫、陵辱、殺害は一切認めない。

ファスタバ、ファスラーザ同士の犯罪も同様だ!

これが、その証だ!」

元妻に、腰から抜いた剣を渡すドラウド一世。

それを掴み、後ろ手にされて上半身を剥かれた元夫に歩み寄る。

逃げようとするフォース。

その後ろに立ち、それをさせない王。

元妻は、元夫の肩を掴みこう言い放つ。

「この外道! 私の実家まで恥を晒す事になった。

数々の怨念を抱えて死ぬが良い!」

ゆっくりと胸の鱗の痕に差し込まれる剣先。

叫び続ける元貴族。

もう手足が痺れて動けない筈。

だが、すぐには殺さない。

ゆっくりと恐怖と痛みを与え続けて殺した。

「済みません。

この男に、出来るだけ多くの痛みを与えたかったものですから・・・・・」

女は、剣を王に返そうとした。

「それは取っておけ。お前への報償の証だ。

アジャイに代わり学園島の責任者に命ずる。

その剣を掲げておくが良い。

ドラーザとファスタバ。共に未来へ導いてやれ」

「あぁ、私のやるべき事を、お示しくださりありがとうございます。

ベリア・フロウ この身が続く限り王命を果たします」

「あぁ、頼んだぞ」


この様にドラーザで有りながら、ファスタバの権利と身分を保証したドラウド一世。

この事が、この星の将来を変えて行く。

例え、この星が突然なくなる事になっても・・・・・・


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