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94話 めっちゃ早口

 王弟コンスタンティンは【巡礼神の加護】により未来視を授かり、その力で国王アレクサンドの右腕として活躍していた。

 しかし派閥争いの中で国王と対立し、争いに敗れ、流刑の身となり表舞台から姿を消す。


 それ以降コンスタンティンは王族の汚点として存在を抹消され、その名を口にすることすら許されなくなった。

 〈慧眼卿〉という二つ名は、それ以降につけられたものである。


 たとえ王族によって緘口令が引かれようとも、コンスタンティンの功績が消えるわけではない。

 コンスタンティンの未来視は無数にある未来のうちの一つを視るという特性上、これから確実に起こる大局を予知するのが得意だった。


 例えば干ばつ、水害、凶作といった避けることができない自然災害がそうで、事前に察知し対策することにより救われた農村は数知れず。

 農民たちはコンスタンティンを予言者として崇めた。


 そしてコンスタンティンの流刑後、人々は名を呼べなくなった代わりに彼を〈慧眼卿〉と呼んで称えるようになったのであった。

 当然〈慧眼卿〉などという王侯貴族は存在しないため、そう呼ぶのは市井の者たちだけである。


「タクティス子爵から助言を授かりまして。その内容が〈慧眼卿〉の凱旋にフロント伯爵の影あり、というものでした」


「それはどういう意味ですか?」


 シキはイルミナージェにタクティス子爵家がフロント伯爵家の指示でエンフィールド男爵家を嘘つき呼ばわりして攻撃していたこと、エンフィールド男爵家が王家の庇護下に入ったため、攻撃から懐柔への指示変更があったが無視して攻撃し続けていることを説明した。


 本当はタクティス子爵からの助言はまだリティスから聞いていないし、指示変更もリファの諜報活動の結果なので知り得ないことなのだが、説明の都合上どちらも既にタクティス子爵から聞いたことにする。


「どうやら指示変更を無視して攻撃をやめないことが、〈慧眼卿〉の凱旋にフロント伯爵の影あり、という助言と関係しているようなのですが、私にはなんのことだかわからないのです」


「……凱旋ということは叔父様を表に戻すつもり? それをフロント伯爵……第二王子派が企んでる。あれだけ叔父様を傷つけていいように使ったのに、また繰り返すだなんて許せない!」


「あの、イルミナージェ様?」


 ぶつぶつと独り言を呟きながら凄みを利かせるイルミナージェ。

 その様子に戸惑ったシキが声をかけると、彼女は我に返った。


「失礼しました。そうですね、シキ様には話しておきましょう。〈慧眼卿〉こと王弟コンスタンティンは現国王との政争に敗れ流刑されたとされていますが、実は今現在も王城内で軟禁されているのです」


「「ええっ、そうなんですかー」」


 シキもエリンも既に知っていることだが、初めて聞いたふりをする。

 二人そろって大根役者だったが、幸いにもイルミナージェは気にならなかったようだ。


「【巡礼神の加護】による未来視は貴重で強力な能力です。なので叔父様は表舞台からは消されても、その裏で利用され続けています。裏に追いやったのだって叔父様の直接の手柄になることを嫌がったからなのに、それをまた表に引きずり出そうとするなんて」


「イルミナージェ様……」


「タクティス子爵はどうやらフロント伯爵、ひいては第二王子派の暴走を止めたいようですね。エンフィールド男爵家への攻撃をやめないことで自領を巻き込んででも注目を集め、第二王子派の動向を他派閥に見張らせる意図があると思われます」


「なるほど」


「それと同時に、王族が庇護するエンフィールド男爵家を攻撃すると、どういう報いを受けるかの前例を作る役目を負うつもりですね。王族からの罰が重ければ重いほどエンフィールド男爵家を攻撃しようと思う貴族は減るでしょう。これは表の罰は重くして、裏の報酬は弾まないといけませんね」


「な、なるほど」


 相変わらずの貴族社会の回りくどさにシキは呆れてしまう。

 それと同時にタクティス子爵の意図を正確に(かどうかはわからないが)読み取るイルミナージェは、権謀術数に長ける王族の姫なのだなと関心した。


「それにしても何故タクティス子爵はそこまでしてエンフィールド男爵領を守るのでしょうか? シキ様は何か心当たりはありますか?」


 イルミナージェはプライベートの場ではシキのことを様付けで呼んでいた。

 命の恩人であることと、精霊使いとしての重要性を加味してのことだ。

 身分が遥かに上の人に敬われて居心地の悪さを感じながらシキは考える。


「理由はわからないです。じいちゃ……ロナンドとタクティス子爵は親交があったみたいなので、今度詳しく聞いておきます」


「お願いします。それとおじさ……叔父上のことは他言無用です。ですが第二王子派の動向次第ではシキ様に叔父上をエンフィールド男爵領で匿っていただくかもしれません。視察団が撤収した後の話になりますが、一度叔父上と面会しておきませんか?」


「えっ、いや、万が一匿うことになった時で構いませんよ? 〈慧眼卿〉にお会いするなんて恐れ多いですし」


「恐れ多くなんてないです! 大丈夫ですよ。叔父様は見た目は冷ややかで近寄りがたく口数も少ない方ですが、その見た目通り冷たいわけではありません。こちらの様子はしっかりと観察されていて、私のような小娘も同等に扱ってくれますし、話題を振るとちゃんと返してくださるのですよ。しかも知識が豊富なので私の知らなかった新たな発見が毎回あるんです。だからとにかく会話していて楽しいんです。それに普段から無表情なんだけど、時折優しい目つきをするの。でもその目つきになる理由がわからなくて、知りたくてずっと叔父様の顔を見ながら話したいんだけど目が合ったら恥ずかしいから横目で覗くしかなくて―――」


 暫くしゃべり続けて、ようやく周囲が沈黙していることにイルミナージェが気が付いた。

 興奮で赤みがさしていた頬が羞恥で加速する。


「と、とにかくその時は宜しくお願いいたしますわ! 失礼します」


 取り繕うように一礼してイルミナージェが退席する。

 護衛騎士のテレーズも深々と一礼してからイルミナージェを追いかけていった。


「第一王女は王弟が大好きみたいねぇ」


「そうだね……」


 エリンの感想にシキは微妙な顔をしている。

 その様子をオルティエが探るように見つめていた。

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