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放浪の始まり 11 島へ

遂に造船所で交易船が完成し、沖合での試験航行と幾つかの改修を行ってナルフト達が船で島に向かう。

沖に二隻の船を認めた島のファスタバ達。

先触れとして何人かの戦士が飛んでやって来て、準備を進めてくれているが、それでもつい見続けてしまう。

大きいのだ。

大人の両手を広げた長さで14人分ほどか?

二本の高い柱に帆を張って、前と後ろに三角形の帆が付いている。

中央にも、もう一本 (ほばしら)が立つ様にされているが、今は取り付けていない。

まだ、操船技術が三本の帆に追いついていない。

これが、できる様になれば更に船速が上がる。

積載重量は減るが高速の連絡用に、或いは軍用船として使う事になるだろう。


接岸した二隻の帆船。

操船して来たファスタバやファスラーザ達が、手を振りながら接岸する。

最初に持ち込まれたのは、小麦と陶器、鍋に灯火用のロウソクなどだった。

それに、イルバッドからの医薬品、染料、衣類、布。

干し肉に塩蔵肉。

さまざまな物が陸揚げされる。

最後に降り立ったのは、数組の緬羊の(つかい)

島には山羊はいても、羊は居なかった。

冬を越したら、乳牛を運んでくるつもりだ。

そして綿の木。

島にも綿で糸を織っているが、種類が違うせいか繊維が短く切れ易い。

将来は、シュロの繊維で作っている網も変えたいと思っている。

今回は、イルバッドからの一つ目の贈り物として丈夫な網が送られた。

黒く塗られた強い網だ。

錘も付いていてすぐにでも使える。

男達がすぐさま群がり、ナフルトに熱い視線を送ってくる。

早く使ってみたいのだ。

笑いながら許すと、大急ぎで船乗りを誘って近くの漁場に小船に乗って急いで行く。

「そう言えば投網を、やはり西の国のファスタバが使っていると言っていたな」

「錘となる金属が有るそうですが、身体に良くないと聞きました」

まだ若いロイヒが、学園でその後の技術革新を聞いて来ている様だ。

「どう、悪いんだ?」

「死ぬそうです」

「何!」

「勿論、直ぐに死ぬわけでは有りませんが、型に入れる時にその金属の煙を吸って、血を吐いたり、食事を受け付けなくなるそうです」

「そうか、また寮監が教えに来てくれるとありがたいな」

「ですから鉄を鎖にして、編み込むそうです」

「そうか、今仕掛けている網にも錘は付いているが石だな?」

「石じゃ有りませんよ。陶器です。予備も積み込まれていましたが、これなら島でも焼けそうです」

「あぁ、なるほど、それで穴を開けて使っているのか。

うまく出来ている」

「ファスタバの、試行錯誤が見られます」

「本当だな。

彼らが居なかったら、私たちは飢えて死ぬな」

「守ってあげましょう。

私たちができる事はそれだけですから」


その日は、明かりを灯して、祝いをして酒を振る舞った。

島から、送る荷物を積み込む。

干し魚は元より、上質の塩と砂糖を積み込み。

【石炭】も麦藁で作った袋に入れて積み込んだ。

使う時は、このまま王城の竈門に放り込めば、王城の者たちの食事は賄える。

硬く砕けることの無い上質の石炭だ。

大陸でも手に入るが、荷車で運ぶには効率が悪い。

川を使った搬送専用の台船を使う二本の運河を掘っている。

アジャイの、考えた方法。

島で使っている水車を使った荷物の上げ下げを大型化した。

大きな河川が有り、水路を掘ることが出来たのが大きい。


今回の、目玉商品を積み込む。

割れ物だ。

透明なガラス板。

床に麦わらを敷き枠に入れた、ガラス板を搬入する。

何度も試した運搬方法。

これがあれば、住居の灯り取りになる。

サンプルを作って、王城の物見櫓を兼ねた塔の先端に取り付けた。

八つの方向に向けた窓に嵌めこむ。

上空を見張れる様に、天井にもガラス窓を取り付けた。

塔の一番最上階で見張り、一階下から迎撃に出られる。

これで、雨の日も寒い日でも、体を震わせずに外を見張れる。

塔の中の階段も、凍ったり、水浸しにならなくて済む様になった。

これを見た南西部の各国からの問い合わせが、王城に届いている。

王城経由で販売を任せることにしていた。

あまり安いのは困るが、庶民に使える位まで価格を落とせる様にしておきたい。

仕事を奪われたイルバッドにも技師を派遣して、わざと色を付けたガラス窓で光を取り入れさせたり、金属のコップや食器に代わってガラスで作る事を編み出させた。

イルバッドからの贈り物の中に、美しいガラスのコップと皿が含まれていた。

口当たりが金属のものより良い。

今まで、銀の食器に金の縁取りがされた物が多かったが、涼しげなその姿に、島で製作する透明なガラスでもやって見ようとアジャイは考えていた。


二日後、ナルフト達を残したまま船は出て行く。

いよいよ、島へ移住する準備だ。

余程の事がない限り島を出ることは無い。

気になる情報も入って来ている。

アゴズの部下達が、断崖の上から海に飛び立って沖の船に着艦して戻る訓練を始めたそうだ。

マルート、ロイヒがニヤリと笑う。

もうそんな段階は島に居る戦士と、この二人は終わっている。


何度も北の島には東側の海岸から回り込んで、地形や様々な事を調べてある。

東側の海岸で港を作れそうな場所を探している。

人口はそう多く無い。

100を越えたくらいで、他の周辺の島にも何家族かがいる様だが、それを合わせても200はいまい。

これ以上人口が減っていたら、島を捨てて南に向かう事になっただろう。

それも命懸けで・・・・・



モリハンでは、父が周辺諸国の中心となって政治、経済を管理して外交も自らあたる。

三人の兄は、配下を使い国を治める。

王太子 イロクルが、父を支えて国内外の軍事、治安に努める。

次男 マイフは、生産業と農業を取りまとめる。

三男 ガイルが多忙で、海岸線の治安と造船所と海運、更に周辺国との通商を受け持った。

これは、三男の新たな妻が、イルバッドの貴族の娘マルールである事が大きい。

政略結婚ではなく、学園で純粋に好き合っての結果。

しかし、この婚姻が両国の関係を友好関係に変えて共通金貨の鋳造に繋がる。

お互いの鋳造所で小金貨や大銀貨、銀貨などの鋳造を行う。

それに関する法を制定。

貨幣は交互に作り、その枚数と重さを比較する。


港の管理と、港を使った貿易を任された三男のガイル。

ガイルは細かな数字のやりくりと、ドラーザとは思えないほど水遊びや海が好き。

自ら望んで、港と造船所の近くに居を構えるほどだ。

休みの日には、家族を引き連れて海辺で遊ぶ。

「俺は、この水を恐れないのが能力かもしれんな。

だが、キッカケは鱗の間に海水が入り込まない様に、肌に油を塗る事を考えついたソフアに感謝しているぜ!」

そう言いながら、一番下の娘を抱いて船に乗り込む。

マルールも恐る恐る、船に乗り島に向かう。

他の后との間に産まれた息子や娘達は、全く平気で島で泳いでいる。

本国の海岸は、岩場で崖が多く危険なのだ。

島に交易の為の施設を設け、そこに自分の子飼いのファスタバと、島々のファスタバの擦り合わせに立ち会っていた。

伝票の統一や経費のやり取りの仕方など、決める事が多い。

結局滞在が、20日ほどかかってしまった。

毎日、子供達に永住をせがまれて難儀していた。

帰る時には又、大泣きされて困り果てていた。


ナルフトは島に渡る時は、戦士に関しては若い者は、そばに置かず一線を退いた者だけ連れて行く。

未だ、島民がドラーザに対して畏怖を持っている。

そこを案じての事だ。

勿論、三人の妻がいれば余程の事がない限り、囲まれて討ち死にはしまい。

作らせている島々の気候と其れに準じた農作業や、開墾作業の計画書を父たちに提出してあり、それに従い島々に渡る。

そして、今日はついに完成した物を胸に抱いて二人の妻と婚約者のロイヒと共に、羽をたたむなりに王城へ向かう。

取り出したのは、老眼鏡と双眼鏡に望遠鏡。


『島で制作したガラスを使って、島で造ってみました』


「美しさも必要ですから、島のファスタバでも腕の良い職人に作らせました。

それでも壊れると思います。

おかしな時は、持って来て下さい。

壊れ方を調べるのも、大事な商品開発ですから」


「望遠鏡、双眼鏡の製法は、他国に渡ると厄介なので、島で生産して秘密が外に出ない様にします」

独占するための口実。


この頃には、金を使った取引を始めていて、アスアッドはアスアッド金貨、モリハンとイルバッドを中心とした南部西部諸国は友好金貨と名付けた金貨を発行した。

これも、学園で学んだ成果だ。

手形を使った取引も始まりつつあった。

【信用取引】の構築である。



ガイルは、アスアッドの北の大地から木材を買い付ける。

アゴズは、農業国でありながら麦を大量に買い付けた。

その方が、アスアッドの穀倉地帯から移動させるよりも人手がかからず、コストもかからなかった。

何より、小麦にした際の質がアスアッドよりも良く好まれた。

この、主に物々交換での取引はアジャイに情報を流しているファスラーザの商人が引き受けていた。

元々、アスアッドの出身。

何処かの貴族の領主の子だろうが、彼は出自を明らかにしなかった。

だが、アジャイの保証が物を言って、アスアッドとの取引は彼が一手に請け負っていた。

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