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91話 十三人と一人

 Break off Online のゲーム内通貨であるCRや無償、有償チップには様々な使い道がある。

 〈ガチャ〉を回したり〈ユニット転送〉といった拡張機能を購入したりする他に、〈ショップ〉という項目があった。


 〈ショップ〉ではスプリガン用は当然としてコアAI用の武装、高品質の治療薬や糧食、中型(Medium)戦術(Tactical)車両(Vehicles)といった機材、物資等が購入できる。

 Break off Online の世界観の影響で購入できる物が軍事用に偏っているが、秘密基地エアストを建設するには好都合だ。

 シキはその時のことを思い出す。






 元々この崖の中腹に洞窟などなかった。

 〈SG-068 アリエ・オービス〉の荷電粒子収束射出装置(ラプソディ)で横穴を開けたのだ。

 小型情報端末のスキャンで岩盤の強度を調査し、崩落の危険性がないことをしっかり確認してから、シキはアリエに依頼した。


『土木工事ばかりやらせてごめんね』


『シキくんの役に立てるなら全然いいのよ。何なら1kmくらい開けちゃう?』


『その1/4でいいかなあ』


 荷電粒子収束射出装置は防磁繭(ぼうじけん)という電磁フィールドによって荷電粒子を囲い、指定範囲のみ攻撃をすることが可能だ。

 崖に向かってアリエが荷電粒子収束射出装置を放つと、ぴかっと光った次の瞬間には巨大なトンネルが出来上がっていた。


 何してるんだろう? とその様子を見学していたシュヴァルツァだったが、一瞬で開いた大穴を見てぽかんとしている。

 そして荷電粒子収束射出装置が自身の吐息より遥かに高威力で、体に受ければこの岩盤のように消えてなくなると理解して青ざめた。


 なんだか毎度のようにシュヴァルツァを怖がらせてしまい、シキは申し訳ない気持ちになる。

 次回提供するご褒美(チョコレート味のシリアルバー)の量を奮発しようと決めた。

 空間が確保できたら次にすることは……。


『それでは部屋を購入して設置しましょう』


『うん?』


 オルティエが何を言っているのかいまいちわからないシキであったが、言われた通りに〈ショップ〉で〈談話室〉を購入する。

 するとシキの視界に四角形の巨大なワイヤーフレームが表示された。


 どうやらこのフレームは購入した〈談話室〉と同じサイズのようで、動かして設置場所の目印にするようだ。

 フレームをトンネルの壁際に合わせてから拡張画面の〈設置〉ボタンを押すと、フレームの位置通りにプレハブのような〈談話室〉が出現する。


 見た目はプレハブっぽかったが外壁や扉はしっかりとした作りだ。

 中に入ると事務用の椅子とテーブルがずらりと並んでいた。


『おお……いきなり Break off Online が箱庭ゲーム(ミニスケープ)みたいになったな』


『この調子でどんどんいきましょう』


 オルティエの助言に従ってトンネル内に兵舎や指令室、補給倉庫、貯水庫といった部屋の他に空調、排気・排水機構、照明や発電施設などを配置する。

 水や発電に必要な謎の燃料もCRで購入可能なので、エネルギー枯渇の心配はない。


 最後に入口を開閉式の隔壁で塞げば、あっという間にシキの前世より快適な空間ができあがった。

 個室はスプリガン十三名と自分の分、それと予定はないが来客用も含めて二十部屋を用意してある。


『じいちゃんや母様を招待したいけど、ここまでの往復がしんどいしなぁ。かといってここより人目に付く場所には作れないし』


『拡張機能の〈パイロット登録〉を使えばお二人もスプリガンに搭乗可能になりますよ』


『うーん、だけどグレード2だから無償チップを消費しちゃうんだよね。チップは有限だから申し訳ないけど保留かな』






 シキが秘密基地エアストに入ると、照明が一斉に点灯して周囲が明るくなった。

 そこはエントランスで、真正面にある扉の先の食堂にコアAI全員を転送してある。

 シキが食堂に近づくと扉が開いてオルティエが出迎えてくれた。


『マスター、どうぞお入りください』


 雑談していたコアAIたちが一斉にこちらを向くと、各々の呼び方でシキのことを呼んだ。

 多種多様な美しい女性たちが親愛の眼差しを向けてくる。


『おお……なんか感無量だ』


『ご主人様! こちらへどうぞ』


『飲み物を用意してある』


 シアニスとプリマに両手を引っ張られて食堂の中央に行くと、ルミナが赤紫の液体が入ったグラスを渡してきた。


『旦那様、グレープジュースをどうぞ。大人の人たちは赤ワインです』


 エアストには糧食の他にこの世界の食料も持ち込んであるので、非番のコアAIは自由に料理を作って楽しむこともできた。

 既に全員にグラスが行き渡っていて、シキの発言を待っている。

 乾杯の音頭待ちというやつだ。


『えーっと、スプリガンの皆には332年間お世話になった。ありがとう。ロナンドじいちゃんやその先代たちに代わって、いや、改めて礼を言わせて欲しい。これからは皆の意思や意見を尊重して、俺に出来ることならなんでもするから遠慮なく言ってくれ。それじゃあ乾杯!』


『『『乾杯!』』』


 全員集合するのは初めてなので、コアAI同士も楽しそうに会話している。

 本当に〈ユニット転送〉を実装して良かったなぁとしみじみ思うシキであった。

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