放浪の始まり 15 島流し
こうして、毎日の様にドラウドの元へ書類が集まる。
夏に長となったロトロや、その仲間が食事後に造船所の隣りに建てた小屋に集まる。
その記録を纏めて、アジャイがここ10年付けてきて置いた年表と比較をする。
造船所の隣り。
さらにその隣には、ドラウドの家が造られていた。
『ここは、うるさく無いか?』
と周りは、心配したのだが、
「そんな事はない。
夜は、ここなら灯りが造船所から漏れて居るから不安にならない」
そう、ドラウドが笑って応える。
朝になれば造船所に集まってくる職人達。
その挨拶を受けて、畑に出て島を回る。
マルードが、護衛についてくれる。
ロイヒは、オルルトの手伝いだ。
自宅は留守だ。
集会場だけではなく、自宅も遠慮なく使えといってある。
怪我をした職人の治療をした事もあるし、焼き菓子や茶の用意をして出てくる。
代わりに掃除がきちんとされていて、そのお返しなんだろう、時には夕食まで作ってある。
何かと優しい島民だ。
造船所の外に突き出した煙突の余熱を使って、いつもお湯が沸いている。
注意しながら鍋を置いておけば、中まで火が通った蒸し料理も出来る。
よく煮込んだシチューが作られる様になった。
周辺の家は『自宅で料理するより楽』とばかりに、ここを順番で使っている。
ドラウド達も、ここならば夜にはいろんな話をして過ごせる。
今宵は、3人の妻も、子供を連れてきて居る。
オルルトは、出産は、まだだが今夜の話をファスタバに持ちかけた本人だ。
ゆったりとした椅子に腰掛けて発表を待つ。
そして、明日、重要な式典を控えた二人も。
今ここには、星見の男とその息子が講師として壇上に立っている。
広げられた大きな紙。
モリハンで紙作りをしているが、その中でも一番大きなサイズだ。
他には、学ぶ事に興味を持った者が10人程。
学園で学んだ様に、天の一転を中心に星は回っている。
ファスタバの者達も知ってはいたが、なぜかをドラウドに教えてもらう。
その為に、先ずは、この大地が球体である事を認識することから始まった。
「私達は、平たい大地や海に突き出た部分にいると思っていました」
「そうですね。それならば海の水が消えて無くならないわけですね。
魚も落ちていく訳じゃない。
それにしても、考えが及ばないほどの大きさなんですね。この大地は・・・・・」
「これからも、みんなと一緒に発見をしよう。
あの動かない星と磁石を使えば、夜でもどちらに向かえば良いかわかる。
私たちは周囲を海に囲まれて生活しているんだ。
何も目印がない状態でも、この磁石と太陽と星で進むべき方向がわかる様になる。
海図も島の地図も作っておこう。
我々ドラーザは、与えてもらって来る知識はあるが、やはり物作りや生活をする能力は、ファスタバの諸君の方が優れている。
この灯り取りだって鏡を使って、こうして夜でも過ごせる様にしてくれた。
ドラーザは、実は怖がりなんだ。
真っ暗な夜は、かえって眠れない。
だがら学園では不思議な光が夜になって灯されていたよ。
教官が、夕方になると灯してくれて朝になったら自然と消える。
今でも、それが欲しいよ」
「きっと、その技術も一緒に作り出しますよ」
「そうだな。あの太陽の光の百分の一でも良いのだがな」
「月も、いくつかあれば良いのにですな」
「それじゃ、潮の満ち引きが複雑になってしまいそうだな」
「あぁ、あの話は今でも不思議です」
「引力か? 私にも理解できていない。
世の中には不思議が多すぎる。
産まれて17年。
姿やその筋力に大差は無いのに、3年の間にファスタバは子を作り、一人前になって働き家庭を持つ。
だが我々、ドラーザは何処にあるのか判らない学園で過ごし、性的成長はさらに10年かかる。
だから、17まで好きあったドラーザとファスタバの二人が三年後には別れている」
「アジャイ様が、まさか救い出したソフア様と【ファスラーザ】の子供をもうけになる事を、選ばれるとは思いませんでした」
「その為に、胸の鱗を抜いたんだ。
もう、ドラーザには戻らないと決めたんだ」
「お強い方です」
「私も引退したら抜こうとも思っている」
「・・・・・そうですか。それでは私も・・・・・」
正妻のマルードが、自分もと進み出る。
「いや!それは許さぬ」
「何故に?」
「闘姫で剣を操って舞う、お前の姿に惚れ抜いている。
私の身を守る為にも、そのままでいてくれ」
「解りましたですが、死ぬ間際には鱗を抜きます」
「何故?」
「あなたは、土に帰るつもりでしょ?
私も先に鱗を抜いて、その時を待ちますわ。
死んでいるとは言え、海の魚の餌にはなりたくありません」
「あはは、そうか。そういう訳だドラウナ。
後30年したら、お前が、この島々の王だ。
明日は、お前を王太子に任命する」
「ありがとうございます。
一層、王太子として励み、この島々を平和な国にしてみせます」
次の交易船に乗って、祖父ムオイと祖母がやってくる事になった。
そして、その船にはリシャルと契約する事になる数多くのファスタバの家族達。
アジャイの入植から15年。
ドラウドの入植から4年。
建国からやっと一年なるが、予定より早い。
ムオイの家は二箇所。
街中とやはり高台にある、昔の住居を改修した住まいだ。
『厄介払いしたいのだな』
来年の秋になれば、息子ドラウナの婚約者リシャルの家族、バイク家まで、こちらに渡って来る事になった。
ドラウドもマルード達も眉を顰める。
それどころか、バイクの娘のリシャルまでが嫌な顔をする。
出来れば、この本島には入れたく無い。
バイクもそう願うだろう。
モリハン王と、又揉めて
『娘の元へ行ったらどうだ』
と、やんわりと追放された訳だ。
これから、こういう話が増えて来そうな気がして来た。
他にも古い考えを残している一族はいる。
いわば島流し。
「やれやれ、兄さん達は、俺に監獄の看守をさせる気なのか?」
未だ手付かずか、無人島に帰ってしまった島が幾つもある。
ここにも入植させて、開拓しておきたいのはドラウドもドラウナも考えている。
ファスタバが、移住してくるのは有難い。
バイク家には、そう大きくは無いが、未だ無人島に帰って間もない島を与える事にした。
アスアッドに追われて来た際には、テントや洞窟で暮らした事もあるから平気な筈なのだろうが、それではその世話をするファスタバ達が苦労をする。
バイク家には、ファスタバが40家族ほど居て契約を交わして居る。
この契約書さえあれば、暴行や陵辱を受けた途端に契約は解除され、領主は慰謝料を払う事になって居る。
決められた年数が来れば、領主は再契約を頼むか慰労金を払って契約満了となる。
領主や貴族に、散々文句を言われた【モリハン法】
バイク家も、そんな貴族のひとつ。
バイク家としては、リシャルに『アスアッドのドゴイの第三后になってくれれば』と書簡を送っていた様だが、リシャルがマルードに気に入られてしまい、ドラウナと同い年という事で王家に入る事になった。
元は王家の四男坊の長男で、小さな領主に収まるはずだったのが、今では間違いなく独立国ドラウドの王太子になるドラウナの第一后だ。
この良縁に、文句を言える訳がない。
アスアッドの強烈な恫喝が書かれた書簡をナフルト王に差し出して置いた。
自分が、アスアッドへ書簡を送るより王家に任せた方がいい。
『肉への渇望』を抑えて過ごす事になった。
それでも、何かやらかした・・・・・・
王都に置けない事。
(リシャルを王太子妃にさっさと指名して、領主に担ぎあげて実家と縁を切って置く方が良い訳か・・・・)
バイク家が下手な罪状を積み上げると、若い二人の為にならない。
ドラウドは、父 モリハン王に書簡を送り、
バイク家に領地を準備する事を了承して、代わりに条件を伝えた。
先に領地から離れる事になったファスタバを入植させて置く事にして、契約書をリシャルにして置く。
王太子妃に指名するから、領主をリシャルにして両親は隠居。
兄達は地位を落として、城詰めにしてもらう。
飼い殺しにする。
王城に張り出された、その告知を見てバイク家の近親者は震えあがった。