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放浪の始まり 13 金の鉤針

最初にアゴズの先遣隊を返り討ちにして、それからも何回かやって来たが冬になって来なくなった。

今度は、モリハンから帆船に乗って多くのファスタバ達も渡って来た。

ドラウドやマルードの呼びかけに応えた移住希望者達だ。

更にはドラーザ達も移住を検討している。

アジャイの住む島の辺りにもキースの誘いに乗って移住して来た。

空き家になっていた住まいを改修し、冬越しの準備をする。

渡って来た南の島のファスタバたちも増えて、レンガを焼いて重ねあげる。

レンガに使える土は、年寄り達が知っていた。

冬の間に準備しておけば、春から港に街が建設出来る。

元々、煉瓦造りの住まいもあったそうだが、現在では地面を深く掘って周囲に立てた木の柱に板をはりつけ、土を盛り上げた住居だ。

これはこれで、暖かくて良い。

見た目が芝の生えた小山の様で、マルードは少し高台の空き家を貰って改装に入っていた。

灯り取りの窓を埋め込み、床と壁に煉瓦を敷き詰めて、アゴズから仕入れた目の詰まった木材でその上を覆う。

あんな事があったのに、平気で商取引は続いていた。


マルードは、元々の北の領地で使っていた暖炉も作ってみた。

北の領地ほどでは無いが、やはり冬は寒い。

アジャイが引いた図面に従い、加工だけ済ませてもらい出来るだけ一人で組み立てる。

まだ、住むには寒すぎる。

だが、楽しい。

今までは大家族の中で暮らし、学園の寮そして王城と、誰かがそばに居るのが当たり前だった。

そのせいか余計に、一人で暮らす事に憧れていた。

そして何より、結婚する新しい3人目の妻ロイヒがいる。

彼女に早く子供を持たせたい。

という気持ちでいっぱいだ。

秋になれば、この島始まって以来のドラーザの結婚式。

新国王が新たな后を迎える結婚。

派手にやりたいのだが、ロイヒが苦手でマルードが考えた式を進めている。

ロイヒは、『契りの儀式』を終えたら、闘いか逃走でもない限り、子供が生まれるまで竜人の姿にはならない。


マルードは、新しい式を挙げさせてみようと思いついた。

キッカケは、『参考に!』とでも言うのだろうか?

寮監が、オルルトに置いていった極彩色な絵。

ファスタバの若い男女が、こちらでは見ない服装をしている。

オルルトが、その絵を持って来た時には奇妙な姿と思った。

女が顔を隠している。

いや確かに見えてはいるが、透けて見えるほどの薄さの布が顔を隠している。

他にも何枚もあって、男がその薄い布を持ち上げて口づけをしている。

何となく、これが気に入った。

ファスタバの衣装でもあり、こう言った衣装の事であればセンダが何か知っているかと、今は同じ様に高台に引っ越した元街の代表の妻センダに会いに行く。

「これは、綺麗な絵ねぇ〜」

「でしょう?」

「これは、ゴンザが書いたのかい?」

「ううん。

前に話したよねドラーザは17になったら、三年間どこかに集まって生活して学ぶと言う事を」

「あぁ、学園だっけね?

今度、春になったら同じ様な物を、いくつかの島に作るんだろう?

良いよね〜 私も小さい頃は、水汲みと縫い物と織物だけだったからね〜」

「大人の為の学校も考えているわ。お話だけをするの。

ぜひ、ゼンダも織物の事を話して頂戴。

そこで、このファスタバの女の衣装を見て欲しいんだけど解る?」

「こりゃ、小さいね。ちょっと待っていな」

センダは、引き出しから先日受け取った老眼鏡とルーペを取り出した。

「ははぁ、こりゃ絹のレースだね!」

「レース?」

「絹?」

「あぁ、ほれ!これさね」

取り出した小箱。

「うわ〜綺麗!」

「本当に!実際に手に取ると、薄さと柔さがわかります。姉さん!」

「だろう?」

「他にも、こんなものが出来る」

一本や何本もの糸を互いに絡み合わせて作った花や、葉、そして魚に、何かの紋様が次々に出て来た。

「これは、一つ一つの作りを教える為の物だよ。

冬の暇潰しさ。

この冬には、できないと思っていたけど、今年もできそうだね」

「逃げ出すつもりだったから?」

「そうだよ。

もしもの時は、島に残していってもらおうと思っていた。

その日が来るまで、夫と海を見ながら過ごす。

小舟しか無いから大人数じゃ、あの潮は越えられないし、他所でまた家を建ててなんて思えなかった。

それに、襲って来たドラーザの恐ろしさ。

あれ!ごめんよ!」

「ううん。ファスタバを見下している連中とは私たちは違うから。

私たちは、貴方達を守って生き延びられている」

「そうだね。

ドラーザも。元は一緒のファスタバじゃ無かったかと言う話だね」

「おばーちゃん!よく知っているね」

オルルトが驚く。

「ロイロが、ドラウド様から聞いて、話してくれるからね」

「もう、あの人ったら」

マルードが、案外、お喋りな夫に呆れる。

王らしく無いドラウド。

「あはは、良いじゃ無いか。

現に、マルードさんやオルルトさんは、こうして一緒に話していても怖くない。

むしろ楽しい。

あぁ、そうか。

これを、どうやって作るかを知りたいのかい?」

「えぇ、この絵の束が届けられたと言う事は、『コレをやってみろ』って言っているのよ」

「で、この姿って『契りの儀式』だね」

「やはり!そう思うよね?」

「そうか!これを作ってみろって事?」

「だね。でも、こんな糸あるの?」

「ちょっと待っていてごらん。確か・・・・・ホラコレだ」

細い糸を束ねた球が、いくつか取り出された。

「これは、蛾の蛹から取るんだよ!」

「蛾の蛹!」

「そうですよ。

これは白ですが、ロイヒが好きな、黄の糸を、その身に巻く蛹も有ります」

「オルルト。その言い方、もう探し出しているわね?」

「お姉さんには、お見通しですね」

「白糸を染めることも出来るけど、そうかい未だ蚕が残っていたかい?

前は南の島から送って来ていたんだが・・・・良かった。

これが、私が若い頃に作った物だ。娘の為に作った物の片割れだ」

出されたのは、子供の為の帽子。

白地にレースで編まれた黄色い花が、浮き出ている。

「片割れ?」

「亡くなったんだよ。別に珍しい事じゃ無い。

私は抱いて眠っていた娘が、息をしなくなって初めて気づいたよ。

それくらい突然だったよ。

だから、外に出る時に付けていた真っ白い帽子は、そのまま一緒に墓に埋めた。

これは、その子がもう少し大きくなった時の為に作っていたもんさ。

夏を過ぎる頃になれば手に入ると思うが、黄色の糸は手に入らないのかね?」

「アジャイさんが、もうこの蛾の事は調べていて、ファスタバが試験的に作り出しています。

その中に黄色い糸を吐き出す幼虫がいました」

「幼虫は蚕、糸を纏った蛹を(まゆ)と言うんだよ」

「あぁ、そうでした。今度送って来ますよ」

「そうかい。それならどうするね?

姉として編んでみるかい?」

「えぇ、息子の嫁の分も有りますから、練習する方が良いでしょう。

よろしくご指導、お願いします。先生」

「先生?」

「学園で、いろんな事を教えてくれる方を、お呼びする時の名称です。

王様みたいな物ですよ」

「先生か!

いい響きだね。

それじゃ、レース用の鉤針を作って貰えるかい?

ここに見本になる細い鉤針がある。

出来れば贅沢だけど、銀の編み棒に金を纏わせてほしい。

銀細工が細くできると言うし、金を纏わせたら滑りが良いから糸が切れない。

糸を何本も重ねると強くはなるが、薄く軽い物を作るにはその方かいい。

最初は、木綿の糸で練習だね」


こうして、ロイヒとリシャルには内緒で絹のレース編みが続けられた。

ロイヒの喜ぶ顔を見る為に。

そして、そのロイヒが大きなお腹をさすりながら、編み物をする姿を思い描きながら・・・・・


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